第21話:嵐の前夜
大聖堂、その奥まった部屋に7人の聖者が集っていた。
額を合わせ、ぼそぼそと言葉を交わす。
「欠片が消えた」
「聖女と崇められていた者も全て」
「神の御使いが連れて行った」
最初は神の御使いだと信じていた。
けれど聖女が連れて行かれた背後では、表に出さず存在を隠し、幽閉していた『欠片』がさらわれていた。
遥か昔、純血種が産み落とした双子の片割れ、最後の純血種その欠片。
御使いが聖女を連れて行った騒動の処理で、欠片が連れ去られた事に気付くのが遅れてしまい、完全に出遅れた形となった。
人々は神の御使いの存在を信じ、聖女は神に捧げられたのだと思っている。
今更これを覆すのは難しいだろう。
下手に偽物だと言っても、人々はあの壮麗な騎士を信じる可能性があり、偽物だと声を上げた者の信心を疑いだす。
魔物と対立している。それだけで自分達の味方だと信じてしまったのだ。
絵巻物に描かれているような美しい容姿、光をまとった翼、優雅な仕草と魔物を一太刀のもとに排除する圧倒的な強さ、全ては整えられた舞台での一幕。
「ミサの最中に王女をさらったのも、神の御使いと信じさせる演出」
王女が連れて行かれた事により王は酷く嘆いた。
けれど相手が神の御使いでは手出しが出来ない、剣を向ければ人々から信心を疑われてしまう、魔物として広めるには相手の活動が派手すぎた。
「王は収まらない」
「怒りの矛先を探しておいでだ」
「王子は?」
「悲しみに臥せった――という事にしてある」
「疫病に罹って隔離してあるとは言えまい」
「去ったはずの疫病」
「奪われた欠片と聖女の姫」
「御使い……あれの狙いは純血種の復活」
嵐が来る。誰かが呟いた。