↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第五章 「残響確定」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/58

第二話「残響の座標」

ゴォォン……


その音は、遠いようで近い。


近いようで、どこにもない。



---


青年は山を下りていた。


だが「下りている」という感覚すら曖昧だった。


道はある。足も動く。空気もある。


それなのに、移動している実感だけが欠けている。



---


世界は正常だった。


駅も、町も、人もある。


通り過ぎる車も、店の看板も、何もおかしくない。



---


だが青年には分かっていた。


これは“正常に見えるように調整された世界”だ。



---


「……全部、同じだ」


小さく呟いた声は、誰にも届かない。



---


ゴォォン……



---


音が鳴るたびに、視界の端がわずかに揺れる。


駅の位置が一瞬だけズレる。


ビルの影が一拍遅れて追従する。


だがすぐに修正される。



---


“揺らぎ”が発生すると、即座に世界がそれを消す。



---


青年は立ち止まる。


「修正されてる……?」



---


その瞬間、背後から声がした。



---


「揺れは許されていない」



---


振り返らなくても分かる。


あの声だ。



---


白い影。


だが、以前のような“異質な存在感”は薄い。


今はむしろ、世界の一部のように自然だ。



---


青年は問う。


「誰が修正してる」



---


影は答える。


「観測者だ」



---


沈黙。



---


青年はゆっくりと息を吐く。


「俺か」



---


影は否定しない。



---


ゴォォン……



---


音が一段だけ深くなる。



---


その瞬間、青年の視界に“座標”が浮かぶ。


駅の位置。


神社の位置。


都市の構造。


すべてが線で繋がれている。



---


しかしそれは地図ではない。



---


観測の軌跡だった。



---


「これが……俺の見てる世界か」



---


影は静かに言う。


「違う」



---


「あなたが見ているから、そうなる」



---


青年の背筋が冷える。



---


世界は固定されているのではない。



---


見られ続けることで固定されている。



---


ゴォォン……



---


その音と同時に、座標が一瞬だけ乱れる。



---


駅の位置がズレる。


神社の角度が変わる。


都市の配置が歪む。



---


しかし次の瞬間、すべて元に戻る。



---


「今のは……何だ」



---


影は答える。


「未修正の揺れ」



---


青年は拳を握る。


「揺れはあるじゃないか」



---


影は少しだけ間を置く。



---


「ある」


「だが維持されない」



---


ゴォォン……



---


音が続く。


それは鐘ではなく、修正のリズムだった。



---


青年は気づく。


この世界は“安定している”のではない。



---


揺れを消し続けているだけだ。



---


影が最後に言う。


「その中心が、あなたの視線だ」



---


青年は空を見る。



---


そこには何もない。


だが確かに、何かがこちらを見返している。



---


ゴォォン……



---


その音は、初めて少しだけ“重く”響いた。



---


— 第3話へ続く —

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。