表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戯-たわむれ-  作者: 櫻月 靭
三日目~男共の話~
51/53

第三章4 『男子会』


「と、いうわけだ」

「そうですか・・・・。まさか父様がお見えになられるとは。・・・・・それで、氷袋をご用意いただいたことには感謝しているのですが、うっ、何故、私の腹の上に乗っておられるのですか・・・・」

「重い・・・・、と口にしたら、この状態で軽くジャンプする」

「鬼ですね」

 祥の部屋に布団を運び込んできた清明と玄琉。蛍が先導し、扉を思い切りぶち開けたため、数十分の間だが、直撃し、床に思い切り頭を打ち付けてしまった祥と柳静は意識を失ってしまった。祥を柚緋と蒼羽が、柳静を菊と玄琉(布団を全て床ではなく清明に押し付けて)がそれぞれベッドに運んだ。目を覚ました祥が、同じベッドでそれもほぼ密着する形で(双子と菊が形だけでも和解させようと祥を柳静の手を握らせた)、そのまま数十分間親友と寝ていたことに対し、初体験がどうのこうのと喚いた事はさておき。床に置けばいいのに、律儀に布団を持ち続けている清明に気付きつつも無視を決め込む玄琉がいることもさておき。

 何故祥と柳静が言い争っていたのか、原因を柚緋、蒼羽、菊の三人から聞き出した玄琉。友人を放って祥と言い争いに興じていた事への罰として、ベッドに横になっている柳静の腹を座布団とし、しばらくの間座ることにしたのだ。もしここが家だったのならば、凪原家奥義、吊り天井固めを繰り出されていただろう(龍一郎の妻、理世はこの技を習得し、以前酔い潰れてはしゃいだ夫にかけたことがある)。

 大人一人分の重さは中々のもので、苦しさで目が覚めた柳静は、何故ベッドに寝ているのか、そして父親が何故いるのか、腹の上に座り込んでいるのは一体何のプレイなのか。クエスチョンマークが脳内でダンスしまくっていた。

 一分間たっぷり時間をかけて疑問をまとめ、一つずつ質問をすることにした柳静。息子の問いに一つ一つ丁寧に答えていく玄琉。最後の疑問、乗っている理由については分かりにくいが、罰を与えているのだということだけは伝わった。ただし、柳静が本当に聞きたかったのは、何故、叱るでも叩くでもなく、体の上に乗る“圧”を選択したのかということだったのだが、これ以上は何も言わないでおこうと決めた。余計な事を言って、別の罰を与えられても困る。

 そんな柳静が落ち着いたところで、蛍が口を開いた。

「柳静様。皆さんのお布団、人数分端に置いておきましたから、ご自由になさって下さいな。あと、お召し物はこの鞄の中ですわ」

「ありがとうございます」

「ちなみに、その着替えを用意したのは私ではない」

「え、では誰が・・・・まさか兄さんが・・・・・・」

「いや。龍一郎はお前の部屋に入るや否や、深呼吸をしたり、押し入れにしまってあるお前の布団に顔を埋めたり、部屋中を散策していたので放っておいた」

「なっ・・・、そ、それは、父様・・・・止めて下さい!!?」

 長男の次男に対する間接的変態行為を、ただはしゃいでいるだけ、で片付けてしまう父。これが凪原家だ。そもそも、兄が弟の布団に顔面を埋めたり、着物に抱き着き頬を擦り付けたり、片付け忘れた湯飲みを手に取りどこから飲んだのか飲み跡から分析し残りを飲んだり、まるで膝枕をしてもらっているような感を出すため、今朝も座っていた座布団を半分に折り頭を置いたり、ありとあらゆる変態ストーカー行為をスルーするなど、どれだけ兄の事を放置しているのか。というより、いつもの行為だと認識しているため、もう何も入ってこないのだろう。日常って恐ろしい、そう畏怖した柳静はとりあえず、帰ったら兄を縛り上げて天井に吊るそう、と心に誓った。凪原家奥義は、きちんと次男にも受け継がれていた。

「すまない、あれの事より、柳静に着替えを届けることに気がいっていた。今日は理世ちゃんも母さんもいなかった故、たまたま来てくれた彼女に手伝ってもらったのだ。女性の方が何が必要なのかも分かっているのだろうからな」

 必要なものは全て理世か妻が用意してくれるため、いつの間にか自分の着替えも用意できないようになってしまった玄琉は、反省した。

「彼女・・・・・・そうですか。折角来ていただいたのに、挨拶くらいしたかったですね」

「大丈夫だ。あとでメールをしておくと言っていた。就寝前にでも確認しておくといい」

「か・・・・」

「か?」

「彼女がいらっしゃったんですの!柳静様!てっきり女性には一切関心はなく、唯一気を許せるお兄様の傍にいることで足りない心を埋めているのかと思っていましたのに‼」

 どこの漫画の世界だ、と柳静はさすが祥の妹、と再認識した。どうやら蛍が勘違いをしてしまっているらしい。柳静の事を兄だと慕っていたと思っていたが、最近はどこかずれてしまっているようだ。

「ええ!鬼さん彼女おったん!いやでもおってもおかしくない・・・・な」

「確かに鬼さんやったらルックスもええし、動作がきれいで丁寧やし、本性見せへんかったら優男や」

 残りのご飯を二人でむしゃむしゃと食べながら周囲に聞き耳を立てていた双子、柚緋と蒼羽。

 祥と柳静が気を失っている間に、無事トイレで湧き出し寸前だったものを出し終え全体的にスッキリとしたため、蒼羽はすっかり酔いも醒めお腹が空いてしまったらしい。それに、全員泊まれると分かり安堵したのか、とりあえず机の上を片付けようと、菊と清明を巻き込みつつ料理の処理に当たっていた。聞き耳を立てながら。

 そして最後に反応したのは親友でありながらその事実を知らされていなかった祥だった。

「ぶえぇ~あ!?おんま、う、裏切り者――‼」

「祥は何故、私に彼女が出来たと聞くとその言葉を投げかけてくるのです?違いますよ、父様の言う“彼女”というのは愛人恋人の意ではなく、話し手・相手以外の女性をさす三人称の人代名詞の方です。それに祥、貴方は彼女に会っていますよ。一応、凪原家の血を体内に流していますから」

 名は出さぬようにしているのだろう、どうしても彼女で通したい柳静は、祥に遠回しなヒントを与える。

「?三人称?凪原の血?・・・・・彼女?・・・・・ん?・・・・・・・あ、あぁー・・・・嗚呼!あの子か!!?」

 ピコーン!と効果音が鳴った。

「え、一体どなたの話をしていらっしゃるんですの?お兄様。私はそのお方にお会いしたことがありますの?」

「いや、お前は会った事ないな。俺も会ったのは二、三回だけだし、それも二年も前だしな」

「彼女はあまり凪原家に足を踏み入れようとはしないからな。私のせいではあるのだが、少々複雑なのだよ」

「そうだなぁ、その子の事はここで簡単に口にしていいほど軽いものじゃないから、玄琉は本当、息子に引けを取らずトラブルメーカーだよ。はっはっは、少しは俺の純潔?純情?さを見習ってほしいものだね」

「うぐっ・・・・・・若気の至り・・・・だったのだ」

「若気の至り、なんて言葉、きっと祥は一生使うことはないのでしょうね」

「さり気なく父親の言葉を悪用して俺に攻撃してくんなよ!」

『使えるものは何でも使う、どんな状況下であっても攻撃が出来るのであれば容赦なく行動に移す』、がモットーな柳静は、さり気なく祥に言葉を投げつける。そしてそれを注意してくれればいいものを、逆に褒める者もいる。

「流石鬼さん、復活が速いわ。まぁ“彼女”さんの話は今は聞かん方がええみたいやし、とりあえず空いたお皿だけ片付けましょうか」

 さすが男四人揃えば、ほぼ手付かずだった(約二名は言い争いのためほぼ食べず)料理がどんどんなくなっていく。というよりも、食べ始めてまだ五分も経っていないのに半分近くたいらげてしまったのは、どちらかというと怖い。

 菊の腹がすっからかんだったのも手伝って、残りものは一つの大皿にオードブル感覚で集めた。

「では、私がお皿を下までお選びしますわ。まだ会は続くのでしょうから、新しい氷とグラスも用意しますわ」

「おおきに、蛍ちゃん。出来たお嬢はんやわ、お嫁に欲しいくらいや」

「「!?」」

「しっ・・・蒼羽、そないな台詞、父親とブラコン兄の前で言うたらあきまへんで!」

 柚緋の言葉も遅く。

 もう放ってしまった言葉の取り消しは出来ず。

 しっかり両耳でばっちり聞いてしまった蛍の父と兄は、鋭い眼光で蒼羽を睨みつける。

「ほほう、蒼羽くん。俺が手塩にかけて育てた可愛い蛍ちゃんを嫁に取ろうなど、どの口が言うんだい?一回増水した川に沈んでから言って欲しいな」

「何で川やの!?しかも溺死!じょ、冗談ですわ、何も本気にせんといて!」

「冗談!?俺が日々ストーキングしながら大切に守ってきた愛おしい妹を冗談の材料にするなんぞ死刑もんだ!」

「今自分をストーカーやってさらっと認めはったでこの人!」

「お兄様はストーカーとは認めても悪質性は絶対に認めないんですのよ、蒼羽様。龍一郎様のように室内に侵入したり、GPSを私物に勝手に取り付けたりはしませんけれど、私が男友達と外出する時はメールと電話を十五分おきに交互にしてきますし、確か何度か私の洗濯物を洗濯機に入れるとみせかけて匂いを嗅いでいたり、靴に鼻を突っ込んでスーハ―スーハ―変な息遣いをしながら吸い込んでいましたわ。そこらのストーカー変質者と何ら変わりませんし、お兄様こそ牢獄に入るべきお方かと」

「結構な悪質犯罪者やで。いいや、それ以上に引くわ・・・・・・」

「兄も兄やけど、その兄の異常性を蛍ちゃんもしれっと話はるな。もう慣れはったんやね。けど、諦めたような死んだような目で、兄を見たらんといて」

 今ここでこの瞬間、出来たばかりの友人二人を失うかと思いきや、引きながらも憐れみを向けられるだけだった。

「もう蛍!出来たばかりのお友達の前で刺激的な話をしちゃ駄目だから!」

「怒るとこちゃうぞ!ストーカー行為を否定せぇ!」

「しない!」

「断言しよった!」

「俺は・・・・・事実を捻じ曲げることは出来ない・・・・・事実からは目を背けてはならないんだよ、柚緋くん」

「言われた!道を踏み外しとる男に格好ええ台詞吐かれた!言う資格ゼロのストーカー野郎に‼」

 ありとあらゆるストーカー行為を実行してきた祥。きっと祥の行為に賞賛を送るのは、見本となった龍一郎ただ一人だけだろう。もしかしたら詰めが甘いと叱責してくるかもしれない。

 全く、どうしようもないクズさを学んでしまったものだ。

 被害者である蛍は、もう勝手にしてくれと言わんばかりに、兄の発言を完全無視で、菊に手伝ってもらって片付けを進めることにした。正直、祥の相手をしてくれる双子に大いに感謝をしていた。子供の面倒を他人に見てもらって大いに助かる母親の気持ちとは、ひょっとしたらこんな感じなのだろうか、と蛍は心中で呟いた。

「これは蒼羽がまだ摘むからぁ、そうだな、とりあえず大皿とこれだけ残すか。皿持ちながらの階段は危ないから、これは俺が運ぶ」

「あ、ありがとうございます。菊様は頼り概のあるお兄様ですのね。私、菊様のような気配りの出来て、さり気なく助けてくれる、そんなお兄様が欲しかったですわ」

「ぐぼはッ!」

「ひッ!」

 蛍のさり気ない一言を聞いてしまった祥は倒れた・・・・・・と見せかけて、菊に襲い掛かろうとした・・・・のだが、それを清明に足で踏み付けられて阻止された。まるで逃げ惑うゴキブリを足で踏み潰すが如く、何の躊躇もなく思い切り息子を踏み付けた父親の姿を目の前で見てしまった蒼羽は、小さく悲鳴を漏らした。

「はぁ~、憐れな我が息子よ。友人にお兄ちゃんの座を奪われそうになったからって抹消に掛かるものじゃないぞ?蛍も本気で兄を入れ替えようってわけじゃないんだ。少しは冷静になりたまえ。俺譲りのイケメンがブサイクになってるぞ?」

「・・・・うぐっ!そのッ息子を、思いっきり踏み付けてるんだよッ、親父様!」

「親父様・・・・っ!」

 祥の一言に清明は口に手を当て、何やら顔を真っ赤に染めている。この家族は本当にたった一言でオーバーリアクション過ぎる。

「何やら新しい呼び方に歓喜しているようですね、清明さん」

「私が息子から「父様」と呼ばれていることを羨ましがっていたからな」

「私がいつもお呼びしていますのに。余程お兄様に呼んで欲しかったのですのね。お父様は」

 歓喜するのは一向に構わないが、いつまで踏み付けているつもりなのだと、祥は、床をばんばんと叩きながらタップアウトを示した。

「なぁ、蒼羽。俺、一言どうしても言いたい事あんねん」

「奇遇やわ、僕もあるんよ」

 先程からめちゃくちゃに二転三転する光景を前に、柚緋と蒼羽は腹の中で渦巻いているものを吐き出すように、二人同時に口を開いた。

「「主催者二人が何で会を仕切らへんの!?」」

「「・・・!?す、すみません・・・・・」」

「すごいな、双子顔負けのシンクロ率だ」

 男子会を開催して間もなく、もうでもいいやり取りから争いに発展し、その後現れた父親に罰せられてしまった祥と柳静。

 そもそも会を盛り上げるため場を仕切らなければならない主催者が、何故先程から問題行動連発で、逆に仕切られているのか、不思議で仕方がなかった双子。やっとこさぶち負けられたらしい。その二人の気持ちに気が付いた祥と柳静は今までのやり取りを思い出し、反省し、謝罪した。

 それを見届けた清明と玄琉は、今まで好き勝手に掛けていた圧を解き放った。

「はぁ、終わったか」

「うんうん、終わった終わった。付き合わせたな、玄琉」

「構わない。たまには息子に厳しくするのも悪くなかった。では我々は下に移動する。若人達は、今度こそ楽しい会を催せ。良いな、柳静」

「はい」

 着物を整え、菊が運ぼうとしていた皿達を受け取って玄琉は柳静を見遣り、更にこう告げた。

「少しずつ、周囲を見られるように彼らで学ぶといいだろう。私が言えたことではないが、双子君や菊君は、今までにないタイプの友人だろうからな」

 では、と玄琉は部屋を後にした。その後に続いて蛍の手を引き清明も出て行った。

 あとに残った祥、柳静、柚緋、蒼羽、菊の五人。

「・・・・なんや格好良い事言いながらも、鬼さんパパ、涙流してまへんでした?」

「多分、柳にまた新しい友達が出来た事に感激してるんじゃねぇかな。俺が初めて柳の家に行った時、えらく持て成されたから」

「・・・・・・パパさん・・・・、よかったな・・・・・」

「父親が涙を流していたのはさておき、会を仕切り直しましょう。今度こそ、私と祥が中心として」

「仰せのままに、鬼さん」

「なんなりとお申し付けくださいな、鬼さん」

 息の合った柚緋と蒼羽。左右対称、柚緋は右手を、蒼羽は左手をそれぞれ胸に当て、柳静の前に跪く。

 嗚呼、これ祥の持っていた漫画で見たことがある光景だ、と柳静は従えてもいない二人に跪かれ、少々羞恥心に苛まれた。

「もう私は鬼さんで統一なのですね」

「「うん」」

「左様ですか。祥もいいですね?」

「おう、今度こそ楽しい男子会、いや二次会の始まりだ!」

 おう!と男五人が手を挙げた。

 しかしそれに水を差すように菊が申し訳なさそうに、それでも言わせて欲しいと言わんばかりに、こう告げた。

「柳」

「はい。なんでしょう」

「その・・・・とりあえず、その乱れた着物・・・・・・・直してくれ・・・・・・・」

 改めて会を仕切り直そうとした柳静に。菊は指をさす。

 先程、父親による罰を受けていたため、帯が緩まってしまったのだろう、少々着物がはだけてしまっていた。

 そう、もっと艶めかしく生々しい発想と共に伝えるのならば、誰かに弄られた後、直す暇もなく室内に人が入ってきてしまい、そこで慌てると余計に怪しまれてしまうため、あえて素面を突き通しているような、そんな場面を思わせる姿だ!と柳静の姿を見た祥は声高らかに叫び、柚緋と蒼羽に羽交い絞めにされた。

 デジャブは必要ないと言わんばかりに。

 相も変わらず、息のぴったりな動きで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ