第34話:崩壊
古くからあるその村は、魔物が住む森が近いせいもあり、人と魔物が絆を結ぶよりも前から魔物との交流があった。
世間では忌み子と呼ばれる混血児も普通に生まれ、人の中で人と変わらぬ暮らしをしていた。
古の頃から血が混ざっており、時折生まれる魔物の姿の赤子は先祖返りと呼ばれ、万が一の事が起らぬようきちんと人の姿が取れるようになるまで家の中で隠される。
静かに生きてきた彼らの中に、ある日一人の男子が生まれた。
雪の様に白い肌を持つ白銀の子。
別の世界から渡ってきた純血種ではない、この世界で生まれ育ち、生きてきた数多の魔物の血が混ざり、奇跡的な確率で生まれた世界が作った新たな血統の魔物。
人の形をしながら抑えきれぬ邪気を持つ赤子。
他の地で生まれたなら両親ともども闇に葬られただろう。
しかし彼は生まれる場所を違える事無く、両親も村人も奇異な赤子の育て方を間違える事はなかった。
彼の邪気は村人に向けられる事は不思議となく、雪の降る季節とともに少しずつ成長していった。
彼が何より愛したのは母が命と引き換えに生んだ年の離れた妹。
父は、母が亡くなった翌年、眠るように息を引き取った。
春の穏やかさを持つ美しい妹を彼は誰より大切にし、言い寄ろうとする男は片っ端から蹴散らしていた。
そんな光景を微笑ましそうに見守りながら、静かに、時に笑い声も混じって日々は過ぎていた――兵士が村に出入りし、混血児達を有無を言わせず連れて行くようになるあの日までは。
逆らった家族はその場で殺された。
両親の亡骸に縋る事も出来ず、無理矢理連れて行かれる子供達。
なぜ突然――混乱する村人たちは気付かなかった。兵士の影に隠れるように立っていた行商人の姿に、彼は森の奥にある村出身の青年だった。
特異な村で育った青年は一目見てこの村に混血児がいる事を見抜き、そして最悪な事に青年は知っていた混血児が『売れる事』を。
青年の狂暴さが牙を剥きそうになったが、泣きながら震える妹の存在がそれを抑えた。
だがこのままではいずれ自分や妹も……ある晩、青年は一つの決意を胸に村を出る。
数多の人間の命と引き換えに力を得、魔物の王となり国を滅ぼす。
震えて怯えているだけでは誰も助けてはくれない、ならば自分が王となり、支配する側になろう。
一人修羅になる道を選んだ兄に、妹は泣き崩れ、村人達は自分達の命と引き換えにしてでも彼の妹を守ろうと決意した。
しかし――
「何を、している」
兄妹は最悪な形で再会を果たした。
兄は力を手に入れ、あと少しの所で邪魔が入り片腕を失ってしまった。
朽ちるならばせめて最後に一目妹に会いたい、そう願って村に戻れば、最愛の妹は冷たくなっていた。
泣きながら謝る村人の声が耳に入ってこない。
ダレダ
ぞわりと内の闇が蠢く。
ダレガオレノ……
闇が心を侵食する。
止める女はもういない――。
慟哭が村中に響いた。
村人Aさん大活躍(ダメな方向で)




