番外編「小さき猛獣使い」
結婚から三年が過ぎた頃。
アイゼンハルト城の庭園は、私の魔力の影響もあってか、季節を問わず美しい花々が咲く場所となっていた。
その庭園の一角から、賑やかな声が聞こえてくる。
「パパ! たかい、たかーい!」
銀髪に黄金の瞳を持つ小さな男の子――私たちの一粒種、レオンハルトが、ヴォルフガングの腕の中でキャッキャと笑っている。
「よし、行くぞレオン。空まで飛べ!」
ヴォルフガングは満面の笑みで息子を軽々と放り上げる。
かつて「北の怪物」と恐れられ、子供が泣いて逃げ出すと言われた彼の面影は、ここには微塵もない。今ではすっかり、息子に甘々な親バカパパだ。
「あなた、あまり乱暴にしないでくださいね。レオンが怖がりますよ」
私がバスケットを持って近づくと、ヴォルフガングはバツが悪そうに動きを止めた。
「こ、怖がってなどいない。これはアルファとしての英才教育だ」
「ママ! パパつよいんだよ! くまさんみたい!」
レオンが無邪気に言うと、ヴォルフガングは少しショックを受けた顔をした。
「く、熊か……。せめて狼と言ってくれ」
その様子がおかしくて、私はクスクスと笑った。
平和だ。本当に平和な午後。
かつて自分の居場所がないと嘆いていた私が、こんなに温かい家族に囲まれているなんて。
「リリアーナ」
ヴォルフガングが息子を抱いたまま、私を引き寄せて頬にキスをした。
「お前とレオンがいる。……俺は、世界一の果報者だな」
「ええ。私も世界一幸せです」
私たちは三人で寄り添い、北の澄んだ青空を見上げた。
遠くの山々にはまだ雪が残っているが、風は優しく、希望の匂いがした。




