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黙想の散歩道  作者: 智康
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死について考えてみたこと

 死が無に至ることであると仮定した場合、どのような過程を経て、そこに至るのか考えてみました。


 死が無に至ることなら、その過程とはどのようなものか。僕は、状況(五感の感覚のほか、思考・感情といった内面の現象も含む)を感じ取れなくなっていき、最後は自分が消える過程と考えます。状況を感じ取れなくなるにつれ、生は死という無に近づいていくのだと思います。何も感じ取れなくなっても、その状況を感じ取る自分はいるので、状況が存在しなくなる時が、自分が消滅する時だと考えられます。状況を感じ取れなくなり、最後には自分が消滅する過程は、生という有が死という無に至る過程です。しかし、有はどれだけ削られても有であり、無にはなりません。状況が感じ取れなくなっていく過程は無に近づいていく過程ですが、これだけでは無には永遠に至ることはありません。だから、この過程に別の要因が加わることで自分の消滅という無に至ると考えられます。


 生きることが状況を感じ取ることであるなら、これを規定するものがあるように思われます。

以下、説明を進めていくにあたって、状況を感じ取ることを規定するものを枠、そして、規定するものと規定されるものという、枠と状況を感じ取ることの関係を枠内関係と呼ぶことにします。

 枠そのものは状況ではないので、感じ取れないし、こちらから直接、干渉することもできません。枠内関係が変化すると、枠内関係の一端である枠も変化します。定義上、枠の変化とは、枠が状況を感じ取ることを規定しなくなることで、これを枠の消失と言うなら、枠にこれ以外の変化はありません。枠の消失が起きると、状況を感じ取ることが起こらなくなります。これは状況が存在しなくなるということです。つまり、枠の消失は自分の消滅です。

 僕らは状況が変化しつつ、続くことを状況それ自体から感じ取ります(*)。だから、状況を感じ取ることには次の状況の到来の予期が含まれます。次の状況の到来の予期とは、次の状況を感じ取ることの予期です。これには、状況を感じ取ることが規定されることの予期、すなわち、枠内関係の存続の予期が含まれます。枠は観念としては考えられますが、そのもの自体は感じ取れないので、この時、枠の存続は予期されません。従って、状況を感じ取ることには、枠内関係の存続の予期のみが含まれます。存続が予期されなくなった時、枠内関係は変化したと言えます。この時、枠は、存続を予期される枠内関係の構成要素から存続を予期されない枠内関係の構成要素へと変化します。これが枠の消失で、この時に自分が消滅します。枠内関係の存続の予期は、状況を感じ取ることに含まれているので、状況を感じ取ることをやめると、枠内関係の存続の予期はなくなります。

枠は状況の中の事物ではないので、時間・空間とは無関係に存在します。だから、枠が枠自身に働きかけることはなく、従って、枠がそれ自体で変化することはありません。枠は枠内関係の変化以外で変化することはないのです。

 以上のことをまとめると、状況を感じ取ることをやめることで、枠内関係が変化し、枠が消失する、すなわち、自分が消滅するということになります。人間は、状況を感じ取れなくなっていく過程と状況を感じ取るのをやめるということによって、自分の消滅という無に至るのです。普段は状況をはっきりと感じ取れるので、状況を感じ取るのをやめようとしてもできません。これが実行されるのは、状況を感じ取るのが困難になった時だと考えられます。死に至る直前や深い眠りに落ちる寸前がこれに当たります。

 死が無に至ることなら、その過程とは、急病・重病・重傷・老衰によって、状況を感じ取るのが困難な状態になり、最後には自ら生を手放す過程です。人間は死の直前に死を受け入れるということになります。

(*)静止した状況は感じ取れません。状況の静止はその継続を以って初めて感じ取られますが、これには静止した状況とは別に変化する事物が必要です。変化する事物のある状況は、静止した状況ではありません。


 以上の推論は、死が無に至ることであるとの仮定の下で行ったのであり、死後の生の存在を否定するものではありません。死を体験したことがないので、死が無に至ることであるのか、それとも、死後の生への通過点なのかは僕には分かりません。また、所詮は僕が考えたことなので、これが絶対に正しいというつもりもありません。

 改めて振り返ってみると、深い眠りにつく過程の説明にもなったような気がします。深い眠りについている時は、一時的にせよ、自分が消滅しています。もしかしたら、人間は自分の意思で深い眠りにつくのかもしれません。


 

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