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戯-たわむれ-  作者: 櫻月 靭
二日目~花見の話~
30/53

第二章1-4 『夕から夜のつなぎ』

「朝川・・・・・・ね。分かった。名前は覚えたよ。すまない、祥くん、蛍ちゃん、侑李ちゃん。折角の楽しい花見に水を差すような事をさせてしまって。次期家元として、門下生の管理が出来ていなかったために不快感を与えてしまいました。心からお詫び申し上げます」

 一連の譚を聞いた龍一郎は頭を深く下げ、客人である祥達に謝罪した。その横では柳静も同じく頭を下げていた。

「本当に申し訳ありませんでした。私からお誘いしたというのに、私事で不快な思いをさせてしまうだなんて、どうお詫びしたらいいか・・・・・」

 謝罪しているのだがいつもの無表情、抑揚のない冷めた声のまま。しかし、その中にはきっと、誰も見ることの出来ない様々な感情が混ざり合っているに違いない。それを表に出せない柳静は子供なのか大人なのか。

「何でお前が謝んのさ。あんだけ言われても言い返す事が出来なかった悔しさは、毒舌のお前にとって一番辛い事だったろ。俺らなんかより、ずっと嫌な思いしたんだろうし」

「そんな事ありません。私の事はいいのです。祥達が傍にいてくれますから」

「あれ?柳静、おかしいな。俺はどこがいいのか全く理解出来ないよ。ある一部分がまだ語られていないんだがね。この兄に隠し事をするなんて、どこの馬鹿から悪知恵という言葉を学んできたのかな?」

「龍一郎さん、どこの馬鹿って言いながら俺をばっちり見ないでくれませんか?隠す気ゼロなのが怖いっす」

「おやすまない。でも君も気にならないかい?というより気が付いているけれど、俺には内緒にしている、といった感じかな」

 龍一郎は正座から胡坐(あぐら)へとシフトチェンジをし、次期家元ではなく、柳静の兄へと切り替えた。祥と柳静は互いの顔を見合い、渋々白状する事にした。このまま隠しておく方が兄に何されるか分からず怖いからだ。

「へ、部屋を出た後に別室で少々物理攻撃を受けただけです。顔は騒ぎになりますので、体を中心に。私ならば黙っているだろうという確信の元、実行した行為かとは思いますが」

 これが初めてではありませんし、と口には出さず心の中で柳静は呟いた。

 言葉を紡ぐ間も、凪原柳静は無表情だった。確実に体の至るところには痣が出来、痛みはもちろん、抵抗も許されなかった状況に悔しさはあっただろう。しかし、それでも、彼は無表情のまま、変えることはない。苦痛に顔を歪める事も、屈辱に涙することも。ない。

 そんな柳静に、初めて事実を知った蛍と侑李が、そっと柳静に近付き蛍は右腕、侑李は左腕をそれぞれ着物越しに擦った。何も言葉を発せず、ただ擦るだけだったが、彼女達なりの心配の仕方。きっと「大丈夫ですの?」とか「痛いの我慢しないでねぇ~?」と言ったところで、逆に柳静に気を使わせてしまうだろうから、背後から静かに心配するだけに留めたようだ。

 可愛い心優しき妹達に、柳静は大人しく撫でられる事にし、小さく「ありがとう」、そう呟いた。

 今回、祥はそれを見て、羨ましさを飲み込み流すことにしたようで、龍一郎も気にせず話を続ける。

「・・・・・・そうか。祥くんはいつ気付いたんだい?」

「あ、はい。戻ってきてすぐ。俺達に心配かけないように綺麗に着物を着直したみたいですけど、柳静の後ろ髪の癖の付き方と、帯の結び目の位置、行く前にはなかった袖下の皺を見て、きっとうつ伏せ状態で頭を押え付けられたっていうのは安易に想像出来ました・・・・・・・って、え、何々?何で皆顔引き()ってんの!?」

「い、いえ・・・・・・、お兄様の視察力のレベルの高さに皆さん少々引いているだけですのよ。というよりも癖の付き方まで見ていますのね」

「え、普通見ない!?柳静って日によってくせっ毛が違うから面白くない・・・・・って、俺だっけ!?」

「確かに柳静さんの髪って癖凄いけどぉ~、僕はもう見慣れちゃってたから気にもしなかったよぉ~。祥兄柳静さんの事大好きだもんねぇ~」

「ほほう、やはり君は弟の傍に置いておくには危険過ぎるようだね。さて、どうしようか」

「ひっ。ち、違います!確かに俺は柳静を愛していますよ!親友として!あ、今日は何か良い事があったんだなぁ~とか、もしかして昨日は怖い夢を見て起きちゃったから機嫌悪いのかなぁ~とか、ちょっと気になって推理すると楽しいだけなんです!親友として!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ちょ、何その顔!無言で引くなんて一番辛い反応の仕方だわ!」

 祥の中々ハードなご見解に、長年友人をやっている柳静ですらかなりドン引いている。一切の言葉が出ない程の、親友の観察力と推理力に。といってもドン引きしているといっているが、周囲には無表情で冷めた瞳を向けているとしか思わないだろう。これも観察力なのか、推理力なのか、柳静の表情を見分けられるのは祥か、兄の龍一郎だけだろう。

「はぁ・・・・・。いやだなぁ、祥くんは俺から大切な弟を奪おうとしている。しかし、今回俺に隠すという行為はあまり褒められた事ではないよ、二人とも。何故そうしたのかはまぁ、分かるけど。心配のかけ方にも種類がある事をそろそろ覚えなさい」

「「す、すみませんでした」」

「いいよ、柳静がこうなってしまったのは、俺達家族の責任なのだから。でも悪いけど後悔はしていない。俺は大切な弟を手放すつもりはないし、これからも傍に置くためにはどんな手段でも使うつもりだからね」

 今回の朝川の行為は全て、嫉妬だろう。茶道の家に生まれておきながら、己では何も出来ず、しようともしていない柳静に腹が立って仕方がなかったのだろう。おまけに、茶道関連は父や兄に任せているのは大目に見るとして、仕事もしていない家事もお手伝いさんに任せ、食事も用意して貰うボンボン生活に少々羨ましさと妬みの心も入っていたのかもしれない。これは朝川だけに言えた事ではなく、門下生の中に同一の目を柳静に向けている者は少なくない。

 真実は、父が何もさせようとしない、甘やかしてばかりいるのと、兄が弟子を手元に置くために裏で働いている事が原因なのだが、それを知るには茶道意外で彼らとコミュニケーションを取らねば一生分からぬことだろう。今この場でそんな事情を知って理解した上での付き合いをしている祥は、お前が言う資格なくね?と言いたくなる台詞を、龍一郎に告げる。

「龍一郎さんの行動ってある意味犯罪っすよね」

「そうかい?大丈夫、全ては愛する弟のため、隠密に計画を立てて行動しているから」

「そういう問題なんですか!?」

「君ももう少し利口になれば、きっと分かるさ。なれば・・・・・ね」

「もうこの人嫌!?」

 龍一郎は、祥を敵と認識しているようだ。祥に対して棘は凄まじい。

「はぁ、ブラコンも大概にして下さい。兄さん。弟はつらいですよ、その愛情」

「ん?なんだって?」

「・・・・・・・いえ、どうぞご自由に」

 柳静LOSE。

 凪原龍一郎、三十歳、凪原家の嫡男(ちゃくなん)にして次期家元。そしてブラザーコンプレックスである。溺愛している弟の柳静を傍に置くべく、バイトをしようとする柳静の邪魔をする。黙ってバイトをしてもすぐにバレてしまい、たった一度だけ祥と同じバイト先に勤めていた際は、祥の機転の利いた言動のおかげでしばらくはバレずに済ませられたが、結局はその店に龍一郎が来店してしまい辞めさせられてしまった。それでは飽き足らず、柳静が十八の時、内定の決まっていた就職先に裏で手を回し潰した事もあり、今の無職という状態にした張本人。

 ちなみに、茶会や茶道教室に弟をあまり出せないのは無口で美少年であるために、生徒や出席者の女性に目を付けられないようにするためでもあった(が、柳静の不器用さで道具が次々と破損していくのであまり触れさせたくないのが一番だ)。

「んー、他人事とは思えないよねぇ~、蛍。祥兄といい勝負なんじゃないかなぁ~」

「こんな勝負されても困りますわ。相変わらず龍一郎様の行動は寒気を感じますの。お兄様には心からこうなって欲しくはないと願いますの」

「でもさぁ~。二人とも大好きな妹、弟への愛情は強いよねぇ~。龍一郎さんが狂愛レベル百だとすると、祥兄がレベル五十って感じぃ~」

「確かに・・・・・・・。まぁ、お兄様がシスコンになったのはそもそも龍一郎様が原因なんですけれど」

「え?そうなのぉ~?」

「あら知りませんでしたの。龍一郎様の柳静様に対する弟への愛情レベルの高さに感動して、兄弟の在り方とはこういうものだったのかと勝手に思い込み、私にも同じように接するようになったんですのよ。申し訳ありませんが、私にとっては迷惑この上ないですわ」

「へ、へぇ~。凄いディープな部分を模倣(もほう)しちゃったんだねぇ~、祥兄。蛍、どんまぁ~い」

 所詮は他人事の侑李は、蛍の肩を気楽にぽんぽんと叩いた。昔、祥は兄がいればどんな風だったのだろうかと考える事があり、そこで柳静の兄、龍一郎と出会った時、兄に対する強い憧れと自分もそうありたいという尊敬により、同じように蛍に接することを決意したらしい。自分には可愛い妹がいる。兄として妹を愛すべく、よく龍一郎を観察、時には教わり、見事シスターコンプレックスへと進化を遂げたのである。

「本当に他人事ですのね。貴方は・・・・・・」

「お互い苦労しますね」

 蛍と侑李のやり取りを見ていた柳静が無表情のまま、一言告げた。その裏には兄からの重たい愛に疲れを通り越して、もはや諦めの色が濃く出ていることだろう。

「はいですの」

 そんな二人のため息に龍一郎は何故か微笑ましそうに見遣り、それやあ、と口を開く。

「俺はそろそろ戻らないと。あまり長居するとあの人が探しに来てしまうか・・・・・」


「龍一郎!!?」

「・・・・・・・・・こんな風に」

 何故この家の住人は突如として現れるのだろうか。もう少し静かに入室出来ぬものかと、そう言いたくなるのをぐっと抑える。

「やっと見つけたわ・・・・・龍一郎」

「り、理世!」

「散々探し回ったんだから!」

「い、今戻ろうと立ち上がるところだったんだ・・・・・・っ!」

 理世と呼ばれたこの女性。

 今まさに頭から角を生やしそうな勢いだ。いや、もうすでに生えているかもしれない。清楚な服装に肩までの茶髪の理由は、龍一郎の襟元(えりもと)を掴むと引きずるようにして進もうとする。乱れるとか(しわ)が出来るとか、そんな事はどうでもいいように、力を込めて。


「もう!柳静くんが大好きなのは私も同じだから気持ちは分かるけど、時と場合を選べって何度も言ってるでしょ!お父様があんたの事捜してるわよ!」

「え、父さん怒っているのかい?」

「いいえ違うわ。ヘルプミーの方よ。今年は少し早く始めてしまったようよ。・・・・・お母様がすでに降臨(こうりん)なさっているわ」

 語尾を龍一郎にだけに聞こえる程のか細い声で呟く。

「俺パス」

 真顔でのパス宣言により、理世の手に更なる力が加わる。

「え?あら、おかしいわ・・・・。今私何か幻聴が聞こえたみたい。手に掴んでいるものを床に叩きつけてしまえば治るかしら」

「すみません!行きます!ごめんなさい!行くから機嫌直しておくれ!理世」

 凪原理世。三十歳。龍一郎とは幼馴染で同級生、そして龍一郎の妻。柳静の義姉でもあり、柳静が唯一祥の暴走を止められる者であるならば、理世は龍一郎の暴走を止める唯一の存在だろう。

 中々茶会の席に戻って来ない旦那を連れ戻しに来たらしい。どうせ弟の柳静の所に入り浸っているのだろうと、周囲を捜した後、当たりをつけて。

「理世さん。いつも兄がすみません。私も戻るよう言いはしたのですが・・・」

「いいのよ、柳静くん。いつものことだから。それよりも祥くん、蛍ちゃん、侑李ちゃんいらっしゃい。今日は楽しんでいってね。夕食は私がよりをかけてご馳走作るから」

「わーい!理世さんのご飯大好きだよぉ~!楽しみにしてるぅ~!」

「あの・・・・・・、何かお手伝い出来る事がありましたら申し付けて下さいまし。何でもいたしますわ」

 同性という事もあって、理世は蛍と侑李にとって、姉のような存在。歳が離れているのも手伝って、二人にとって大人の振る舞いが出来、尚且つ家事全般が得意な理世は憧れの女性でもある。

「ふふふ、ありがとう。蛍ちゃん、侑李ちゃん。人数は足りてるから大丈夫よ」

「そうですの・・・・・・・」

「・・・・・・あ、でも食事を運ぶ際に配膳だけはお願いしようかしら」

「「・・・・・・!お任せください(ですわ)」」

「もちろん。つまみ食いはなしね」

「えへへぇ~、気をつけまぁ~すぅ~」

「ふふ、いい子達ねぇ。さてさてじゃあ行くわよ、龍一郎」

 蛍と侑李に向けた素敵な笑顔から一変、龍一郎に対しては黒々しい笑みを向ける。

 首を絞めんばかりに、理世はぐいぐいと龍一郎の襟を引っ張る。気の強い女性である理世には、龍一郎も弱いらしく、良き夫婦関係と言えよう。しかし、それを拒む龍一郎。必死に理世の手から逃れ、弟の後ろへと身を隠してしまった。

「ちょ、ちょっと待っておくれ理世。俺にはまずやらなければならないことが・・・・」

「そういえば、先程お一人帰られましたよ。えーっと、朝川さん、だったかしら」

「は?」

 朝川という名前に一同は息を呑んだ。もう聞きたくも会いたくもない人物として認定されてしまった男の名だ。柳静に嫉妬し、憎悪をぶつけて来た。一同が顔を曇らせる中、理世だけは清々しいくらいの笑顔で続ける。

「頂き物が余っているのでどうぞとお饅頭を差し上げたら急に腹痛になってしまったらしくて、ふふ、お手洗いがもうすでに入られていましたので、今日は失礼すると慌てて帰っていきましたわ」

「・・・・・・理世・・・・、知っていたのかい?」

「ええ、柳静くんが使わない物置に入っていくのを見たから気になって。そしたらあの子が虐めてくれていたから、・・・・だから混ぜてやったのよ。ふふ、もう片方の子は三十分くらいお手洗いから出ないように言っておいたから、ふふふふ、うまくいったわ」

「あ、あはは。どうも」

 これでも柳静くんの義姉なんだから、と理世は微笑む。今から朝川に話をしにいこうとしていた龍一郎は、妻の手の速さに驚愕した。少しはこちらに相談してはもらえぬものだろうか。毎度毎度事後報告とは夫として空しい限りだ。

「え、理世さんが敵を討ってくれたんですか?最強っすね」

「最強って、やだ祥くんったらもう。ちょーっと、お仕置きしただけなんだから」

「ちょっとのお仕置きが、和菓子に下剤を入れることなのかい?理世。恐ろしいよ」

「何言ってるのよ。隠れて暴力に物言わす輩を放っておける程、私は大人しくはないわよ。大切な柳静くんが痛めつけられて出てきたら、そりゃあやり返さないと。もっとも、木刀を持って乗り込んであげたかったけど、今日はお茶会で人も多かったし、やめにしたけど・・・・・」

「だからって下剤を選択するんじゃない!昔からお前のやり方は怖いんだ!」

 いくら義弟が(しいた)げられていたとはいえ、何の迷いもなく木刀や下剤をスキルの一つに加える理世は、きっと凪原家の中では最も敵に回したくない人物といえよう。

 とんでもない女を嫁にしてしまった男は、先程から柳静の後ろから出ようとしない。そんな兄を無視する形で柳静は義姉に言葉を紡ぐ。

「お義姉さん、私事にお手を(わずら)わせてしまって申し訳ありませんでした」

「違うわ」

「はい?」

「私はそんな言葉はいらないの。ほら、もっと別の言葉があるでしょ?」

 そっと、柳静の前に正座し、右手を頭の上に乗せる。まっすぐ澄んだ瞳で、柳静を見つめ次なる言葉を促す。

「・・・・・・あ、ありがとうございます。つ、次はきちんと・・・・・相談します」

「うんうん、いい子。そうよ、柳静くん。昔は一人で抱えちゃえって思ってたかもしれないけど、もう私達は大人なんだから、守ってあげられるのよ。だから嫌なことがあったり辛い事があったら遠慮なく相談してうだい」

「そうだよ柳静。さっきも言ったけれど、心配といっても種類があるんだ。お前は俺達に心配させまいと我慢する癖がついてしまったから、すぐには難しいだろうけれど、少しずつでもいいから俺達にも心配させておくれ」

「はぁ・・・・・・。分かりました。考えておきます」

「考えるの!?そこは素直に・・・・・ッ」

「ありがとうございます、兄さん、義姉さん。しかし、相談したらしたで鬼人と魔人を召喚してしまいそうで、時と場合を選ぶことにします」

 キレると何をしでかすか分からない鬼と、報復させるためならばどんな手段でも選ばない魔人を召喚してしまう方が、柳静にとっては心配だ。とりあえず少しずつ慣れていく事にしようと、彼の中で何かが一歩前進した。

「よし、話がまとまったところで理世。そろそろ父さんをレスキューしにいこうか。きっと今のあの人の方が鬼人に囲まれて寿命を縮めていそうだ」

「そうね。それじゃあ皆夕食楽しみにしててね!」

「はーい!!」

「柳静。もうここにはああいった輩が来ないようにするから、安心して結界を解きなさい。花見、楽しみにしていたのだから、今から存分に楽しみなさい」

「ありがとうございます」

 理世と同じく頭をぽんっとした龍一郎は、ようやく柳静の背後から立ち上がった。茶会ではある程度の挨拶とお茶の振る舞いが終わり、第二の茶会が始まっているようで、次期家元である龍一郎は戻らなければならない。先に理世が出て行き、それを追うように部屋を出ようとしふと、足を止めた。

「あ、そうそう忘れる所だった。蛍ちゃん侑李ちゃん。これさっきお客さんからもらったんだよ。よかったら食べておくれ。俺はこれ以上の甘味は食べられないからさ」

 そう言って懐から取り出したのは、黄色の和紙に包まれ赤い紐で結んであるもの。開けてみると色とりどりの金平糖が入っていた。

「わぁ!綺麗ですわね。ありがとうございますですわ」

「いただきますぅ~、ありがとう龍一郎さん!」

「うんうん、こういうのはやはり可愛い女の子が持つと画になるね。祥くんと柳静には後で酒を持ってこよう。夕食時にまた顔を出すよ」

「やった!楽しみにしてます!」

「今日はもう来なくてもいいですよ、いってらっしゃい」

「ツン早いな弟!全く、たまにはデレてくれても・・・・・・」

 短時間ですっかり回復した柳静のツンツン発言に、龍一郎は少々拗ねながらも手を振ってから部屋を後にした。

 きっと義姉の手でだが、朝川に仕返しが出来た事が、柳静にとっては回復薬となったのかもしれない。

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