表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/44

43 妖狐たちの決断

 魔王討伐を果たしたディナードは、コカトリスを持って妖狐たちのところにやってきていた。来る途中に襲ってきた個体がいたので、手土産にしたのである。


 ルシリーの案内に従ってやってきたそこで見たのは、非常に美しい姿を持つ妖狐たちであるが、皆が皆、痩せていた。おそらく、この逃亡生活で疲弊しきっているのだろう。


 コカトリスを見てびくりと体を震わせた妖狐たちであるが、すでに死んでいることに気がつくと、ほっとしたようだ。


 ルシリーは早速、前に出て説明を始める。


「こちらのディナードさんが魔王討伐をしてくれました」


 その言葉を聞き、妖狐たちは半信半疑になりつつも、興奮しながらこゃーんと鳴き始める。


 そして美しい人の姿を取ると、皆で頭を下げるのだ。


「お助けいただき、ありがとうございます!」


 ルシリーはそんな仲間を見ながら、さらに続ける。


「ディナードさんは、料理の達人なのです。おいしい食べ物を振る舞ってくれるそうです」

「おいおい、俺は唐揚げを作るとしか言ってねえぞ」

「からあげ! おいしいよ!」

「ゴブッ!」


 そもそも、たいした材料も持ってきていないのだ。

 魔王をステーキにでもしようかとも思ったが、あれは明日に持ち越しにする。死後硬直が始まって肉が硬くなってしまうためだ。


 早速、ディナードはコカトリスの肉を使って料理を始めると、手伝おうとした妖狐たちのところにティルシアが行って、


「たべるまえに、てをあらう!」


 そう教えるのだ。


(ふむ……出会ったばかりのときは、俺が教えたんだがな)


 ディナードはティルシアと会ったばかりのときを思い出す。

 レスティナがコカトリスに襲われて負傷していた。それを助けてあげて、コカトリスの唐揚げを作ったのである。


 あれから、二人とも長いこと過ごしている。


(……これで契約もお終いだ)


 ディナードは魔王を食べに行く。そして二人は護衛してもらう。

 そういう約束だった。


 だから、もう一緒にいる理由はない。ゴブシは飯食いたさ理由でついてきただけだが……。


 ティルシアは妖狐たちと仲良くお話ししている。


(妖狐は妖狐と一緒にいるほうが幸せかもしれねえ)


 そんなことを考えているうちに、コカトリスの唐揚げはジュウジュウといい音を奏で始める。


「からあげ!」


 ティルシアは狐耳をぴょこんと立てて、はしゃぐのだ。


 そしてディナードが揚げ終わったものを載せた皿を運んでいく。


「どうぞ!」

「ありがとう。ですが……」


 妖狐たちは遠慮して、ディナードに視線を向ける。だから、彼は余裕のある笑みを浮かべるのだ。


「熱いうちに食うのがうまいぞ。せっかくティルシアが持ってきてくれたんだ。いらないとは言うなよ」

「ありがとうございます。では、いただきます」


 そうして一口かじると、彼らは目を見開いた。


「んっ……! これは……」

「おいしい!」


 皆が皆、目を奪われるほどの美人なのだが、口の周りを肉汁で汚して、夢中になりながら唐揚げを口にする。


 噛むたびに肉汁が溢れ出し、止まらないのだ。


 妖狐たちは何十人もいるから、物欲しそうに指を咥えて見ている者も出てくる。


「まだまだあるぞ。待ってろよ」


 ディナードはそんな彼女たちに、せっせと唐揚げを振る舞うのだ。

 そしてつまみ食いしようとするゴブシとのバトルも始まる。


 彼が揚げた肉を、すかさず食べようとするゴブシ。けれど、熱々でさっと手を引っ込める。しかし、待っていれば妖狐たちのところに持っていかれてしまう。


 ディナードは「大人しくしてろ」と制すのだが、それでもゴブシはやがて思い切って手を伸ばし、唐揚げを口に含んだ。


「ゴブゥウウウウ!」


 うま味による絶叫か、はたまた火傷による悲鳴か。

 ゴブシはぴょんぴょんと跳びはねながら、どこかに走っていった。


 そんな賑やかな食事会が行われ、積もる話もあるのだろう、ティルシアがまだまだ話したりないようだったので、ディナードは一泊していくことにした。急ぎの旅でもない。


    ◇


 夜空を見ながら、持ってきたワインをちびちびと口にしていると、レスティナがやってくる。


「あの……ディナードさん」

「うん? どうした?」

「……魔王を倒していただき、本当にありがとうございました」

「気にするな。俺も魔王を食いたかっただけなんだから」

「そう言って、気を配ってくれるところ素敵ですよ」

「そりゃどうも」


 ディナードはなかなか本題を切り出せなかった。

 レスティナも同じだったのか、彼の隣にちょこんと座る。


 それからしばし、お互いに無言になった。今日は穏やかな天気で、そよそよと吹く風が心地いい。


 それに揺られて靡く髪、そして狐の尻尾。それが彼女が魔物であることをよく見せつけてくる。


「ディナードさん。大事なお話があります」

「ああ。これからのことだろう?」


 レスティナは頷く。

 ディナードはわかっていたとはいえ、長く付き合いすぎた、と思うのだ。情が移ってしまう。


 一人で冒険をしていたときには、なんら気にしたことはなかったのに、今は一人になるのがやけに寂しい。


「これで契約はお終いです。私たちのために、無理をなさる理由はありません」

「無理はしてないさ。子守も楽しいもんだ。……それより、ティルシアのことだろ?」

「はい。もし、彼女が元どおりの生活を望むのなら……」

「そのほうがいい。こんなおっさんといるよりも、綺麗な娘さん方といるほうが楽しいさ」

「あの……」

「気にするなって。お前さんが責任を感じることじゃない」


 レスティナは狐耳を前後に動かす。

 ディナードはそんな仕草をじっと眺めていた。今は考えている途中なのだ。

 やがて彼女は思いきってディナードに視線を向ける。


「私個人としては……これからも、ディナードさんと一緒にいたいと思っています」

「お、嬉しいこと言ってくれるねえ。おっさんにもモテ期が来たか」

「本心なんですからね」

「わかってるさ」


 けれど、レスティナの一番はティルシアだ。そこはどう足掻いたって、変わりやしない。

 そうであるからこそ、彼女は魅力的なのだろうともディナードは思う。


「さて、これが最後だ。晩酌に付き合ってくれよ」

「……はい」


 レスティナと二人で夜空を眺めていると、いつの間にか、近くからグビッグビッと音が聞こえてくる。


 そこにいるのはゴブシ。

 ワイン瓶は空っぽになっている。


「ゴブィ~ゴビッ!」


 しゃっくりをするゴブシ。すっかり酔っ払ってしまったようだ。


「おいおい……」

「晩酌、終わっちゃいましたね」

「ま、これも悪くないか」


 そうしていると、目をこすりながらティルシアがやってくる。


「んー……ねないの?」

「ちょうど寝ようと思っていたところさ。なあ?」

「はい。では、そうしましょう」


 ディナードは「ゴブブ」といびきをかいているゴブシを抱えて、レスティナ、ティルシアと一緒に寝床に向かうのだった。


次で最終話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ