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欠片探し鬼ごっこ◇前

微妙に色々な問題で二つに分けました。

「……成る程、そういうことか」


 思わず零れた独り言。

 もう何十年も人が立ち入っていないように分厚く埃が覆ったその真ん中で。この世界に纏わる資料を片手に薄汚れた本を捲る。

 其処に記されていたのは何てことはない。この世界で最も神様に近い立場のヒトたちから見た世界の姿と昔話。



 薄っぺらな資料に、ポツンと並んだ無機質な黒い文字は私に告げた。この世界の歪さと真実の欠片、それの在り処。

 何てことはない。それが集うのが、此処だったってだけの話だ。私の手の中の、古びた本。


 古びた文字をなぞる。

 不在の神様と、歪な魔王様。


 考えたかった。考えたくもなかった。

 知れば考えてしまうことはわかっていて、それで尚、知ることを望んだのだ。


 私も、人のことを言えない。

 本当に馬鹿みたいだ。


 ▽▲▽


「この世界の神様は何処にいるんですか」

『行方不明だ。こっちでも探してる。……もし、今回の事にそっちの神(ヤツ)が関与していたことが確認できた場合、お前がアレを処分しろ』

「りょーかいです」

『わかってると思うが、お前の仕事は処分だけだ。考えるなよ。知ろうだなんて間違っても思うな。配布された資料が全てだ。それだけ信じて従えば良い。分かってるな』

「わかってます。あ、いつも仕事を増やして下さる奴らがいた場合首スパンしても良いですか」

『許可する』

「では、いつも通りに」


 心の中で舌を出した。


 ▲▽▲


 とぷり、と影に指を沈めた。

 そして意識を伸ばしてみる。


 このお城は魔王様のものらしいので、何処で何が起きても彼の中で起きているようなもの、一種の境界。すなわち彼の体内、とでも言おうか。とても気持ち悪い。

 何処で何が起きようが彼に隠すことは出来ず、かつ、彼は何処にいようと城内(たいない)の出来事に干渉できる、ということだ。


 それは、つまり。彼の意思がこの魔力とやらと一緒に張り巡らしてあって、それが及ばない場所はない筈、ということ。

 それに干渉出来たのなら、逆にこのお城は私の管轄下になる。


 わかりやすくて良いね。

 そうすれば私の探し物も見つかるから。



 ばれないようにそっと。ばれても私本体を叩かれる前に逃げられるように。

 沈めた指先でゆっくりと伸ばした意識の先を探る。


 同調(シンクロ)

 転調(ノイズ)

 浮遊回遊(ハイドアンドシーク)


「……見つけた」

 途端、私は干渉に気付いて害虫()の駆除に乗り出した彼に回路を閉じられた。

 一瞬、私は切断が遅れたらしい。沈めていた指が数本、持っていかれた。


 目も眩むような痛みが劈く。

 無惨に途中から途切れた手に目を落とした。痛い筈、なのに。

 それなのに綺麗な断面からは命の証である真っ赤な血は流れることもなく。ただ、黒い空っぽが覗くだけだった。



 虚しい気持ちに蓋をして、呟く。

「るっくんも酷いですね。手が痛いですよ。痛くて痛くて、泣いてしまいそうです」

 まるで思ってもないことを。


 そっと、綺麗に残っている方の手で欠けた手を覆う。


「……でも、見つけましたよ」

 聞こえるとも思わない。けれど、聞こえてるに違いない。此処は彼の内側なんだ。

 上司も誰も、まだ干渉できない世界の中なんだ。少しくらい勝手をしたって良いでしょう。


 そう、つまりこれは必要のないこと。


「全部(バラ)して終わらせてあげます。……それまで精々偉そうに踏ん反り返ってろ」


 立ち上がる。

 そして走り出す。彼の攻撃に邪魔される前にさっき見つけたところに行って、で、暴いてやらなくては、ねぇ?

 彼の力の及ばないところ。一箇所だけ。それなのに沢山彼の力が絡みついてまるで守ってるみたいで、それでいて封じているようだったところ。お城の中心。

 きっとあそこに何かある。勘だけど。



 もう、欠けた手は痛くない。

 その手に握るのは食事のたびに増えていく繊細な造りの銀食器(シルバー)


 その手にはもう、傷なんてない。


 ▽▲▽


 ふと後ろを振り返ると酷い有様だった。綺麗に整えられた廊下が無惨にも穴だらけだ。

 ここに来るまでに、人ひとりくらい余裕で灰に出来るような光の塊が大量に降ってきたんだ、避けるのが当然だろう。

 誰が私を責めることが出来るだろう、いや、出来まい。

 廊下かぼろぼろなのは目を瞑って貰おうではないか。私悪くない。


 顔を正面に直すと其処には目的地たるお城の中心。この城の丁寧な美しさにはそぐわない小さく見窄らしい扉。

 それなのに如何にも触れることを躊躇うような威圧感がじわりじわりと肌を刺す。

 そうでなくても幾十にも重ねられた封印が無駄に圧倒してくるというのに。


 見ただけでわかる。手を伸ばしたりしたら手が消し炭になるんだろう。別に死にはしないけれど痛いものは痛い。避けたい。

 しかしあんまりちんたらしていたら魔王様本体が此処に来て私を始末しようとするかもしれない。そんなことになったら私はうっかり(・・・・)手違いで(・・・・)彼を殺してしまうかもしれない。手加減は難しい。わけではないが面倒臭い。


 なら私が選ぶべきはひとつ。考えるまでもない。


 正面突破。


 神様の力を土下座して貰う以外に使うのはプライド的な何某が許さない。それ以上にアレを使うと上司にばれる。減給は辛い。



 なに、この程度の扉なら仕事道具(相棒)を頼るまでもない。精々くすねたナイフ程度だ。

 だからナイフ一本突きつけて。切るより、切り離すことを意識して。


 目の前の(障害物)を斬り裂いた。




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