第13話「永遠の氷壁に誓う」
事件から一ヶ月後。
アイゼンハルト城は、これまでにない華やかさに包まれていた。
今日は、私とヴォルフガングの正式な結婚式が行われる日だ。
かつて私を売ったベルンシュタイン伯爵家は、王の名を騙った罪と、辺境伯夫人への拉致未遂の罪で取り潰しとなった。両親と執事長は遠方の鉱山へ送られたというが、今の私にはもう関係のないことだ。
王都からは謝罪の使者が訪れ、莫大な慰謝料とともに、私を正式に「アイゼンハルト辺境伯夫人」として認める勅状が届いた。
私は純白のウェディングドレスに身を包み、控え室の鏡の前に立っていた。
銀髪には氷晶石のティアラが輝き、かつて暗い色をしていた瞳は、愛される喜びを知って紫水晶のように澄んで輝いている。
「リリアーナ様、世界一お美しいです!」
ミレナが感極まって泣き出し、メイク担当に怒られている。
「もう、泣かないでミレナ。せっかくの化粧が崩れちゃうわ」
私がハンカチを差し出すと、ミレナはさらに泣いてしまった。
礼拝堂の扉が開く。
ステンドグラスから差し込む光の中、祭壇の前で待つヴォルフガングの姿があった。
いつもの黒い軍服ではなく、白を基調とした正装に身を包んでいる。髪をきっちりと撫で付け、緊張した面持ちで立っている彼は、息を呑むほど凛々しかった。
父の代わりに、すっかり元気になったハンスがエスコートをしてくれた。
「リリアーナ様、幸せになってください。……いや、あいつが必ず幸せにしますから」
ハンスの温かい手に導かれ、私はバージンロードを歩く。
参列席には、城の使用人たち、領民の代表者たち、そして共に戦った兵士たちが満面の笑みで並んでいる。
ヴォルフガングの前に立つと、彼は眩しそうに私を見つめ、手を差し出した。
「……綺麗だ。俺にはもったいないくらいにな」
「ふふ、お世辞が上手になりましたね」
「本心だ」
彼は真顔で即答した。
神官の前で誓いの言葉を交わす。
病める時も、健やかなる時も。かつては形だけの契約だった言葉が、今は一つ一つ重みを持って心に響く。
「誓います」
その言葉と共に、私たちは口づけを交わした。
割れんばかりの拍手と歓声が礼拝堂を揺らす。頭上から花びらが舞い降り、祝福の鐘が鳴り響く。
ヴォルフガングは私を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「愛している。生涯かけて、お前を守り抜く」
「私もです。……私の、大好きな旦那様」
私たちは微笑み合い、光に満ちた未来へと歩き出した。
北の凍てつく大地に、本当の春が訪れた瞬間だった。




