第一章 行間 『お会いもの』
行間(AM 10:59)
迷子アナウンス三回目が流れてから約十分以上経過している。
これ以上流しても多分買い物に夢中で気付かないだろうと、大人しく様子見という形をとっている。
探し人=妹が現れないことに、兄は灰になる寸前の状態を必死に保つ。これ以上何か言えば、超面倒臭くなると分かりきっているため、着物の青年(友人らしい)はただ灰寸前の男を静かに見守っているだけだった。
インフォメーションの女性は、目の前のお客さんが灰寸前という事実におどおどするしかなかった。
現代では必需品ともいえる携帯電話を忘れてしまった為(一つは充電が切れているらしい)、連絡の取りようがない+あれからショッピングモール内を往復したが、見つけられなかったショックで少し白髪からより色素を抜かれていないか?と心配になる程の彼に、インフォメーションの女性はどうしたものかと心の中で焦っていた。
(嗚呼・・・・どうしよう・・・。このお客さんもうこれ以上のショックを与えたら本当に灰になっちゃう!え?ちょっ!なんであの着物のお客さん寝てるの!?見守ってるんじゃなかったのぉ!ただ眠気に勝てなかったから目が細かっただけなのね!!?)
元黒髪に前髪だけ白のツートーン(現時点では白髪)の青年が、もう一度探してくると去ってしまった際にも静かに手を振るだけだった着物の青年。相方を待つ間、何かするわけでもなくただただ腕組みをしているか、たまにくせっ毛のあるクリーム色の髪をくるくると指に絡ませて遊んでいるだけだった。今はとうとう友人をほったらかして、こくこくと眠気で頭が動いてしまっている始末。
(ひぇえ。なんかぶつぶつと呪いの呪文みたいなの呟き始めちゃったんだけど!お願い着物君!睡魔に勝ってええ!)
インフォメーションの女性は、自分よりも若干若いであろう客に勝手にあだ名をつける。着物の青年を”着物君”と呼び、灰寸前の白髪の青年を”白白君”と名付けた(本当は”黒白君”にしようかと思っていたが、あまりにも真っ白になってしまったため急遽変更した)。
その白白君は今。
『なんでどこにもいないんだ我が愛おしい妹よ・・・・あ、もしかしてこれはお兄ちゃんのために私が選んだのよ、感謝しなさいよね!的などこぞのツンデレ妹アニメキャラみたいな展開を実現してやろうっていう魂胆か。ぐへへ、そんなぁお兄ちゃん照れちゃうぞ?もう可愛いなぁ。でもお兄ちゃんはもっとお前と一緒に買い物がしたいんだよ?他の店にも行って飯屋でハンバーグでも食って、さっきはドーナツ買えなかったから帰りにケーキでも買って家であーんし合いながら食べたりとか・・・・』等と呪いの呪文の間に妄想が混ざり、時に今日これからの買い物プランまでも口に出して笑っていた。涎を垂らしながら。果てしなく気持ちの悪い表情を浮かべながら。
とても居た堪れない状態だ。その探し人は楽しそうに友人と会話を楽しみながらショッピングの最中だとも知らずに。
(ひっ!ちょ、白白君笑ってる!恐いよぉ~ッ!嗚呼、誰かぁ!)
もうインフォメーションの女性は一刻も早く妹さんがこの場に現れてくれることを願うしかなかった。心の中では涙が止まらない。
と、その時・・・・。
「あのー。迷子を捜しているのですが・・・」