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14 ロック鳥の親子丼とローストチキン 前編


 まずは米を炊かねばならない。

 ディナードは手を洗ってから飯盒に魔法で水を入れると、米を軽く研いでおき、しばらく水に馴染ませておく。


「ゴブシ、燃えそうな枝を集めてきてくれ。ティルシアもお願いできるか?」


 そう告げると、ゴブシとティルシアは楽しげに木の枝などを拾い始める。

 その間にディナードは、ロック鳥の雛鳥の頭はすでにはねているため、羽をむしり始める。


 ロック鳥は羽を飛ばす性質もあって、熱湯をかけるとスポスポと羽が抜けるのだ。


「この羽がなかなか便利なんだ。幼いロック鳥なら羽毛布団になるし、親鳥のほうなら軽い鎧にもなる」


 こちらは素材として利用することができるため、持ち帰りになる。


「お前さんたちも手伝ってくれ。やることねえだろ?」


 兵たちに声をかけると、先ほどまでディナードの戦いっぷりに感動していたこともあって、率先して行ってくれる者が多い。


 ロック鳥は羽が多いため、むしるのに時間がかかるのだ。

 ディナードは兵たちにそちらを任せると、親鳥のほうの解体を始める。巨大な肉体で羽も大きく、とにかく時間がかかりそうだ。


「ディナードさん、お手伝いします!」


 レスティナは人化して隣にやってくると、そう張り切った。兵たちは人の姿となった彼女を見て思わず息を呑む。


 彼女が妖狐と知っていなければ、その美しさに我が目を疑ったに違いない。


「力仕事になるが、大丈夫か?」

「はい。任せてください」


 そうして二人でロック鳥の羽をむしり始める。そういえば、レスティナも魔物として暮らしていたときは、鳥も食っていたのだろうなと思うディナードであった。


 その間に兵たちが雛鳥の中抜き――内臓を取り除く作業を終えていた。


「内臓はいかがしましょうか?」

「ああ、魔力が溜まっているから、人には食えないかもしれないな。魔法の燃料にしよう」


 魔物であれば魔力がある魔物を食って成長するが、そもそも一切の魔力を持たない人にとっては毒にしかならない。だからこちらは食用にはしない。


 ディナードは包丁を器用に用いて背骨を取り出す。


「丸焼きにするんですよね?」

「そうなんだが、雛鳥とはいえロック鳥はそこらのニワトリとは比べものにならない大きさだ。このままだと中まで熱が通らない可能性がある。しっかり焼かねえと、食中毒を起こすからな」


 大きさの都合上、どうしてもこのままではいけない。

 そこでディナードは観音開き(バタフライ)にする。そうして大きく開くことによって、多少は薄くなるため(といってもロック鳥なのでかなり大きい塊なのだが)、中まで火を通すことができて、野生の魔物であり細菌の多いロック鳥の感染症リスクを下げることができる。


 ロック鳥の親鳥では作れない雛鳥だけの料理だ。


 お腹の中にスタッフィングを詰めることはできないが、そこは仕方ない。そもそも、それだけの野菜も持ってきていなかった。


 ちょうどティルシアとゴブシが戻ってきたので、ディナードは魔法で炎を生み出し、木々をくべて火の調節を行う。


 その間に二本の木の間に飯盒をつるす部分を用意したものを作っておき、燃える炎の上に持っていく。そこには飯盒を下げておく。

 はじめは中火で、湯気が出てきたら強火に。そして吹きこぼれが落ち着いてきたら中火に戻すのだ。


 しかし自然の炎ゆえにそんな微調整なんてできないため、そこは人力で行う。左右で木を持っている兵が持ち上げたり下げたりすることで加減を調節する。


 そして別の炎では雛鳥を炙る。こちらは塩胡椒のほかに、道中で拾ってきた木の実などを砕いて混ぜたものをかけるだけの簡単な味付けにしておく。


 ロック鳥の肉自体がおいしいため、過剰に香辛料を使う必要もないのだ。


「そっちは任せたぜ」

「はい!」


 兵士たちは威勢よく答える。真剣に取り組んでいるし、ローストチキンを任せても問題なかろう。


 あとは焼くだけのそれらと違って、ディナードはこれからやらねばならないことがある。親鳥を捌かなければならないのだ。


 兵士たちも手伝ってくれていることもあり、大きな鳥だというのに羽はむしり終わっている。彼らが張り切る原動力は、すでにディナードの奮戦を見たことではなく、一口くらい分けてもらえないかという願望かもしれない。


 魔物メシはそこまで一般的ではないが、この匂いを嗅いでいれば、我慢などできないのだろう。


 ディナードは炎の魔法で産毛を焼き切り、包丁を用いていよいよ捌き始める。

 まずはお尻のほうを切り取る。このぼんじりはあとで串焼きにする予定だ。


 そしてももの付け根に包丁を入れて、関節を外してから切り離す。

 このもも肉はそのまま焼いて食っても柔らかくてうまいが、今回は親子丼に使用するのだ。とはいえ、余った部分は焼いてみてもいいかもしれない。


 それから包丁を用いながら胸肉を剥がし、くっついている手羽を取る。手羽は肉が少ない部分だが、ロック鳥自体が大きいため食べ応えもあるのだ。


 ささみを剥がし、ももの骨を外す。

 ここまで来れば、あとは彼の持つ巨大な包丁でなくとも、なんとかなる大きさだ。


「鶏ガラは持ち帰って、なんかの料理に使うか」


 ロック鳥の場合、先に魔力を出さないと、スープににじみ出て大量に摂取してしまうことになるため、あく抜きは少々長めにやることになる。ここでやるには結構な手間なのだ。


「ディナード殿。おそらくは持ち帰った場合、魔法の燃料に使われるかと思いますが」


 そう告げてきた兵の目は暗に、食ってはいけないかと尋ねてきている。くっついている肉には、焼き鳥にできる部分もあるからだ。


 今回は親子丼を作るのが目的なので、そちらの処理は後回しでいいかと思っていたのだが、食えるもんは食ってしまうということらしい。


「まあ、お前さんたちに任せる。好きにするといい」

「ありがとうございます!」


 兵士たちが解体し始めるのを横目に、ディナードは親子丼を作り始めることにする。

 ちょうどこのとき、飯盒ではご飯が炊き上がったようだから。火から下ろし、蒸らしておく。この一手間でおいしさがグッと増すのだ。


「いよいよですね」


 レスティナがティルシアとゴブシを連れてやってくる。だからディナードも頷いた。


「ああ、いよいよだ」


 ディナードは昆布出汁を取って、みりんと醤油で割り下を作っておく。今回はタマネギではなく白菜を用いるため水分が多く出てしまうので、味付けは濃くしておく。


 その間にもも肉の皮を取り始める。皮を使ってもいいのだが、脂が多く、その味が移ってしまうため、今回は贅沢にもも肉だけに。


 そぎ切りにしたもも肉を割り下につけて、しっかりと火が通るように煮立たせる。そして白菜と椎茸を入れて、あらかじめ消毒しておいたロック鳥の卵を投入する頃合いを見計らう。こちらはすでにといてある。


「いい匂いがしてきましたね」


 すでにローストチキンからは香ばしい匂いが漂ってきているのだが、こちらもそれに負けないだけおいしそうだ。


 ゴブシはすでに匂いだけで涎をこぼしそうになってきているし、ティルシアはあっちに行ったりこっちに来たり、料理を待ちきれないようだ。


 兵たちもセセリやハラミなど、鶏ガラにくっついていた肉を焼いているため、そこかしこで煙が上がっている。


「ティルシア。山菜を洗ってくれないか?」

「おー!」


 ティルシアが尻尾を振りながら嬉しげに片手を上げた。

 それからディナードが魔法で水を生み出し、ティルシアが小袋の中から取り出した三つ葉を、ゴブシは途中で取ってきた山菜を洗う。


「虫卵がくっついているかもしれないから、丁寧にな」


 寄生虫は熱で死ぬため、あらかじめさっと茹でると、ささみと一緒に添えてサラダの完成だ。


 そして茹でていたもも肉にといた卵を投入。ここで全部は入れず、少し残しておく。

 火にかけていると、卵はゆっくりと固まっていく。ティルシアは狐耳を動かしながら、興味津々に眺めている。


 いい頃合いになると、残った卵をかける。これによって、ふわふわした親子丼を作ることができるのだ。さらに三つ葉を載せる。


 これを炊き上がっていたご飯にかければ完成だ。


「よし、できたぞ!」

「やった!」


 ティルシアがバンザイをする。

 そしてローストチキンもようやくできあがった。


 それらを簡素なテーブルに並べると、ディナードはレスティナとティルシア、ゴブシと一緒に食事を始める。


 調理用に持ってきたものだから小さく、彼らの分しか置けないのだ。

 しかし、兵たちはそれぞれに鶏肉を焼いた串を持っていた。まだ誰も食べていないのは、ディナードたちが料理を終えるのを待っていたからだ。


 だから彼は、


「今日の討伐はご苦労だった。さあ、勝利を祝って食おうじゃねえか!」


 そう宣言した。

 冒険者である彼は食事に関するマナーに詳しいわけではない。兵士たちだって、戦いの中では、乾物ばかりを食べることになるため、そういうのに慣れているだろうし、上品な者ばかりではない。


 けれど、そんな賑やかで、ときに失敗し、ときに予想外の出来事に驚き、作り上げたメシを皆で食う。


 それこそが屋外でメシを食う醍醐味だ。ただ出てくるものを食っているだけではとても味わえない。


 ロック鳥の討伐は、この食事が最後にあってこそ終わる。

 ディナードたちは待ちに待った肉を切り分けて、それぞれかじりついた。

いつもお読みいただきありがとうございます。


鶏肉と言えばカンピロバクターですね。発生件数は年に数百件と、ノロウイルスと一位二位を争い続けている食中毒の原因です。ほかが数件~数十件なのを考えると、かなり多いですね。

流通している鶏肉でも40~60%ほどにカンピロバクターがくっついているそうです。

鶏肉を食べる際は、よく焼いてくださいませ。


次回はお食事シーンです。

よろしくお願いします。

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