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41 ウォーター・リーパーの唐揚げ

 いろいろトラブルがあって更新できる状態になかったのですが、落ち着いてきたので書いていきます。遅くなってしまい申し訳ありませんが、楽しみにしてくださる皆さんのおかげでこうしてまた筆を執ることができました。ありがとうございます。


 前回のあらすじ

 近くに妖狐が現れたと聞いたディナードは、妖狐の親子レスティナとティルシアと調査に赴いた。その正体は、知り合いの妖狐ルシリーであった。

 いろいろと話はあるが、彼らはお腹が空いていたのでとりあえずお昼にすることにした。狙いは、水たまりに住んでいる魔物である。

 ぴょんぴょんと水上を飛び回っているのは、オタマジャクシのような尻尾を持ち、トビウオとカエルを合わせたような肉体を持つ魔物ウォーター・リーパーだ。


「あれを食べるだって……?」


 ルシリーはすっかり困惑した顔になる。


「嫌いだったか?」

「そうではない。だが……人も妖狐も、地上で暮らしている。まさか、私に泳いで取ってこいと言うのではなかろうな?」

「そんなことはしねえって。ま、お前さんにも手伝ってもらうがな」


 ディナードは彼女に網を渡す。

 かなり大きなサイズのものであるが、それでも不安があるようだ。


「ウォーター・リーパーは網くらい、食い破ってしまうぞ」

「それは水の中にいるときの話だろ? 陸にあげてしまえば、脚もないから、もがくばかりだ」

「しかし……どうするというのだ」

「釣るんだよ」


 ディナードはゴブシのお腹に縄を巻いていく。

 ウォーター・リーパーを見ながら、涎を垂らしつつぼけーっとしていたゴブシは、はっとした。


「ゴブッ!?」

「あいつを釣るんだ。心配するな、食われる前に引っ張るから」

「ゴブブ……」

「唐揚げにしよう。からっと揚げて、ジューシーにするんだ。あいつはカエルとトビウオ、両方の味わいがあるから、淡泊だがほどよい触感がある」

「ゴブ!」


 驚き、悩み、そして料理の魅力にあっさりと敗北するゴブシ。

 ティルシアはそんなゴブシの、とめどなく流れ出る涎を拭いてあげていた。


 ディナードはルシリーに視線を向ける。


「ってなわけだ。どうだ?」

「仲間を餌にするとは! なんてやつだ」

「涎垂らしながら言うことじゃないだろう。お前さんの口は素直だな」

「くっ……」


 ルシリーは慌てて涎を呑み込んだ。美人が台無しである。


 ともかく、ディナードはゴブシに水たまりに入ってもらう。そこでゴブシがちゃぷちゃぷしていると、ウォーター・リーパーはその存在に気がついた。


 ぴょんぴょんと水の上を飛びながら、猛烈な勢いで迫ってくる。


「ゴ、ゴブゥ!?」


 慌てるゴブシ。その眼前に敵が迫った瞬間、


「行くぞ!」


 ディナードは思い切りゴブシを引っ張り上げる。ぴょーんと跳び上がるゴブシ。

 そしてウォーター・リーパーはそこに飛びつこうとした。


 大きな口を開けて、ゴブシへと迫っていく。そこにディナードも跳んでいき、ゴブシをキャッチすると、


「レスティナ!」

「任せてください!」


 彼女のところに放り投げた。


 見事、ゴブシをキャッチしたレスティナ。しかし、ゴブシは水に濡れていて、なんとも触り心地が悪く、嫌な顔になるのは仕方ない。


 そしてディナードはゴブシの代わりにウォーター・リーパーへと向かいながら、包丁を抜いた。


「人に仇成す魔物よ――」


 最後まで言い終わる前に、敵が間近になる。


「唐揚げになるといい」


 問答無用で包丁を振り下ろすと、ウォーター・リーパーの頭が真っ二つになる。

 しかし、胴体には切り込みは入れない。内臓を傷つけない配慮だ。


 そうして彼が着地したときには、ルシリーが駆けている。

 ウォーター・リーパーが草木の間に飛び込んでいく前に、網でキャッチ。


「やった!」


 すっかり嬉しそうになるルシリー。尻尾はぶんぶんと揺れていた。

 ティルシアがやってくると、二人で喜び、駆け寄ってきたゴブシと一緒に涎を垂らしそうになる。


「ディナードさん、お疲れ様でした」

「ああ。さあ、飯にしようか」


 彼はウォーター・リーパーの内臓を取り出し、鱗を取って鰭を落とし、さっと二枚に下ろす。

 それから魔法で水を生み出しよく洗ってから、ペーパーで水気を取り、塩をまぶしてから片栗粉をつけていく。


 ティルシアはわくわくしながら手伝っていると、


「るしりー、いっしょにやろ」


 と、おねだり。

 じっと見つめられると、ルシリーも断ることなんてできやしない。


「し、仕方ないな」


 そう言いつつも、楽しげな彼女である。

 ディナードとレスティナは、山菜も洗って、そちらも揚げてしまうことにした。 


 魔法で炎を生み出すと、ルシリーの尻尾がピンと立った。


「なっ……!」

「珍しいか?」

「さっきは水を生み出していたじゃないか。いったい、何者なんだ……!?」

「子守に奔走するおっさんさ」


 言いつつ、彼ははしゃぐゴブシの面倒を見るのだ。

 ルシリーの困惑はますます深まるばかり。


 そして油がジュウジュウといい音を奏で始めると、誰もが生唾を呑み込む。いい香りが漂っていた。


 今回はただ揚げただけのものだから、非常にシンプルだ。

 しかし、取れたての食材で、自分たちで作るからこそのおいしさもある。


 彼らは待ちきれない、とばかりに箸を掴んだ。


「いただきます!」


 一人と四匹は、揃ってウォーター・リーパーの唐揚げを口にした。


「これは……!」


 ルシリーが目を見開く。


「カエルのようにプリッとしていて、それでいて魚らしさも失っていない。いや、噛めば噛むほどに味わいがある! なんということだ……!」

「お前さん、そもそも唐揚げ食べたことあるのか?」

「ない」


 これにはディナードも苦笑い。そもそも、妖狐は料理もしていなかったのだ。


 ルシリーはせっせと唐揚げを味わい、ゴブシもモグモグと口を動かす。次々と食べる二人を見つつ、ティルシアも満足そうだ。


「しかし、悪くないな」


 ウォーター・リーパーの身は、思った以上に味わいがある。

 雑食で、魚とは違って動物を食べたりもするからだろうか。


 小骨をポリポリと砕くと、食感が心地いい。あっさりしているため、いくらでも食べられそうだ。


 カラリとした食感。溢れるうま味。

 それが来ると、次に欲しくなるのは……


「うーん。ビールでも持ってくりゃよかったか」

「もう、これから魔王を倒しに行くんじゃなかったんですか?」

「そうだったな。魔王はステーキにしてやるんだ。ワインで正解だったはずだ」

「……持ってきたんですか?」


 これにはレスティナも呆れてしまう。

 が、やっぱりディナードは、魔王を食べるために旅をしてきたのだから、いい加減に済ませたくもなかった。


 そんな彼らであるが、本来の話をしなければならない。


「さて、お前さんたちは魔王から逃げてきたってことでいいんだな?」

「ああ。あの魔王は強く、我々では歯が立たなかった」


 レスティナは目を伏せる。

 妖狐で一番の実力者であるルシリーが言うのだから、相当なのだろう。

 けれど、ディナードの興味は別のところにある。


「で、どんな魔王なんだ?」

「ドラゴンだ。体はあまり大きくないが、かなり獰猛で、何倍も大きさのある魔物をもかみ殺してしまうやつだ」

「なるほど。ドラゴンか。ちょっと肉が硬そうだな」

「鱗には牙が通らなかったが、それさえなければ、噛み千切ってやるというのに」

「鱗を取っちまえば、柔らかいのか」

「通常の魔物と比較すれば硬いだろうが、かみ切れないほどじゃない」

「ふむ。やっぱりステーキだな。硬くてダメならシチューにでもするか」


 会話がまったく噛み合っていないのだった。


「よし、じゃあ魔王を倒しに行くか」

「な、なにを言っているんだ! あんなのを倒すなんて――なにを考えている!」

「そりゃ、飯のことだろ」


 ディナードが告げると、隣でゴブシが腕を組みながら、うんうんと頷いている。

 さすがにゴブシと一緒にされたくはないディナードであった。


「ともかく、放っておくわけにもいかない。人間たちも、お前さんたちが山にいると、襲われるんじゃないかと不安になるんだ。協定を結ぶか、離れるか、なにかしないと攻撃される可能性がある」

「……だが、我々もすぐには移動はできない」

「だから、さっさと魔王を倒してしまえば、すべて解決する」

「それができたら、苦労していない」

「ま、お前さんが行かないって言うなら、勝手に行くだけさ」


 ディナードが告げると、ゴブシが隣で頷く。

 このゴブリン、おいしい食事のためならば、命すらも惜しまないのだろう。


 ディナードはゴブシと会ったとき、ロック鳥の卵を抱えていた姿を思い出す。こんな食いしん坊ゴブリンがほかにいようか。


 そしてレスティナとティルシアも胸を張る。


「私たちはディナードさんを信じて、託してここまで来ました。きっと、魔王も倒してくれるはずです。ルシリーさん、どうか、魔王の場所を教えてください」

「おねがい!」


 二人が告げると、ルシリーは覚悟を決めたようだ。

 一つため息をついた。


「わかった。だが、魔王の場所は説明しにくい。移動していることもある。だから、私が案内する」

「るしりー!」

「か、勘違いするなよ。魔王を倒せば、私たちも逃げなくて済むようになるからなんだからな。ほだされたわけじゃないぞ」

「わかってるさ。一緒にうまいもんを食おうぜ」


 そう言われると、食べたくなってしまうルシリーであった。

 彼女もまた、食いしん坊なのだろう。


 いよいよ食事を終えると、彼らは魔王の居場所に向かって歩き出す。

 ルシリーは赤毛の妖狐となって、ふんふんと鼻を鳴らしながら進んでいく。


 やがて、魔物があちこちに見られるようになってくる。その先に、魔王がいる。

 彼らはいっそう気を引き締め始めた。


あと数話で完結となります。最後までお付き合いいただけますと幸いです。

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