表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/53

第1話:出会いは突然に

 小さな村の穏やかな朝。

 鶏の鳴き声とともに村人が起き出し、いつもと変わらぬ日常が始まる。

 男達が家畜と畑の様子を見に行っている間に女達が朝食の支度し、朝食の良い匂いが村に立ちこめる頃、その匂いに目覚める者が一人。

 村から少し離れた丘の上に建つ洋館、村人から厚い信頼を一身に受けるこの村の領主。

 年の頃30前後とまだ若く、しかも独身、一人暮らし。

 長く艶やかな黒髪を一まとめに結わえ、瞳は草原を映す翡翠色、整った容貌が冷たい印象を与えがちだが、心根は村の誰よりも暖かいと評判で、少し陰のある印象がまたいいと特に若い娘達に人気がある。

 普段ならば目覚めの紅茶を飲み、優雅に朝の時間を過ごす。


 そう、普段ならば。



 ドッゴォォォォォン



 突如、村中に騒音が響き日常を打ち壊した。

 それが全ての始まり。




 村の広場に何かが墜落した。

 小さな村はパニックに陥り、誰か領主様を呼んで来いと、村の老人が思い付いた時には領主はすでに広場に到着し、陥没した穴を覗き込んでいた。

 見事に陥没した広場に、今年の収穫祭は別の場所でやるしかないなと、見当違いの事を考えつつ中心を見ていると、もぞりと地面が動き、地面から手が――悲鳴が上がるより先に領主が動く。


 地面を滑り、中心に着くと、土をどかそうとしている手を迷わず取った。

 誰か縄を――叫ぶや誰かが走ってゆく気配。

 まだ小さな手だった。

 大人になりかけの子供の手。

 子供を大事にする領主は、頑張れと声を掛けながら必死に土を掘り返した。

 掻き分けても掻き分けても土が崩れてきてきりがない。

 このままでは窒息してしまう、焦りだけが募る。


「くそっ」


 悪態を付いたその時だった。


「あの……」


 か細い声が土の中から聞こえた。


「生きているんだな、待っていろ、今助ける!」

「いや、あの、そうじゃなくてね」


 焦る領主に反し、どこか申し訳なさそうな声が領主の足元を指した。


「ちょっと退いてくれる?」

「……」


 緊迫した状況下、どことなく暢気な喋り方に少し気が抜け、冷静さが戻ってくる。


「領主様!」


 声に視線を上げれば、村人らが縄を調達してきたらしい。

 投げる動作をした村人らを制し、掴んだままだった手に視線をやる。


「……」


 一歩後ろへ下がると、軽く礼を言われた。


「ん」


 二本目の手が出てきたのは、ちょうど膝を付いていた場所だった。


「悪かった」

「気にしないで」


 見えた掌を取り、引っ張ってやると、面白いほど簡単に体が土から出てきた。

 村人の歓声が響く。

 現れたのはまだ10にも満たない金髪碧眼の美少年。

 土まみれでも損なわれない美貌に天使かと一瞬誰もが息を飲んだ。


「助かった」


 領主の顔を見てへにゃりと笑う。

 途端に体中の力を抜いて領主にもたれ掛かる。


「縄を!」


 叫び投げられた縄を少年の体にくくり付け、引っ張るように指示する。

 次いで投げられた縄で領主が穴から引き上げられ、少年を館に運ぶよう伝えた。


「女達は家に戻って子供らに朝食を、男達は穴に子供が落ちぬよう柵を作りなさい」


 長老の言葉にそれぞれが動き出す。

 朝から疲労に見舞われた体を引きずりながら館に戻った領主は、ふと後ろを振り返って広場のある方角を見た。


「……」


 何もない。


 広場だった周囲には障害物が一切なかった。

 木の一本さえ生えていない。


 あれだけ地面を派手に陥没させたのだから、相当な高さから落ちたのだろうと思っていたのだが……冷静になってみれば不思議な事ばかり。

 少年は一体どこから落ちてきたのだろうか。

 そして何より、なぜ地面の中で喋れたのか。

 今は非日常にパニックを起こして気付いていない村人達も、明日辺りになれば同じ事に気付くだろう。

 それまでに少年に事情を聞かねばならない。

 村人に害をなす者ならば対応を考えねばならない、村を護る領主として。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ