第12話:できることとできないこと
魔物は強い者には逆らわない。
ただし
その強い者が衰えた時、牙を剥く。
あの白い魔物のように。
領主は一度衰えた。
本人が気付かないほどゆっくりと衰えていった力。
今は少年の力を得て回復したが、またいつ衰えるか分からない。
「いっそ君が支配してはどうだ?」
領主に力を与えた後、衰弱するどころか揺ぎ無い力を見せた少年に、彼が支配すればいいのではないかと提案をしてみた。
「ああ無理無理」
だが提案はあっさり却下。
「この世界の人間に執着ないから」
情を与える理由もないと、片手で拒否された。
村に落ちてからずっと熱を出していた少年だが、領主に力を分け与えた途端、あっさりと熱は下がった。
あれは抑えきれぬ力が暴走していたらしく、領主に与える事で負荷を軽くし、安定させたのだと言う。
今更ながら事情を聴けば、どうやら少年はここではない世界からきたらしい。
「まさか力の暴走で異世界に転移するとは思わなかったよ」と苦笑いしながら教えてくれた。
力の暴走で空間に歪みが発生し、そこから異世界に落ちてしまったらしい。元の世界に戻れるのか聞けば、戻れるには戻れるがもう少し安定してからでないと、迎えが色々な意味で暴走する心配があるとのこと。
「僕の意思で力を与えたとは言え、この状態の時にやらないでもいいだろうって説教くらいそうなんだよねぇ」
どこか遠い目をしながらぽつりとこぼした。
「まだ最盛期には及ばないみたいだねー。聖女でも喰らえば戻るんじゃない?」
「聖女?」
「ああほら、先日行った修道院、あそこにいた白い女の子、あの子なら聖女と呼ぶに相応しい魂持ってたよね。あの子食べれば、戻るよ」
最後の言葉は囁くように言われ、一瞬、本能が暴走しかけた。
「――出来ない」
堪えた領主に面白そうに少年が笑う。
「このままじゃベリルにさえ敵わなくなっちゃうよ」
応えるようににゃぁぁとベリルが鳴く。
「うーん、聖女殺せない、かといって無抵抗な魔物も殺せない、そうなると力を取り戻す方法は……あの白いの倒すとか」
倒して魂を喰らえば、あの魔物の力は全て領主のものとなる。
「しかし、私はすでに一度負けている」
結界を破られた事に気付けなかった。
「居候させてもらっている恩もあるしね、僕も手伝うから大丈夫」
何でもないように軽く言う。
でももしかしたらこの少年がいれば勝てるのかもしれない、否、勝たねばならぬのだ。この世界を守るために。