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第37話:突撃方法

 次に案内されたのは森の近くにある小さな集落を見渡せる場所……森の木の上だった。


 集落は依頼で一度訪れた覚えもあった。

 表面上はどこにでもあるような穏やかな村。

 特に特産品はなく、食事処も宿泊する施設も提供する者もいない、静かに余所者を拒絶する空気があったのをレイアは覚えていた。


 現在、村には軍が詰めているのが見える。

 旗に描かれている鷲の紋章、王直属の近衛師団、探すまでもない王もあそこにいるだろう。


「先の連中よりは硬いと思うけど、まぁこちら側からすれば大差はない。さっきは戦闘力に全振りしてたのを防御に回せば攻撃力落とせると思うよ」

「おう」


 言われるがまま先ほどやった流れを攻撃力ではなく防御力に回す。

 お決まりの呪文がないのは多分、多分と言うか間違いなく刀鬼の力の影響だろう。

 イメージで力を動かせるのはレイアにとってはありがたかった。


「あとはそうだね、風に乗って走ればやり辛さから少し動き鈍くなるんじゃない?」


 簡単に言う刀鬼に眉間に皺が寄る。


「んなもんどうやってやるんだよ」

「やれば出来るんじゃないの?」


 小首を傾げられても可愛くない。

 むしろイラっと来る。


 何をしても殴りたい。

 もはやレイアにとって刀鬼はとりあえず殴る対象だった。


(天才型か、天才ってやつは自分が出来て当たり前らしいからな、過程を説明するのが下手なんだろうな。強い酒飲みたくなってきた)


 もしこれがギルならば……と考えようとしてレイアは思考を中断した。

 誰にも頼らずに生きてきたはずなのに、たった一日、ギルに至っては出会って一日すら経っていないのに、自然と彼ならどうするかと考えた自分に叫んで走りだしたくなった。


「刀鬼、人の子に無茶を言うな、口で言って出来たら誰も苦労しない」


 黒いもや――黒曜と言うらしい――がまともな事を言った。


「え、あれって誰でも出来るんじゃないの?」

「無理だ」

「無理に決まってんだろ」


 どうやら刀鬼は最初から出来たらしい。


「もう走るの諦めて歩くとか」


 歩きながら近付く不審者を攻撃する近衛兵、腕を振るだけで屠りながら近付く全身鎧、血塗れになりながら近付く死。


「ちょっとしたホラーかなぁ」

「背後から急襲とかはどうよ」

「戦力差を考えてよ、また突撃一回で終わっちゃうよ」

「弱いあいつ等が悪い」

「正面から行って認識させれば、回避とか防御とかしてくれるから、少しぐらいもつでしょ?」

「お前にしては賢いな!」


 例えそこにある差が焼き立てのパンか、安物の硬いパンかの差しかなくとも、結局一撃で終わるならば少しでも長く楽しみたい。


「近衛兵かー、前に聞いた話だと何か厄介な能力持ちだった気がするんだが――今の私にも有効かは微妙だなぁ」

「なにそれ、危険なの?」


 眉間に皺をよせた刀鬼の問いに首を捻る。


「確か――えーっと、そうそう、持っている武器が聖属性で、特定の陣形をとることで魔法陣発動するって噂、あと王を守るため個人個人も聖属性持ちで、対魔物対策だと言われてる」

「恐らく過去の英雄の技を引き継いでいる形、相手は所詮人間、力技で押せる」

「と、黒曜が言ってるから大丈夫」


 策を練る時間も必要もない。

 力の差は歴然、最悪初回と同じく攻撃力に全振りして突撃すれば終わりだ。


 ふと村の様子がおかしい事に気付いた。

 目視したわけではない、何となくそんな空気を感じたのだ。


「あ、オイちょっとなんか村の様子がおかしいぞ」

「え? あーあーあーあーあ、行っていいよ! 早くしないとレイアの獲物がなくなる!」

「行ってくる!」


 歩きながら接近案はなくなった。

 ならば――


「突撃ぃぃ!」


 真正面から突撃しかあるまい。





「黒曜は援護お願いね」

「うむ」

ちなみに、「へーんしん☆」みたいな事ももちろん出来ます。

レイアは決してやらないし、万が一やったとして目撃者がいた場合、多分死人が出るでしょう。

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