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遠くの君へ

作者: ちーずん


  「うちさ、今度引っ越すことになった」


  突然の、別れだった。

  小学校からずっと一緒でずっと一緒にいた大好きな親友。

  だから、受け止められなくて


  「嘘ばっかりー」


  なんて、笑って誤魔化してしまった。


  「・・・・・・いや、ほんとに引っ越すけど、一駅分くらいしか変わらないんだよねー」

  「だよね! やっぱり! もー、意味深な言い方やめろよー」


  今、笑っている。

  ホッとしている。


  「良かった・・・・・・」

  「・・・・・・・・・うん」


  私の呟きに、彼女の声は小さく萎んでいった。

  私は、気づかない。

  彼女の嘘に。

  彼女の、精一杯の笑顔に。



  「宮脇さんが、大阪に転校することになりました」


  親友と話した3日後。先生から、そんな言葉を聞いた。

  静まり返る教室。

  彼女は、俯くことも、泣くこともせずに笑っていた。

  私は少し離れた席から彼女を見つめる。


  「今まで、ありがとうございました。って言っても、短い間でしたが・・・・・・」


  皆、彼女をただ呆然と見つめる。

  理解なんて、できるわけが無い。

  今まで、当たり前だったのだから。一緒にいることが。


  「・・・・・・実は、引越しは明日なんです。だから、今日が最後なんだけど・・・・・・」

  「わっちゃん、行かないで・・・・・・」

  「そうだよ・・・・・・なんで、なんで・・・・・・」

  「あー、あー、泣かないで、ほら、ね?」


  周りで啜り泣く声が上がる。それを、彼女は笑いながら慰めていた。

  そして、目が合う。

  彼女は、私を見てにこりと笑った。



  「・・・・・・どういう事?」


  帰り道。私は、立ち止まって彼女に問いかけた。

  すると、彼女は笑う。


  「嘘をついたのは、ごめん。でも、あの時はそうするしかなかったんだよ」

  「・・・・・・意味わかんない! 納得出来ない!」

  「うちだって! うちだって、一番最初にいいたかったよ。だけど! だけど、それを拒んだのはあんたでしょ・・・・・・」

  「っー・・・・・・なんで・・・・・・なんで、急に・・・・・・」

  「ひっく・・・・・・行きたく、ないよ・・・・・・」


  最後の日も1日中笑っていた彼女が、初めて涙を流した。

  アスファルトには小さなシミがいくつもできる。


  (なんで、泣くのよ・・・・・・私だって、泣きたい・・・)


  「・・・・・・嘘つき」

  「え・・・」


  私は、その場を走り出していた。

  彼女の涙なんか見たくなくて、まだ冗談何じゃないかって淡い期待を抱いていた。


  だけど、そんなはずも無かった。


  家に帰れば、母さんが事情を聞いてくる。


  (知らないよ・・・・・・)


  私は、とにかく1人になりたくて部屋に入った。


  暗い部屋。

  ベッドにダイブする。

  私を飲み込むような感覚。


  (・・・・・・どうしたらいいんだろう)


  ひどいことを言ったとは思っている。

  だけど、私も嘘をつかれたのだ。

  でも、その理由を作ったのは私。

  私に怒る資格なんてないはずなのに。



  布団にくるまりながら、いろいろ考える。


  このままでいいのか


  (う・・・・・・)


  気づいた時には、家を飛び出していた。

  外に出て気づいたのだが、どうやら朝になっていたようだ。


  私の家から少し先にある彼女の家へと走る。


  (間に合って・・・・・・)


  目から涙が流れて、私の顔に当たる。

  まだ、あってもいないのに寂しい。


  「美穂!」


  たどり着いた家の前、車に乗り込む美穂に叫ぶ。


  「今まで、ありがとう!」


  私に気づかず発信する車。

  美穂だけは、私を見ていた。

  驚いたような顔が、くしゃりと歪み、その瞳から涙が流れている。


  「絶対に、また会おう!」


  最後の言葉に、美穂の口は「うん」と言っていたように見える。


  (最後まで謝れなかったや・・・)


  私まで涙が流れる。

  今まで、楽しかった思い出が頭に過ぎる。


  (いや、良かった)


  今までの思い出はすべて笑顔だった。

  だから、最後の思い出も笑顔がいい。


  「ごめ、、ん」


  流れ出す涙を止めるために上を見るが、涙は止まらない。


  「また、ね・・・・・・」


  それでも笑顔を作った。またいつか会える日のために。

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