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第36話:運命の日

 かつて女でありながら身を戦場に置き、ただひたすら妹のために金と力を求め続けた女がいた。

 後に彼女は戦乙女と呼ばれ、新王国の守護神として広く民に崇拝される事になる。




 女の妹は人目を惹く容姿をしており、信心深き両親の手により教会に捧げられた。

 この娘は聖女として名を馳せるでしょう、貴方たちは尊き行いをしたのですよ、と枢機卿から直々に言葉をもらい――その晩、怒り狂った女に殺された。


 聖女は美しい『少女』が指名される。

 綺麗な礼服を着せ、礼拝の日に民の前で祈らせれば信者が金を落とす。

 夜は大金を払えばその身を独占できる――つまりはそういう存在。

 

 聖女として指名されれば妹が穢される。

 時間がない。

 国を捨てる事を決意した。妹と共に逃げる資金ならあった。



 運命の日


 決死の覚悟で教会に突撃すれば、そこに居たのはやたらに綺麗な男と聖女の服を着た妹。

 男に連れられ姉妹は最果ての修道院へと身を寄せた。


 二人を匿う条件はどちらかが男の友人の妻になる事。

 聖女として教会に売られるほど容姿が美しい娘と平凡な顔立ちの泥と血に汚れた女、地位のある者の妻になるならばどちらが相応しいかなど考えるまでもなかったはず。

 けれど男が友人の妻にと強く推薦したのは血塗れの姉の方だった。


 祝福と護衛を与えられ、戸惑いを振り払うため外の空気を吸いに行った先で運命は交差する。

 女は純血種の吸血鬼と出会い、空腹を訴える相手に自らの血を与えた。


 嫁候補として引き合わされる予定の相手だったと、互いがようやく知ったのは宴の最中。

 運命の相手と思っていた相手が用意されたものと知り、嫌悪で熱が冷めるかと思いきや、瞳を赤く燃え上がらせやはり運命だったのですねと叫ぶや否やその場で女を押し倒し――羞恥に真っ赤になった女に頭突きを喰らっていた。



 そんな怒涛の一日を乗り越え、魔物の王の嫁となった女は今、色々な八つ当たりとうっ憤晴らしを兼ね戦場に立っていた。

 光の精霊の力を丸ごと全身鎧に宿し、両手に持つ斧にも力を流し込み、人間相手には過剰戦力とも言える力を最大にして正規兵に突撃した。

 





 轟音と同時に隊列の一部が吹っ飛ぶ。

 

 村人を小突きながらへらへらと笑っていた同僚の頭半分が消え、遅れてべちゃりと嫌な音を立てて顔面が赤く染まった。


 悲鳴を上げる暇もなく全ては終わった。


「あちゃー、奴隷まで巻き添えにしちまったか」

「まぁ最前線にいたからねぇ」


 苦笑いしながら近付いてきた男の背後には魔物の群れが続いていた。

 どうやら守ってくれたらしい。


 斧を一振りする暇すらなく、突進一回で全滅させてしまった事に不満が残る。

 何もすっきりしていない。

 力の流れは制御したが身体能力の上昇は計算に入れていなかった。

 ちょっと助走をつけただけのはずだったのに、気付いたら正規兵の隊列を横断し風圧だけで全て終わらせる結果となってしまった。


「足りねぇ」

「まぁちょっと地面蹴っただけだったからねぇ」


 笑いながら刀鬼が魔物の群れに向かって手をかざす。

 メキメキと音を立てながら魔物達の身体が変形してゆく。


「強制進化、めでたしめでたし」

「……よーし次連れてけ」


 レイアは昨日一日で刀鬼に対するツッコミをほぼ諦めていた。

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