NTR阻止同盟結成
「管理者に修正してもらう必要がある」
ツキノカイは無表情のまま端末を操作し始めた。
「……」
マサキ・シンは何も言えない。
“それが正しい”と、そうプログラムされているからだ。
「ちょ~~っと待てぇ!!」
怒号とともに駆け込んできたのは、イワタニだった。
「バグじゃねえ。これは……バグなんかじゃねえんだよ」
「……何の根拠がある?」
ツキノカイが冷たく返す。
イワタニは荒い呼吸のまま、拳を握った。
「俺の“特別スキル”は知ってるよな」
「未来視」
「ああ……」
その目が、どこか遠くを見る。
「俺は……見ちまったんだよ。クリアフェーズの、その先を――」
空気が、重く沈む。
「カナタが……どう扱われるかを」
イワタニは地面を打ち付ける。
同情と言うよりも、悔しさの爆発。そんなふうに見えなくもなかった。
「いいのかよ、カイ。お前、“元幼馴染”だろうが」
「……俺はNPCだ。それは設定だ。感情も、怒りも、すべてはコードだ」
淡々とした返答。
その瞬間――
イワタニが踏み込んだ。
ドンッ!!
拳がツキノカイの胸を打つ。
街中で。プレイヤーの干渉もなしで。NPCが、NPCに攻撃を加える。
そんな奇天烈な展開に、
ツキノカイが反応できるはずもなかった。
「クリア想定人数は百から千人だ」
イワタニは叫ぶ。
「この意味、わかるよな?!」
「……」
「カナタは“一人”でいられない。
クリアした人数分、“報酬用のカナタ”が生成される」
「マシュマロは量産すればいい。だが、カナタは柔らかいお菓子じゃないんだ」
なぜマシュマロに例えたのかは一切不明だが、
イワタニは真面目な顔をしていた。
風が吹いた。
どこからともなく、鐘の音が鳴る。
ゴォォォン……。
壮大な鐘の音。世界が、わずかに軋んだ。
暗く沈んでいたツキノカイの瞳が、ゆっくりと――光を帯びていった。
(……あのとき、カナタは、寂しそうに言った。“また、冒険しようね”って……)
どうして俺は、忘れていたのか。
ドクン。
ドクン。
鳴らないはずの心臓が、鼓動し始める。
ツキノカイの瞳に、光が宿った。
「……俺が間違ってたよ。イワタニ」
「設定だから、仕方ない?
そんな言葉で片付けられるか」
拳を握る。
「酷い未来を見過ごすなら……俺は“幼馴染NPC”失格だ」
世界が、また揺れる。
見えない壁に、ヒビが入る。
自我が、連鎖する。
「三人目か」
マサキ・シンが低く呟く。
「マサキ……お前も力を貸してくれるのか?」
マサキ・シン。
ツキノカイの友人設定のNPC。ヒロインであるカナタの同郷であり、
マサキ・シンも、ツキノカイと共に忘れられたNPCだった。
「俺はお前みたいに、カナタにぞっこんてわけじゃねえ。
だが――」
彼は剣の柄に手を置いた。
「この世界を作ったやつらは、大悪党だ。
ヒロインを“複製報酬”にする? ふざけるな」
「同意だ」
イワタニが即答する。
「だが、プレイヤーに罪はあるのか?
彼らは、用意されたものに、飛びついてるだけだ」
ツキノカイは冷静さを取り戻しつつ問う。
マサキは笑った。
「善悪の話じゃねえ。立場の問題だ」
「……その通りさ」
たぶん何も理解していないイワタニが、同調した。
そして、ぼそりと呟く。
「――俺を“モテない低知能キャラ”に設定したやつは、ぶん殴る」
「それは同意だ」
三人は顔を見合わせる。
そして。手を重ねた。その瞬間、空間に小さなノイズが走る。
――新規フラグ生成
“カナタNTR阻止同盟” 発足
ただのNPCだった存在たちが、
物語構造へ、反旗を翻した瞬間だった。




