第32話:不公平な神様
突然現れた謎の男――恐らくは翁達が言っていた『神の御使い』、彼によって私は疫病から解放され、死の床から抜け出す事が出来た。
去り際に彼が置いていったのは、炎の如く紅い髪を持つ男。
名を『春日』と言い、彼の従者らしい。
春日様は自分を『蘇生神』、つまり死者を蘇らせる事が出来る者だと言った。
ならば神を従えるあの男は一体何者なのだろうか。
驚きに声を無くした王子に対し、春日はいい天気だなぁと思いながら窓の外を眺めていた。
刀鬼が力の暴走で姿を消してからずっと、探しに行こうと半狂乱になる刀鬼の父を一人で抑え込んでいた。
刀鬼が春日を呼び出す事は出来ても春日が刀鬼を呼び出す事は出来ない。
泣きたいのはこっちだと愚痴り、最後には慰められていた気がする。
昨日ようやく居場所を告げられ迎えに来ることが出来た。
連れて来ようかと悩んだが、刀鬼を引き留めるこの世界ごと消し去りそうな勢いだったので置いてきた。
あの親ばかなら本当にやりそうだから。
ようやく呼び出されてみれば何やら血生臭い事態になっていたが、そんな事はどうでもいい、いつもの事だ問題はないし、異世界の人間がどうなろうが心底関係ない。
とにかくこの事態を収束させ、刀鬼を無事連れて帰るのが自分の役目だと春日は思っている。
「弟を、生き返らせる事は出来ないのか?」
か細い声にそう言えば人間がいたんだっけと、ようやく王子の存在を思い出す。
「命じられてない、主の計画に不要な人間だったんだろ」
「必要か不必要かなど、人が決める事ではない」
「刀鬼は特別」
こちらの世界では無名でも、元の世界に帰れば名を知らぬ者はいないほど自分達は有名だ。
義父である珱は五勇者あるいは九龍、ゼノスは伝説の三大龍、春日は蘇生神、伝説あるいは神話で語られる存在。
そんな自分達の加護と愛情を一身に受ける刀鬼は、今でこそ無名だがきっといつか知らぬ者はいないほど大きな存在となるだろう。
落ちた先の異世界で短期間でここまで引っかき回すのだから、自分の意思であちこち行けるようになったらどうなる事か。
覚悟をすべきは刀鬼でなく振り回される側の春日達だ。
(会った事ないけど、領主様――本当にうちの子がごめん)
運命の悪戯で刀鬼はこの世界に転移した。
落ちた先に領主がいて、恩返しをしたくて国を一つ落とすことにしたらしく、簡単なやり方を聞かれたが「燃やせばいいじゃねぇの?」と返せば「ただの虐殺だって怒られた」と残念そうに呟いていた。
主に説教するとはなかなか度胸がある。
腕っぷしも良いならば加護を与えて仲間として迎えたいところだ。
(もっと簡単な方法か~、この世界を管理している神がいれば、そいつに命じて献上させればいいんだけど――あ~気配感じねぇな)
最短で事を済ませ帰らねば、無事を知った過保護な保護者が乗り込んできかねない。
(ん? そう言えば死の精霊がなんか進化してたな、あれ使えそうだな、提案してみよう)
いつも三匹でわさわさしていたのが、若干不安定ではあるものの一匹だけになって力もグレードアップしていた。
暴走する力を喰らって抑える手伝いをした、刀鬼を守り抜いたと誇らしそうに胸を張っていた。刀鬼の力を喰っていたのなら進化の要因は間違いなくそれだ。
(成長した姿、早く珱に見せてやりたいな)
長い長い時をかけてようやく成長した主、けれどまだ足りない。
ようやく迎えた青年期、成人になるにはもう少し時間がかかりそうだ。
保護者紹介
1.パパさん:刀鬼のためなら世界の一つや二つ壊すのも造るのも朝飯前
2.春日:面倒が嫌い、適当で緩い、刀鬼がシリアス継続できない原因
3.ゼノス:大抵の事は燃やして解決できると思ってるのはこいつのせい
三人合わせて親ばかトリオって呼ばれている(黒曜に)
4.黒曜:親ばかトリオに比べれば良心的なだけで命を刈り取ることに抵抗はない
結論:命の尊さを重んじる保護者が一人もいない




