オレンジ
掲載日:2014/06/07
あとすうじつでなくなるいのちは
どんどん幼くなり透明になっていくようだ
人生で身につけたあらゆる色を失って
最後は透明になり無に戻るのだろう
「オレンジ!」
わたしより幼くなった母はそういって冷蔵庫を指差す
オレンジは冷えて匂いもなくなっていたが
ちいさく切ったそれをスプーンですくい
口に持っていくと母はベッドに横たわったまま
なんども咀嚼して
喉を動かしてちいさく飲み込んだ
記憶にもない遠い昔
わたしがおそらくやってもらったであろう行為を
わたしが今度はやっているのだ
最後の最後
透明になりきる前
いのちがわずかにオレンジに色づいただろうことが
わたしは嬉しく
オレンジを見るといまもそのわずかな色合いと
冷えてなくなったはずの匂いを思い出す




