第13話:綻ぶ闇
力が安定してからと言うもの、少年はよく村から姿を消した。
白い魔物に狙われていると何度言っても聞かず、供すら付けずに早朝になれば姿を消している。
戻るのは深夜、必ず血の臭いがした。
一度理由を問うた事はあるのだが、決して口を割る事はなく、翌日からはどこかで水を浴び、血の臭いを消してから戻るようになった。
血が魔物のものなのか、それとも人間のものなのか判断できなかったのは、もしかしたら両方が混ざっていたせいかもしれない。
血の臭いを嗅ぐたびに酷い飢餓に襲われ、自分が餓えているのだと自覚する。
「――っ!!!」
真夜中、突然口の中に異物を詰め込まれ、目を覚ました。
「……」
月明かり一つない暗闇の中、無表情の少年と目が合う。
何をするのだと、抵抗しようとして、くらりと眩暈に襲われた。
口の中に広がるのは甘美な味。
恐らく、それに牙を立てたのは本能だろう。
こくりと喉を上下させるたび、心臓が鼓動し力が戻る感覚。
いけないと、これ以上は駄目だと思いつつ、本能のままに『餌』を貪り食う。
暗闇の中、ゆらりと影が動いた。
刹那、少年の手の中にあったそれは崩れ落ち、跡形もなく消えた。
「もういいよ」
小さく少年が言うと、視界の両端で影が動く。
闇の中にゆらめく影が3つ。
闇を見る瞳に映らぬ影。
「寝なよ、起きる頃には身体に馴染んでる」
何が。と問いたかったが、沈んでゆく意識にそれも出来ない。
くすくすと耳元で笑う声。
――刀鬼は。
――強引。
――ふふふ。
闇が笑う。
沈み行く意識の中、自分を見つめる少年の瞳に拭いきれぬ闇を見た。




