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第2話:それがお前の正体か

 子供は自分達が着替えさせるので、領主様もどうぞお着替えくださいと言われたので、言葉に甘えてシャワーを浴び、手早く着替える。


 不可思議な少年、どうも一筋縄ではいかない気がした。

 濡れた髪をそのままに少年がいるはずの客室へ入れば案の定、村人が心底困った表情で領主を振り返った。

 聞けばどうやら少年に触れなくなったらしい。

 客室に連れて来てベッドに寝かせたまでは良かったが、汚れた服を着替えさせようと手を伸ばしたら弾かれたという。


「……」


 何となく予想はしていた。

 あの異常な陥没を見た時から。


(この少年は人外の力を持っている)


 村人に危害を加えるかどうかまではまだ判断が付かない、閉鎖的な村ではあるが、領主に絶対の信頼を寄せており、領主の意に反して少年を追い出す事はしないが、言い換えれば領主の言葉一つで少年の命運が決まる。


「お前達は家に帰りなさい、この子の面倒は私が見よう」

「し、しかし」

「大丈夫、悪い子ではないと思う」


 短いやり取りではあるが悪意は感じなかった。

 心配する村人を何とか言いくるめ日常へと帰す。


「さて」


 客室に戻れば少年は相変わらずすやすやと眠っていた。

 村人が持ってきたのだろう子供服を手に取り少年に近付く。

 ベッドに腰掛けても弾かれる様子は無い。

 手を伸ばせば弾かれず頬に触れる事が出来た。


「……」


 ベッド脇に置かれた小さな桶に手を伸ばし、濡れた布を手に取る。

 絞った布で優しく少年の顔を拭く、次に髪、手先、手馴れた動作で泥を落とし、服を脱がせようとして気付いた。


「縫い目が、ない」


 どう見ても手作りに見える服なのに、縫い目がどこにもなかった。


(後にしよう)


 小さい事を気にしていたらいつまで経っても終わらない、縫い目の事は置いといて、手早く服を脱がせると、用意された服に着替えさせる。

 散々触られたというのに起きる気配はなく、気持ち良さそうに眠り続けている姿は無害にしか見えないが油断は出来ない。

 布団をかけ、汚れた服を桶に入れるとそっと部屋を出た。


(朝から疲れた)


 思えば日課の紅茶も飲んでない。

 どうせ暫く起きないだろうと、紅茶を飲む事にした領主はさっそくキッチンへと足を向けた。




 午後は陥没をどう処理するかを村人と話し合った。

 穴を埋めるのは時間がかかりそうだし、いっそ水を溜めて池にでもしようかという意見が出た所で今日は解散となった。


 館に戻り、少年を見ていた村人に礼を言って家に帰す。

 領主の外出中も一度も起きなかったらしい少年は、夜になっても目を覚まさず、軽い夕食をとった後、領主は少年の眠るベッドの横に座っていた。


 少年の額には濡れた布が置かれている。

 夜になって熱が出たのだ。


 看病は慣れていないが初めてではない、どうせ眠らずとも支障はない身体、一晩中付き添うつもりだった。が、……慣れない肉体労働をしたせいだろう、椅子に座ったまま眠ってしまった。


 夜中にふと目を覚ますと、ベッドに少年の姿がなかった。

 開け放たれた窓に気付き駆け寄ると、村に向かって走る小さな影が一つ。


「っち」


 窓に足をかけ、勢い良く窓から飛び出す。

 二階だったにも関わらず、領主は軽やかな動作で地面に着地した。


 鋭い視線が村に向かう影を捉える。

 夜目が利く自分をこんな時はありがたく思う。

 音もなく走り出し、影の後を追って村へと向かった。

 村人達になにかあったら後悔してもしきれない。


(どこだ)


 闇の中、目を凝らして少年の姿を探す。

 神経を全開にして耳を澄ましても、足音一つ聞こえてこない。

 聞こえるのは虫の鳴き声だけ。


(どこだ)


 焦る心を抑え、頭を必死になって動かす。


(……もしかして)


 逸りそうになる気を抑え気配を消して目的地に足を向ける。

 小さな村に起きた非日常、その発生源。


(いた)


 陥没した地面の手前に探していた少年はいた。


(何を、している?)


 地面に片膝を付き、片手で地面に触れながら何か呟いている。

 声は小さかったが領主の耳には確かに聞こえた。

 少年は大地に語りかけていた。


「俺を受け止めてくれてありがとう、お陰で怪我をしないですんだよ」


 表情は見えないが、とても優しい声だった。

 慈しむように大地を撫で、労をねぎらう、人に対するそれと同じように。


「お礼に俺の力を少し受け取って」


 掌が淡く光を発し、大地に浸透してゆく。

 穴の周囲に光が走り、ぐるりと穴を取り囲んだ。


「さぁ大地の精霊、君の力を見せてくれ」


 少年の声に応えるように、大地が光を発した。

 眩い光が周囲を包んだのはほんの一瞬で、次に目を開けた時には大地はすっかり元の平地に戻っていた。


「うん、ありがとう」


 礼を言えば一瞬地面が光り、それきり大地はただの地面に戻った。


「これで、いい……」


 ぐらりと少年の身体が傾く。


「!」


 隠れていた事も忘れ慌てて駆け寄り身体を受け止める。

 顔を覗き込めば不思議そうな『金色の瞳』が領主を見上げていた。


「あ、れ? アンタ……はは、そうか」


 一人納得して笑ったと思ったら、領主にもたれ抱える形で意識を失った。


「熱が上がっている」


 さっきより高い気がした。

 子供の高熱は命取りになる場合もある。

 少年を抱き上げると、領主は急ぎ館へと戻っていった。








 闇を走る領主の瞳は紅く光っていた。

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