第27話:入れ知恵
魔物も混血児達もみな修道院に入ってゆく、獣の姿では宴は楽しめまいと聖堂に入る際に人化の術をかけてやれば大喜びされ、刀鬼はあっという間に彼らに馴染んだ。
人数が多いから大聖堂で宴をやればいいと提案し、力を使って椅子を片付け、宴のためにテーブルや酒を出せば胴上げをされる勢いで聖人の如く讃えられた。
料理は用意出来なかったが、そのぐらいはと婆様を筆頭に女性陣が厨房に走った。
主賓の座る場所は祭壇があった場所。
席は一つしか用意しなかった。
「いや、おかしいだろ」
分かっているなと呟いたギルバートが当たり前のようにレイアを横抱きにして席へと移動する。所謂お姫様抱っこと言われているやつだ。レイアが何か文句を言っているが聞こえないふりをする男ども。
レイアの座る場所はもちろんギルバートの膝の上。
元凶である刀鬼に殴りかかろうとしたが場所が悪かった、腰をがっちり抱きこまれ時折いたずらに動く事はあれど離れる気配は一切ない。
宴を楽しむためにもここらでもう少しレイアを疲弊させ安全を確保しよう、思いついた刀鬼がニヤリと笑みを浮かべればレイアは無意識にギルバートの袖を掴んでいた。
「あのねぇギル、良い事を教えよう」
「やめろ、聞くなこいつの話はろくな事がない」
「俺の知っている世界では花嫁は真っ白なドレスを着るんだけど、白には『あなたの色に染まります』って言う意味があるんだぜ」
「私の色に染まる……」
目を細めうっとりと花嫁の唇をなぞる。
「結婚式で定番なのが指輪の交換」
「ふむ、用意しよう」
「皆の前で誓いのキスをしたり」
「ほほぅ」
「夫婦となった二人が行く旅――その名も新婚旅行」
「も、もう、やめ」
「夜には……どの世界でも共通する夫婦の儀式」
「素晴らしい文化だな」
「もうお前ら黙れよぉ」
「泣き顔も美しい」
「泣いてねぇけどな!」
羞恥から顔を覆ってしまったレイアの目尻にキスが落とされる。
「ドレスを俺が出すのは簡単だけどね、ギルは自分で用意したいんじゃない?」
「当然だ」
「指輪も?」
「そちらは魔力で作る。やった事はないが問題ない」
サイズを測るためと言いながら真顔で指を絡ませている。
この時点でレイアの魂は半分口から出ていた。
「レイア王妃殿下は着飾った事ないだろうねぇ」
「っぐ、悪かったな」
この国で宝石やドレスをまとえるのは上流貴族ぐらい、一般市民などの婚姻では花嫁はいつもより少しいい服を着て、道端にあるような花で作られた花冠をかぶるのがせいぜいだ。
「そんなレイアが初めて着飾るのが一生に一度しかない結婚式、ギルバートのためだけに特別な衣装を着る――ロマンチックだと思わない?」
「一生に一度、私のため、だけに」
正直な話、血塗れの戦いの中で生きてきたが、綺麗な事に憧れていた時期はあった。
今はもう諦めただけで死の憂いなく笑いたいと幾度思った事か。
花嫁姿に憧れない娘はいない、どうせ似合わないと自嘲しても憧れは心の底に残っている。
(私も、着て、いいのか?)
華やかな衣装など一生縁がないと思っていた。
綺麗なものは全て妹のためにあるのだと、今でも思っている。
「ギル」
(幸せにしてあげてね)
「ああ」
(言われずとも)
悪態も付かず、瞳を揺らすレイアに二人は静かに頷いた。
なんだかギル、性格変わった挙句エロ親父っぽくなった気がする




