しあわせにくらしました?~灰かぶりの姫~
ちょっと前から書いてたものを出そうと思いました。
昔々あるところに、リリーと呼ばれる可愛らしい令嬢がおりました。
リリーは優しい両親に囲まれて幸せでした。しかし、
リリーの母親は流行り病で死んでしまいました。
リリーは毎日泣きました。毎日毎日「お母様、お母様」と目を潤ませていました。
父親は、リリーのために再婚することにしました。
そうしてリリーに新しい母親が出来ました。
母親には連れ子の姉妹がおり、リリーの姉となりました。ずっと兄弟姉妹が欲しかったのでリリーは大変喜びました。
上の姉の名前をアルステリア、下の姉の名前をイリステリアと言いました。
新しい母親も姉らもとてもやさしく、リリーの顔には笑顔が戻りました。
……不幸というものは重なってしまうというのでしょうか。
今度はリリーの父親が事故で死んでしまったのです。
それだけでも悲しいのに、父親がいなくなってからというもの母親と姉たちが急に冷たくなったのです。
リリーにはボロい使用人の服と屋根裏部屋を与え、あたかも使用人のように扱うのです。
それでもリリーは負けませんでした。なぜなら、可愛らしい小さな友達がいたからです。
言われたことをきっちりと守り、いじわるをされてもリリーは涙を見せず働きました。
ある日、お城からの舞踏会の招待状が届きました。
母親たちにリリーは行きたいといいましたが、姉らは取り合ってくれません。
母親が言いました。
「では、わたくしたちの言いつける仕事を全てこなしなさい。そうしたら連れて行ってあげるわ。」
リリーは頑張りました。意地悪な仕事も涙をこらえながら頑張りました。
夜な夜な母の形見のドレスを繕い、きれいに仕上げました。
そうして舞踏会の夜。リリーは母親に連れて行ってくださいと頼み込みました。
母親は「いいわよ。」といいましたが、その次に「いいリボンねアルステリアが持っていたのと似ているわ。」と言いました。
似ているのは当たり前です。アルステリアがリリーに「いらないからあげるわよ。」とボロボロになったリボンを渡したものをリリーが元通りにしたのです。
リリーは「アルステリアお姉様がいらないからってくださったの。」と言いましたが、アルステリアは「はあ!?わたくしあげてませんわよ!!!返してくださいませ!!!」と無理矢理引きちぎりました。
妹のイリステリアもいらないと言って捨てたゴミをリリーに拾わせ「ゴミしか無いなんてかわいそうだからそれを上げるわ。まあ、高貴なゴミになるだけだけど。だって来ている人がゴミなんだもの。あっはははははは。」と言っていたネックレスを奪い取りました。
「これも、これも」とついでとばかりにびりびりにドレスを破いたのです。
母親は「あらあら、そんな無様な格好じゃあ舞踏会には連れていけないわね。私たちが帰ってくるまでに庭の掃除や夕食の支度、ああそうだわ。畑の野菜を収穫して来て頂戴ね。」と嘲り、リリーが舞踏会に行かないようにこれでもかと、仕事を言いつけました。
リリーは泣いて飛び出しました。
「ひどい、ひどいわ。もう嫌よ。こんな家出ていきたい。舞踏会に連れて行ってと言っただけなのに…。」
リリーはずっと泣いていました。するとどこからか綺麗な女の人が現れました。
「貴女は優しい子よ。夢を見ることを忘れない。だから私が現れた。こんにちは。レディ。私はファラインというの。魔法使いよ。」
「魔法使い!?」
リリーは驚きました。魔法使いなんておとぎ話だけだと思っていたのです。
「そうね~、先ずは馬車からね。ん~、どれをつかおうかしら。あ、これがいいわね。パンプキンは魔法の媒体にピッタリだわ。魔法の呪文なんて必要ないわ。だって私は一流だもの。それ!!!」
キラキラキラキラ
あっという間にパンプキンが綺麗な馬車になりました。
「御者と従者あとは……そうそう馬もいるわね。それ!!!」
キラキラキラキラキラキラ
リリーはしばらく呆けていました。目の前の出来事がすごすぎて頭が追い付かないのです。
「うんうん。これでいいわね。さあ乗って!!!」
「え、いや、あの、無理です………だってドレスが……。」
リリーは泣きそうになりました。母の形見のドレスを破られた時のことを思い出してしまったからです。
「あらあら、そうだったわね!!!ん~、あなたには~うん、ブルーのドレスが似合うわよ!!!じゃあ、早速………ふう~、そおれ!!!」
キラキラキラキラキラキラ
あっという間の、それなのにいつまでも続いているような不思議な時間でした。
ボロボロだった破れたドレスが綺麗なドレスに変わったばかりか、靴までガラスの靴になっていました。
髪はまとめられ、化粧までされていました。
「まあ!!!綺麗なドレスね!!!」
リリーは大はしゃぎです。
「ほらほら早く乗って!!!舞踏会へ行くんでしょう!!!」
「ありがとう!!!ファラインさん!!!おかげでお城へ行くことができるわ!!!」
リリーは満面の笑みを浮かべて言いました。
「あら、どういたしまして。ふう、あ!!!待って待って頂戴!!!ひとつ言い忘れていたわ。その魔法は12時の鐘が鳴り終わるととけてしまうの!!!気をつけてね!!!それじゃあ、いってらっしゃい!!!」
「ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!」
リリーは姿が見えなくなるまでお礼を言い続けました。
お城はもうすぐそこです!!!
「うわぁ~。」
リリーは感動しました。初めてのお城です。きらきらしていてとても綺麗でした。
ふらふらしているといつの間にかダンスホールへ迷い込んでいました。
「大変だわ。お義母様たちに見つかっちゃう。」
リリーは慌てて中庭へ行きました。
「ねえ、君。」
誰かに呼ばれたと思い振り向きました。そこには先程までホールで踊っていた王子様がいらっしゃったのです。リリーでも流石に王子様の顔は町の肖像画で見たことがありました。
リリーは慌てて淑女の礼をしました。腐っても令嬢です。マナーは母が生きていた時に教わっていました。
「きみの名前は?僕はアルフレッド、アルフレッド・スラカンフェル・マダル。この国の第一王子だよ。」
「あ、わたくしはリリーです。」
ところどころつっかえてしまいましたが、しっかりということができました。
ですが、家名を名乗ることを忘れてしまいました。
「そうか、それではリリー嬢わたくしとダンスを踊ってくださいませ。お手をどうぞ。白百合の姫。」
「はい、喜んで!!!」
二人はそれからずっと踊っていました。12時の鐘が鳴るまでは。
カーン、カーン、
鐘の音が鳴り響きます。リリーは慌てて王子へ別れを告げると急いでお城から出ていきました。
お城の階段にガラスの靴をおいて。
12時の鐘が鳴り終わると魔法は嘘のように消えていきました。しかし、ガラスの靴だけは消えませんでした。リリーは一生の宝物にしようと、屋根裏部屋の自室に隠しました。
それからはまた、地獄のような日々のままでした。
リリーはガラスの靴を見ては王子様と過ごした時間を思い出しました。
ある日、お城から全ての貴族に伝令が届きました。なんとリリーを探しているのです!!!
内容はこうでした。
『ガラスの靴を履けたものを妃とする。』
リリーはびっくりしましたが、王子様が探してくれると嬉しくなり、ウキウキしていました。
早くお城の使いが来ないかと夜も眠れませんでした。
そうしてお城の使者がやってきました。リリーも出ようとしましたが母親に閉じ込められてしまいました。
リリーは泣きました。「ああ、このままずっとお義母様やお義姉様たちにいじめられるのね。」と。
するとどこからともなく声が聞こえてきました。
「あらあら、泣いていたって始まらないわ。鍵は外してあげるから。さあ、いってらっしゃい!!!」
ガチャン
かぎが開いた音がしたのです。リリーは壁の方へ向かって「ありがとう!」と頭を下げて母親のもとへ向かいました。
後ろから聞こえる「ふふふ、頑張ってらっしゃい。貴女にはもう私は必要ないみたい。自分で切り開けるもの。頑張って、リリー。」という声に背中を押されながら。
「それでは…。」
「待ってください!!!」
「な!?どうやって出てきたのです!?」
リリーはギリギリのところで間に合いました。
「ほほう、奥様先ほど娘は2人だとおっしゃっていましたが?どういうことですかな?使用人などいなかったはずでは?」
「…………いえいえ、使者様に無礼を働かぬようにと部屋に待機させていたのですが、使用人家に住んでいるなど恥でしょう?」
リリーはいないことにされていたことに傷つきました。
「わ、わた、わたくしもこの家の娘です!!!この家の三女、リリー・ダルテルセです!!!」
「なんと!?り、リリーと申されましたか!?」
この反応にはリリーもびっくりしました。自分の名前だけでここまで驚かれるとは思いもしなかったからです。
「は、はい。私はリリーですけど…。」
「王子様がおっしゃっていた名前でございます。偽名ではと思い、全ての貴族の令嬢にガラスの靴を履いてもらいましたが、誰一人、絶対に入るという方まで何かに邪魔されるようにはけないのでございます。どうか、履いてみてくださいませ。」
「はい!!!」
リリーは履こうとしました。その時、
ガシャン!!!
「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまいましたの。」
母親の杖が倒れて靴は粉々になりました。使者はどうしようと顔を青くしました。
でもリリーは笑顔で言いました。
「大丈夫ですよ。だって、もう片方を持っていますから!!!」
使者は喜びました。もう片方の靴をリリーに履かせるとぴったりです。
こうしてリリーは王子様と再会し、幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでた……シ?
ガガッ!!!ザーーーーー!!!ブ―――――ン
ガガガガガガガガガッ!!!
しアワせ?シアわせってナアに?
シあワセにクラしマシたっテ、ダレニトッテノシアワセナノ?
キヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒヒイイイイイイイイイイイ!!!
ザザッ!!!ブ―――――――――――――ン
「リリー、リリー、どこにいるんだい?リリー。ああ、そこにいたのか。ちゃんと返事しなきゃダメだろう?さあ、おいでリリー。一緒に遊ぼうか?」
「ア、ルフ………レッド……。」
「なんだいリリー?ああ、いけない子だね。外に出ようとなんかして。そんな悪い手はいらないね。切っちゃおうか?」
私はこの人が怖い。私がすぐにどこかへ行くと言って逃げられないように足を切り落とされた。私が自分を見ないからと目を穿り出された。私の部屋は牢屋のように鉄格子がはめられている。
逃げられない。
逃げられない。
ああ、こんなことならお城になんていかない方がよかった。
「リリー、なにを考えてるの?リリーは僕のことだけを考えて。そのほかのことは考えちゃダメ。」
ああ、刃物を研ぐ音が聞こえる。きっと私の手を切り落とすのね。
私は無意識のうちに逃げようとしていたみたい。
「リリー、どうして僕から逃げようとするの?ねえ、何で?こんなにも僕は愛してるのに…。リリー、お仕置きだ。痛いけど我慢してね?」
スパン
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「ああ、リリー。叫び声も素敵だね。綺麗な声だよ。りりー。安心して。どんな姿になってもずっと、ずうっと一緒にいるからね。ずっと死ぬまで愛しているよ。りりー。ふふふふ。」
ああ、ああ、イタイイタイイタイイタイ
それでも貴方はきっと笑っている。
優しく、狂気をはらんだ瞳を歪めて微笑んでいる。
そうして私の名前を呼ぶのよね。
優しい、甘い、蜂蜜みたいな声で「リリー、リリー、僕のお姫様」って。
「リリー、また出ようとして、いけない子だね。それでも愛しているよリリー。」
私はいつこの牢獄から救われるのかしら?
「カ、ハ?」
あれ?どうして?どうして胸が痛いの?
「リリー、リリー、やっぱり君には赤が似合うよ。青も似合うよ。ああ、肌が青くなって、赤くなって、とってもきれいだ。安心して。ずっとずうっと愛するよ。君が死んでしまってもね。リリー、リリー、僕のお姫様。」
見えないはずの両目が最後に映し出したのは、やっぱり笑っている貴方の赤く染まった顔だった。
「リリー、リリー、僕のお姫様。これで君はずっと、ずうっと、僕のものだ。永遠に愛し合おうね。リリー。リリー、リリー、綺麗だよ僕の宝物だ。リリー、リリー、僕のお姫様。ああ、リリー、僕の白百合姫。」