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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第五章 「残響確定」

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第八話「保留世界」

ゴォォン……


その音は、もはや進行でも停止でもなかった。


ただ「保たれている」という状態そのものが、音になっている。



---


世界は変わっていない。


だが、固定もされていない。



---


駅は動いている。


人は歩いている。


神社は崩れたまま存在している。



---


すべてが“途中”にある。



---


青年は気づく。



---


これは安定ではない。



---


保留だ。



---


白い影が、静かに言う。


「選択は未確定のまま維持されている」



---


青年は鐘を見る。


未完成のままの鐘。


確定しかけて、止まっている存在。



---


「こんなの……続くのか」



---


影は答える。


「続いてしまう」



---


ゴォォン……



---


音が鳴る。


しかし今度の音は、どこにも着地しない。



---


駅のアナウンスが一瞬だけ途切れる。


人の動きが一拍だけズレる。


だがすぐに戻る。



---


“戻る”のではない。



---


戻された。



---


青年は理解する。



---


この世界は自律しているのではない。



---


誰かが“維持している”。



---


白い影が言う。


「あなたが観測をやめない限り、この状態は続く」



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青年は眉をひそめる。


「俺のせいか」



---


影は少しだけ間を置く。



---


「あなたの責任ではない」


「しかし中心にはいる」



---


ゴォォン……



---


鐘が鳴る。


今度は強くない。


弱い。


だが確実に存在している。



---


その音は、青年の“視線の動き”に同期している。



---


彼が見ると、世界は続く。


彼が見ないと、世界は崩れそうになる。



---


青年は息を吐く。


「監視してるのと同じじゃないか」



---


白い影は否定しない。



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むしろ、それが構造そのものだと認めている。



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そのとき、鐘の奥から声がする。



---


『まだ終わらせるな』



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青年は目を細める。



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その声は以前よりも弱い。


だが消えていない。



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ゴォォン……



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音が一度だけ深くなる。



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その瞬間、世界の“端”が見える。



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ここで終わる世界


ここで壊れる世界


ここで分岐する世界




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それらがすべて、同時に存在している。



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青年は気づく。



---


今この世界は、



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「決めないことで全てを含んでいる」



---


白い影が静かに言う。


「それが保留の本質だ」



---


青年は鐘を見る。



---


手はもう伸ばさない。



---


ただ見ている。



---


その行為が、世界を維持している。



---


ゴォォン……



---


その音は、もはや問いではない。



---


ただの継続だった。



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— 第9話へ続く —

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