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第33話:喪失

 はらはらと雪が舞う。

 里に、山に降り積もる。


 出陣した王は魔物の根城だと教えられた村を目指したが、強力な結界に阻まれて前に進むことが出来ないでいた。

 結界を破ろうと幾人もの術者を使ったが、術を発動させた瞬間、森の影から湧き出た闇が彼らの力を奪い取り、術者は一瞬にして只人となってしまう。

 ならば先に闇を押さえつけようと試みたが、挑んだ者は全て闇に喰われた。


 こちらが何もしなければ闇も何もしない。

 手で触れる事さえ出来る。

 闇の先に何かがあるのは確かだろう、だが前に進む事が出来ない。


 闇はゆるりと成長していた。

 じわりじわりと広がり、王の隊を山から追い出した。


 山から追い出された王と兵隊らは、麓にあった小さな村に今は陣を置いている。

 弱き村人が怒りをまとった王に逆らえるわけもなく、貴重な食料を奪われても文句一つ言えず、村をうろつく兵に日々怯えていた。



 そんな毎日がどのくらい続いただろうか、ある日王が一人の村娘に目を付けた。


 清廉な雰囲気の美しい娘――結界を打ち壊す事も出来ず、このままでは先祖の名を穢してしまう、そんな思いに怯え、獰猛になっていた王の前に現れた獲物。

 あれを征服する事が出来たなら、餓えも多少収まる事だろう。何でも手に入れてきた王は村人に娘を差し出すよう要求した。


 だが村人は否と首を振った。

 食料を奪われても、村の大半を占領されても、理不尽な怒りをぶつけられても反抗をしなかった村人が初めて抗ったのだ。

 怒りに震える王が剣を抜いて喚いても、村人は顔色一つ変えず娘は渡せぬと、頑として娘を引き渡そうとはしなかった。


 そんなやり取りが繰り返さていたある日、とうとう王の怒りが頂点に達し、剣先が村人の命を奪う為振り上げられた。が――剣が貫いたのは村人を庇った娘の胸だった。


 上がる悲鳴。


 壊せぬ結界、手に入らぬ娘、全ての苛立ちを娘の命と引き換えに晴らした王は、ふんと鼻息一つ吐いてさっさと村人に背を向けた。


 馬鹿な娘だ。兵の誰かが呟いた。


 空も地面も白い朝、娘の亡骸は棺に納められ、厳かな雰囲気の中葬儀が執り行われた。


「何を、している」


 響いた昏い声に蒼白になった村人が振り返る。

 そこに立っていたのは片腕を失った白き青年――娘の兄だった。


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