現実世界にて
物語に主人公は必要不可欠な存在である。物語と主人公は一心同体である。
その主人公にもいくつかの種類がある。
チート能力を持った最強主人公。数々の美少女に囲まれるハーレム主人公。努力するジャンプ主人公。落ちこぼれが覚醒する主人公。それぞれの物語にはそれにあった主人公が登場する。
だが、どの主人公にも約束された『あるもの』がある。
それは、HAPPY ENDである。
数々の主人公は絶対にコレに行き着く。約束された勝利。祝福。歓声。
だが、これは主人公が物語通りに進んでいるからだけに過ぎないのだ。
でも、もし主人公が物語の筋道から外れたら…。そんな可能性は十二分にある。
それを止めるのが主人公以外の登場人物である。
つまり、親友も、魔王も、ヒロインも、村人Aも物語の道具でしかない。
主人公が道を外さないようにするための道具でしか…。
この物語はそんな役を一人だけ押し付けられた少年が、主人公を助け、導き、立派なHAPPY ENDにたどり着かせる物語。
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自分こと神崎 俊は上機嫌である。
大好きなアニメが最終回を迎え、悲しくなると同時に、妙な達成感が生まれた。製作者でもないのになぜなのだろうか。だが、その妙な達成感のせいで、自分はいつもよりも30分ほど早く登校してしまった。我ながら思考回路が『サンタさんが来るから早く起きる』とか言ってる幼稚園生並みで悲しい。
学校に行くと案の定、生徒は一人もいなかった。少なくとも、『アイツ』の姿はなかった。俺はそのまま自分の席に座った。はぁ、『アイツ』が来るまで暇だな…。俺は寝ている振りをしつつ、扉に注意を向けた。
生徒がちらほらと教室に入ってくる中、『アイツ』が来た。相変わらず影のように、誰にも気が付かれずに俺の方にに近ずいてくる。お前、ミスディレクションでも使ってんのかよ。だが、あいにくとお前のミスディレクションが効かない。なぜなら、俺にはホークアイを持っているからな。
そんな、意味のないことを考えていると、『アイツ』は俺の後ろの席に座った。実に不機嫌そうだ。
俺は席ごと後ろに向け、不機嫌そうな『アイツ』に話しかけた。
「おい、相変わらず元気ないな、桐山」
俺が話しかけると、『アイツ』こと桐山 亨は小さくため息をついた。
「なんで、席がお前の後ろなんだよ」
「そういうなよ、盟友。これも運命だろ」
「神の悪戯の間違いだろ。あと、盟友っていうのやめろ」
「連れないな…。じゃあ、俺の飛びっきりの話に興味ないか?」
「飛びっきり?」
「俺の情報網を舐めるな。CIA並みだぜ」
「へー」
亨は興味なさそうな顔を装っているようだが、甘いわ。俺とお前は小学生からの付き合いだ。お前がこの手の話に興味がないわけがない。
俺は、自信満々な笑みを浮かべ、言った。
「それはな…」
「うん」
「それは...」
「それは?」
自分は周りの目を少しばかり気にしつつ、声に出して言った。
「担任の三浦ちゃんが『一人カラオケ』に行ってた」
「…」
あれ?、反応いまいちだな。
そして、なぜか亨の顔は真っ青になっていた。まるで、何かをやらかした人を見ているような顔をしていた。なんでだ。ちなみに、三浦ちゃんとは、このクラスの担任の教師だ。
「そんなにつまんなかったか?。まぁ、この話には続きがあるんだよ」
「お…おい」
「美和ちゃんさ、そこで一人失恋ソングを歌ってたんだ。しかも泣きながらだぜ。もうバツ2なのに学んでないよな」
「後…後ろ」
「なんだって?」
「よく調べてるな、神崎。まるでFBIじゃないか」
自分は声の主を探し、後ろを向くと、そこには仁王立ちで立っている三浦先生がいた。その顔は鬼そのもの。いや、それ以上に恐ろしい顔をしていた。あ、終わった。
「い…いや、俺、CIA派なんですよ」
「どうしてだい」
「そもそも、FBIはアメリカにおいて、2つ以上の州にまたがった犯罪にあたる組織のことです。つまりやってることは警察と大差ないんですよ。一方、CIAは大統領直属の機関であり、スパイ活動をメインに行っているんです。そして、この2つを比べて、どちらがいいかと言われたら、そりゃー『CIA』でしょ」
「また、生半可な知識を溜め込みおって」
よし、効いたか。
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ、神崎」
まずい、俺の必殺技の一つ、『話ずらし』が効かないだと…。これ、ゴットハンドより強いと思ってたんだが。割とマジで。
「FBIもCIAも一般人のプライバシーは守ると思うが…。私は危険人物ということか?、神崎」
「へ…いえ、そういうわけでは…」
「死ねねねねねねn」
「ぐふ…」
先生はそう言うと、自分の腹に激痛が…。見ると、そこには先生のグーパンチによって凹んだ自分の腹がある。自分はそのまま机に倒れ、先生は教卓に戻っていく。ひでぇ…。
「大丈夫か?、俊」
「事実を言っただけなのに…。独身のくせに」
「何か言ったか、神崎?」
黒板の前に立っていた先生がこちらをギロリと睨んできた。怖い、怖いよ。どんだけ地獄耳なんだよ。今、絶対『独身』に反応しただろ。怖いわ。だから、結婚できないんだよ。
「俊って、先生に好かれてるよな」
「どこがだよ。嫌われてるだろ。どう見ても」
「問題児だからな」
「おい…」
しばらく、チャイムがなり、それと同時に自分たちの会話は途切れた。
~~~~~
昼休みになり、リア充たちが購買たら食堂やらに向かう。が、今日はいつもよりも騒がしい。何かあるのか?。まぁ、騒がしいのなんていつものことだけど…。
俺は後ろを向き、机にまたぐように座った。そして、亨の席の隣に弁当をドンっと置いた。
「自分の席で食べろよ、俊」
「いいだろ、別に」
亨も自分と同じように弁当を置いた。まるで、ここは俺の領地だと言わんばかりに強く。怒ってるわけではないな。
しばらくの間、二人で話をしていると。亨が唐突につぶやいた。
「今日、転校生が来るんだろ、俊」
「は?」
え…。そんなの聞いてないけど。マジで言ってる?。
「俊、まさか知らなかったのか」
「あ…ああ」
「お前の情報網はCIA並みじゃなかったのか」
「CIAもたまには休む」
「おい」
余裕をぶっこいていたが、内心は若干焦っていた。俺自身、自分の情報網には自信があった。少なくとも、一人、二人の学校生活を破壊するくらいはできる。やらないけど…。そんな俺が知らない情報をなぜ、お前が持っているんだ。
「さすがは盟友。お前はどこの所属なんだ」
「所属も何もない。前見ろよ、前」
「前?」
前?。前がなんだよ。
そして、前を見ると、やはり黒板しかない。ん?
その黒板には…
『今日、転入生が昼のロングホームルームで紹介します」
え、俺の情報網ガバガバすぎだろ。ネズミ1匹どころか江〇さん来てもわからんくらいセキリュウティ薄すぎだろ。ルパンもびっくりだろ。
道理で、普段よりもリア充が騒がしかったんだ。
俺は再び後ろを振り返る。
「可愛い女の子かな…」
「だったら、どうするんだよ?」
「ヒロインにする」
「意味が分からん」
亨は興味なさそうな顔をしながらも、内心は絶対に期待しているだろう。そうに決まっている。転校生に期待しない男なんて、男じゃない。
「どうせなら、飛びっきりの美人だといいな」
再び願望を口にしながら、卵焼きを口に運んだ。
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予鈴のチャイムが鳴りだし、教室内が騒ぎ出す。俺が言えたことではないが、うるさい。なんでこうも騒ぎたくなるんだ、こいつらは…。興味ありすぎだろ。
だが、俺自身も結構興味がある。転校生とは、学園物では欠かせない一大イベントの一つだ。興味がないわけがない。
「転校生が幼馴染だったらいいな。飛び切り美人の体育会系」
俺はそんな願望を口に出しながら、妄想に浸る。グへへ…。
~~~~~
本鈴がなり、三浦先生が前に立つ。俺は相変わらず妄想中。
「前に書いてあると思うが今日、転校生を紹介する。くれぐれも騒がず、迎えてほしい。…それから、妄想に耽るのはいいが、くれぐれも刑事罰に問われるような真似は決してしないようにな」
そう言って、先生は俺の方をギロリと睨む。俺って、そんなに犯罪を犯しそうな顔してるのか?。確かに妄想はしてたけど、別にナニな事まで発展してないし。ちゃんと、少年誌に載せられるくらいのことしか妄想してないから。
「では、入ってきたまえ」
三浦先生がそう言うと、教室のドアが開く。そして、一人の少女が春風と共に教室に入ってくる。その少女は黒髪で、首には綺麗なネックレスがかけられている。その少女の印象を表すとするならば『宝石』。めっちゃ可愛い。
その可愛さにクラスの男子は、狂喜している。マジで怖い。そして、美和先生はなぜか、拳を握りしめている。もう、哀れだな。もう誰かもらってやれよ。
俺は後ろに向け、亨の顔を見る。案の定、顔がポカンとしている。
「興奮してるのか、亨。やだー、ハレンチ」
「黙れ」
「これはスクープだな」
自分は再び、前に向き、彼女を見る。彼女はチョークを持ち、せっせと黒板に名前を書く。
「望月 伊織です。これから高校3年生までよろしくお願いします」
俺の時代に春が来た。これは幼馴染パターンだろ。絶対そうだ。全然見たことない顔だけど、幼馴染だ。うん、あの子は俺の幼馴染決定。いや、許嫁という線もある。
自分の中で、どんどんと妄想が浮かんでくる。
そして、当の本人はというと、周りをキョロキョロと見渡している。そして、俺の方を見るなり、満面の笑みで歩いてくる。
「やっと見つけた…」
ん?。これはもしや…?。
彼女は自分の方に歩いてくる。次第の早く…。
「私の…」
彼女の歩幅が広くなり、走り出す。そして、
「私の運命の人」
その少女は俺の存在を完全に無視して、後ろにダイブ。あれ…おかしいな。
もしや、これは亨のイベント?。許さんぞ。血祭に上げてやる。
自分は嫉妬と狂気に満ちた形相で、後ろを振り返る…が、亨の胸元にも彼女はいない。そして、彼女がさらに後ろの男をに抱き着いていた。
「ちょっと、誰ですか」
その男こと氷室 翔は困惑していた。
説明しよう!。この氷室 翔とはこの学校の生徒会長にして、サッカー部のキャプテンを務める生徒。成績は常に全教科2位。人望熱く、誰に対しても優しい。つまり、モテる。常にその周りには女子がたくさん集っている。その中で、異才を放っているのが3人。
それは、副生徒会長、チア部のアイドル、図書委員長のメガネっ子。この三人はこの学校の中で一番可愛いとされている。そして、その3人は互いが互いを牽制し合っているのだ。
そして、幸か不幸か、一緒のクラスになっている。
だが、この均衡が破られた。望月 伊織が抱き着いたことによって…。
そして、その3人はというと、一斉に転校生を睨みつけている。その瞳からは殺気がドロドロと漏れている。そこには、確実に『殺す』という意思が見受けられた。あんたら何者?。仕事人の人?。
そして、なぜか三浦先生の目にも殺意が…。触れないでおこう…。
「主人公してるな…」
羨ましい。めっちゃ羨ましい。だが、それは単なる憧れだ。絶対になることができない。高嶺の花だ。だったらせめて…
「主人公を陰から支える立役者みたいなのになりたいな」
その瞬間、教室が照らされる。そして、教室の床には大きな魔法陣のようなものが描かれる。
「なんだ、これ」
「すげぇーー」
教室内が光りで満たされていく。そして、光の中に消える。
後には、静かな教室と無音の音だけが残った。
次回から、異世界です