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23 ワイルドボアの味噌炒めとぼたん鍋 中編



 ディナードは早速、野菜の下ごしらえを始める。


 白菜の葉の固い部分は大きくそぎ切りにし、やわらかい部分はぶつ切りに。そしてニンジンは輪切りにして、エノキやシメジは石突きを切り取っておく。ゴボウはささがきにして、大根はいちょう切りに。


 この辺りは好みがあるため、火さえ通るなら大きさは自由だが、ティルシアがいるため、あまり大きいサイズにはしないでおく。


 そうしていると、ティルシアがじっと見つめてくる。


「やってみるか?」

「やる!」


 ディナードはティルシアの手に小さめのナイフを持たせつつ、彼女の手を動かしていく。トントンと、これまでと違って遅いペースで、音が響く。彼女の尻尾は一生懸命、リズムを取るように、それに合わせて左右に揺れていた。


 レスティナはひやひやしながら見ている。子を持つと、どうしても心配せずにはいられないのだろう。


 切らずに残っていた材料はそこまで多くなかったため、ティルシアが疲れる前に終わることができた。「ふー」と一息つく彼女は、自分で作ったという実感があって嬉しげだ。


「できた!」

「ああ、よくやったな」


 ディナードはティルシアの頭を撫でてやる。

 ただ誰かが作ったのを食べるのではなく、自ら手を動かしたものはやはり別格だ。まして、それが未経験の者ならば。


 それから鍋のダシに味噌を加え、砂糖、みりん、酒などで味を整えて、沸騰するまで火にかける。野菜から水が出るため、少し濃くしておくといい。


 そうしてぐつぐつと音が鳴り始めると、いよいよ鍋にイノシシ肉を投入する段になる。ディナードが野菜を切っている間に、レスティナは肉に山椒を振りかけて、ぼたんの花のように並べていた。


 この肉はロースで脂身が特徴だ。これが冬にたくさん蓄えられるのだが、今はそんな季節でもなく、ワイルドボアもそれほど肥えていたわけでもないので、控えめになっている。


 柔らかいのがウリで、赤身と白身の部分がキッチリ分かれているため、とても綺麗に見える。


「崩すのがなんだかもったいないな」


 そう言うが、見た目よりも食い気のちびっ子がうずうずしていたので、鍋に入れていくことにした。


 皿と鍋の間を箸が行ったり来たりするたびに、ティルシアとゴブシの視線も行ったり来たり。


「イノシシの肉は煮込むほど柔らかくなるからな。じっくりとやるか」


 あとは煮えにくい野菜から入れていくだけだ。ディナードはときおりアクを取っていくが、レスティナが手持ち無沙汰にしてるのが見えた。


「レスティナ。そっちは任せてもいいか? 野菜を入れるタイミングくらいは指示するから」

「はい。任せてください!」


 レスティナが張り切るので、ディナードは味噌炒めを作ることに。


「さてさて、漬けておいたのはどうなったか」


 前もって味噌とヨーグルトに漬けていたイノシシの肉を見てみると、かなり柔らかくなっている。これなら硬くて食べられないことはないだろう。


 味噌と砂糖、酒を混ぜたものを用意し、薄い鍋に油を引いて千切りにしたショウガを入れる。軽く炒って香りが出てくると、イノシシの肉を入れる。


 ジュウジュウと心地よい音が響き、若干野生っぽくもおいしそうな香りが漂い始める。

 ゴブシは涎を垂らし、我慢できずにつまみ食いしそうになる。


「おいゴブシ、やめておけ。この熱い鍋の中に素手を入れようとするほどの度胸は認めるが、中までしっかり火が通らないと、肝炎になるからな」


 ディナードが警告すると、ゴブシは手を引っ込めた。ものわかりのいいゴブリンだ。


 イノシシの肝炎は、発熱や倦怠感を覚えるものの基本的に慢性化はしないとされているが、劇症化して死亡することもある。


 加熱すれば感染性は失われるため、生焼けにしないのが肝要だ。


「ディナードさん。そろそろいい感じです。味を見てもらっていいですか?」

「ああ、ゴブシ、ちょっと味噌炒めのほう見ていろ」

「ゴブッ!」


 張り切るゴブシ。しかし、別に張り切るほどのことはないし、やりすぎて失敗するほうが不安なのだが……。


 ディナードはレスティナとティルシアに見守られながら、そちらの鍋に向かう。


 すでに野菜はいい感じに煮えてきている。ディナードは汁を味見してみると、イノシシ肉の脂身のうまみがよく出ていて、これがまたコクがある。ゴボウなど野菜もしっかりダシが出ている。


 軽く調味料で味を整えて、最後に水菜や豆腐を入れると、ほんの少し煮るだけで完成だ。


「よし、こっちもそろそろだろ?」


 真剣な面持ちで味噌炒めを見つめているゴブシのところにいき、しっかりと肉に火が通ったことを確認すると、先ほど準備していた味噌と砂糖、酒を混ぜたものを入れて炒めて完成だ。


「よし、できたぞ」

「やった!」


 ティルシアが嬉しそうに尻尾を振る。もう隠す気もなくなっているようだ。幸いにも宿の主人はいないため、見られることもない。


 その間にぼたん鍋もできあがっている。

 今回はしっかり手間をかけて作った料理だ。自然と期待も高まってしまう。


 ディナードは皿を用意すると、ティルシアが運ぶのを手伝ってくれるので、彼はぼたん鍋と味噌炒めをテーブルへと運んでいく。


 そうして全員が揃って席に着くと、いよいよ待ちに待った食事を始める。


「いただきましゅ!」


 舌っ足らずなティルシアが嬉しげに箸を取った。

いつもお読みいただきありがとうございます。


お肉を柔らかくするのにパイナップルや蜂蜜なども使われますね。蛋白質分解酵素が働くおかげですね。

肉の臭みを取れるということでヨーグルトを使いましたが、個人的には臭みを取るにはニンニクのほうが好きです。とはいえ、狐さんとは一緒に食べられませんね。


次回、いよいよ賑やかなお食事会!

今後ともよろしくお願いします。

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