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復讐の女神探偵社

復讐の女神 さよなら先生

作者: 西村圭

「あなたの望みは分かっています」

探偵は断言した。

「私に謎を解いて欲しいのでしょう」

私は驚いた。

「どうして分かったの」

「探偵は、なんでも知っているのです」

私は初めから話すことにした。


「本日は、お忙しい中、足をお運びいただき、ありがとうございます」

あの日、あの時まで、私は得意の絶頂だった。

「この度、このような会を催していただき、感謝の念に耐えません」

聴衆は私のスピーチに聞き入っている。

「思えば長い道のりでしたが」

そう、本当に長かった。

「多くの仲間や、保護者の皆様、なによりかわいい生徒達に恵まれ」

そう、本当に色々な人がいたものだ。

「時に迷い、傷つきながらも進んで参りました」

色々あったのだ。

「教師生活を終えるにあたり、こうしてお祝いの会を開いていただき、大変光栄です。私と出会った多くの皆様へのお礼を、私からの挨拶とかえさせていただきます」

大きな拍手に包まれ、私はステージを降りた。


「続きまして、生徒を代表しまして」

生徒や同僚からの挨拶が続く。

「先生との思い出で、忘れがたいことと言えば、やはり七夕祭りをあげないわけにはいきません。短冊を吊るす竹を用意できなくて難儀していたところ、先生からお気遣いいただき、先生のご自宅の裏にある竹をいただくことができ、その年も子供たちと七夕を楽しむことができました」

耳を傾けながらも、飲み物を口にしたり、目のあった参加者に会釈をしたり、私は忙しくしていた。


だから、初めあの最後の発表者が何を言っているのか分からなくて。

「先生は、中学受験する子を快く思っていませんでした。私の友達は、初めは、受験で学校休んだ日は、登校日にあたらない、といわれて、その後家族でディズニーランドに行って来たんです。その後、やっぱり受験で休んだ日は登校したものとみなすと言われて。その子、皆勤賞目前だったんです。でも、ディズニーランドに行ったのは遊びだから、登校日にならないって。おかしいですよね。元々は受験の日が登校日にならないから、もう皆勤賞とれないねってことで遊びいったのに、あとから受験は登校日だけど、遊びにいったからもう皆勤賞とれないよって。これっていじめですよね。その子は先生に騙されてたんです。先生受験したことが気に入らなくて、嫌がらせしたんですよ。他にも」

突然のことに呆然としていたスタッフだったが、その頃にはようやく登壇者をステージから引きずりおろした。


「その方、何者だったのでしょうか」

探偵に問われ、私は首を横に振った。

「分かりません。小柄で眼鏡をかけた女性だったと思いますが、私には見覚えがなくて。ステージを降りた後、スタッフを振り切って、会場を出ていってしまったそうで」

「失礼ですが」

探偵は私に一歩近寄った。

「お心当たりは」

「さあ」

私は鞄からハンカチを取り出し、額の汗を拭った。

「まあ、変な話、恨まれることも多い職業ですから」

「そうなんですか」

「ええ」

私は今度は口元をハンカチで押さえた。 

「こっちも人間ですから、どうしても好きになれない子供や、やりにくい保護者もいますし」

「なるほど」

「思ってもみないようなことで、逆恨みされることもありますし」

「大変なお仕事ですね」

「そうなんです」

私はハンカチを膝に置いた。

「でも、子供たちの成長を間近に感じることも多くて、やりがいの多い仕事なんですよ」

「おっしゃっていること、分かるような気がします」

私はハンカチを握りしめた。

「ただ」

探偵は私から離れた。

「特定の心当たりがあるわけではなさそうですね」

「ええ、まあ」

私はハンカチを鞄にしまった。

「失礼ですが、無神経な言動や行動も多かったのでは」

私は立ち上がった。

「帰ります」

その頃になってようやく、小柄で眼鏡をかけた別の女性がコーヒーを運んできたが、私は構わず、部屋を出た。


時間の無駄だった。馬鹿馬鹿しい。

家にたまたま入っていたチラシなんて、信用しなければ良かった。

ああ、これからどうしたらいいのだろう。


「気付きませんでしたね」

所員の柳加奈は、ソファーに座り、自分でもってきたコーヒーにミルクと砂糖を入れた。

「最後まで話を聞いてくれていたら、全部教えてあげたのですけれどね」

所長の渡ナオミは、ため息をついた。 

「まあ、いいでしょう。加奈、依頼人に連絡を」

「はい。成功報酬期待できますね」

「規定通りです。あなたの取り分もありますから」

「何買おうかな」

ナオミは自分の机の引き出しから契約書を取りだした。


『業務委託契約書


甲は、乙に以下の業務を委託するものとする。


委託業務


一、丙の長年にわたるパワーハラスメントへの報復として、乙の名誉を著しく傷つけること


二、丙が長年にわたり行ってきたパワーハラスメントを自覚せしめ、反省を促すこと


報酬金額


乙に属す会員全員から規定の料金を徴収し、甲に支払うものとする。


以上の内容は、委託契約の特性から、甲乙いずれも甲乙以外の第三者には秘匿するものとする。


以上、甲乙ともに信義に沿って当該業務委託契約の執行に務めるものとし、当該契約以外の公序良俗に反しないものとする。


○○○○年 ○月○日


甲 復讐の女神探偵社

乙 ○○○○先生によるパワーハラスメント被害有志の会

丙 教師○○○○』


ナオミは、証拠隠滅のために、契約書をシュレッダーにかけた。

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