第23話:視えるようになりました
修道院に暮らすのは魔物と人間の混血児と元奴隷の者が少々。
半魔の者達にとってギルバートは自分達を世間の目から隠すだけでなく、生きてゆくのに困らぬように支援し続けてくれている大恩ある人物。
助けてもらうばかりで恩を返したくても、一歩外に出れば欲深き人間ばかり。
戦う力があるのは一部だけ。
国をひっくり返すほどの勢力はなく。
箱庭の中で家族と呼べる者たちと肩を寄せ合い、ギルバートの幸福を願うぐらいしか出来る事はなかった。
領主様の昔話も重かったが、彼が救った修道士たちの過去も暗い、出生や出身を考えると現状は幸せと言えよう、しかし恩を返せないもどかしさを嘆く彼らの気持ちも多少理解できた。
恩を返そうと動けば領主に迷惑がかかるのは彼らもわかっているのだろう。
同情はする。
理解も出来なくもない。
元々情に厚いところがあるレイアだったが、彼らを助ける手助けをするためなら男の手の上で踊ってもいいと思う程度には絆されかけている。
一つ問題があるとすればレイアの性質。
「なぁ席外してもいーか?」
「飽きちゃった?」
「まぁ」
男の問いに苦笑いを返す。
命を削るような毎日を送ってきたレイアにとって、周囲を警戒しなくて良いという現状は逆に慣れなくて落ち着かないものだった。
単にじっとしているのに飽きた。というのもあるが。
「世話になるなら間取りを把握しておきたい」
「案内を」
「一人で大丈夫だ――あ、そうだ……ええと」
嫌味を込めて御使いと呼ぶべきか、きらきら具合に合わせて金色の騎士と呼ぶべきか、オイとかお前とか呼ぶには少々親しみを覚えすぎた。
「刀鬼だよ」
柔らかな笑みとともに名を教えられ、一つ頷きを返す。
「刀鬼、この全身鎧どうやって脱ぐんだ?」
「適当に着脱イメージの言葉言ってみて」
「『removable』」
言葉と同時に元の愛用装備に戻る。
ただし血や汚れはなく新品同様に輝いているうえ、性能が露骨に向上している気がした。
「光の精霊と武器の使用法も同じような感じでいけるよ」
「すっげぇぇ適当だな」
「何せ俺、基本的な魔法の概念とか知らないからね、イメージ重視になるんだよ」
「イメージで魔法使えるとかすげぇな、魔法かどうかも怪しいけど」
「慣れれば呪文もいらないかも」
「了解」
ふと刀鬼の後ろに目線をやると黒いローブをまとったのが手を振っていた。
なんとなく手を振り返してからレイアは部屋を後にした。
「あー……俺の力の影響かぁ、黒曜の事見えるようになったんだね~」
扉が閉まる寸前、そんな呟きが聞こえた。




