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第26話:スノーホワイト

「いや、うん、結果オーライだけどね! 危ないから! 気絶するほど血を飲んじゃだめだろ!」

「これは、多分血飲んだのが原因ではない。……それに、君は誰だ」

「この姿で会うのは初めてですね、どうも刀鬼ですよ! その節はお世話になりました! お礼がてら嫁候補を用意したのでお選びくださいよこんちくしょう!」

「伴侶は自分で選ぶので結構です、子供の時の方は可愛かったのですが、ね」

「骨の髄まで子供好きかよ」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ男らの声にふと意識が浮上する。


「あ、起きた」

「大丈夫ですか?」

「……え、なに? 露骨に態度違ってない?」

「……」


 ぼんやりとする頭を動かし前後の記憶を思い出す。


(確か、具合の悪そうな色男がいて、声をかけて、血を、血を、の、、、、)


 首筋を滑った冷たい指先。

 肌に感じた唇と奔った痛み。

 暴れて状況から逃れようとしたが意外に力強い腕がそれを許してくれなくて。

 最後の記憶は何かに舐められた感覚。


 ギギギギと音がしそうな動きで上を見れば倒れる原因になった色男。

 目が合えば胸やけがしそうなほど甘ったるい瞳で微笑み、レイアの額に唇を一つ落とした。


「ぎ」

「ぎ?」

「ぎゃぁぁぁあああああああああ!!!!」

「うおおお、あっぶなぁぁ!!」


 繰り出された右ストレートを軽やかに避けた刀鬼がなんで俺をと抗議している。


「前ならともかく、今の君に殴られたいくら俺でも無傷は無理だからね!」

「お前が悪い、全部お前が悪い!」

「ギル、離すなよ、絶対腕から出すなよ!」

「は?」


 混乱の極みだったのだろう、今の今まで、というより額にっちゅとされた時点で気付かなかったのが不思議なのだが……レイアはギルバートの腕の中で横抱きにされていた。


 こうなったのも刀鬼のせいだわ、うん、殴ろう、殴ってこの場から逃げよう。


 決意して拳に力を込めたが……


「離してくれねぇかな」


 声をかければ離すどころか腕に力を込めさらに体を密着させられた。


「我が一族は伴侶となる者に贄を捧げるのが求婚であり贄を喰らえば求婚を受け入れたとされ婚姻の儀が成れば伴侶として成立するという文献を読んだことがある気がします今回は貴女自身が贄という解釈をすれば私はそれを受け入れましたどうか私と結婚してください」


「……はい?」


「婚儀は成立いたしました。これで私達は晴れて夫婦です」


「…………はい?」


 呆然とするレイアを労わるように雪が空から舞い降りる。


『婚儀は成った』

『王と王妃が誕生した』


 壁の向こうでは霧の中から姿を現した魔物達が、聖堂前には修道士を始めとした者たちが地に膝をつき、頭を垂れた。


「これより我らの命は貴方のもの」

「どうぞお好きにお使いください」


 膝を付き、忠誠を誓った者達にギルが口元に笑みを浮かべた。



 刀鬼に同情されるような瞳で見られていたのが無性に腹が立ったと後にレイアは語った。

書き直しによる弊害その2:ギルバートが性格だけでなく、嫁まで変更された。

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