第12話「銀の慈雨」
私の体から溢れ出したのは、銀色の光だった。
それは吹雪の中で淡く輝き、周囲の雪を溶かしながらドーム状に広がり、私たち二人を包み込んだ。
温かく、懐かしい光。私の「欠陥」だと思われていた特性――発情しない体質は、魔力を体内に極限まで溜め込むための器だったのだ。そして今、ヴォルフガングとのつがいの契約によって開かれた回路から、蓄積された膨大な魔力が奔流となって彼へと注ぎ込まれていく。
光の粒子が、ヴォルフガングの傷口に集まる。
見る間に傷が塞がり、青白かった彼の顔色に生気が戻っていく。
それと同時に、私自身の生命力が削られていく感覚があった。指先から感覚がなくなり、意識が白く霞んでいく。
けれど、怖くはなかった。彼が助かるなら、私はどうなってもいい。
(愛しています、ヴォルフガング……)
私の意識が闇に沈もうとした瞬間、強い力で引き戻された。
「……馬鹿野郎!!」
耳元で怒鳴り声がした。
ハッとして目を開けると、ヴォルフガングが私を見下ろしていた。傷は完全に癒えている。彼は私の方こそ死にかけていると気づき、自らのアルファの生命エネルギーを逆に私に送り込んでくれていたのだ。
「自分の命を削ってまで治癒する奴があるか! 俺を置いて逝く気か!」
彼は泣いていた。あの怪物が、涙を流して私を叱っている。
「……だって、貴方に生きてほしかったから」
「お前がいなければ、俺が生きている意味がないだろうが!」
彼は私をきつく抱きしめた。骨が軋むほどの強さだったが、それが嬉しかった。
互いの魔力が循環し、混ざり合い、一つの大きな奔流となって周囲に放たれた。
その余波で、空を覆っていた厚い雲が吹き飛び、美しい星空が現れた。雪原に、季節外れの花々が一斉に芽吹き、咲き乱れる。
それは、伝説に語られる「聖女の再来」のような光景だった。
私たちは花畑の中心で、ただ抱き合っていた。言葉はいらなかった。魂が繋がり、溶け合う感覚。
これこそが、真の「つがい」の結合だった。
やがて、遠くから松明の明かりが見えた。
「旦那様ーっ! 奥様ーっ!」
ハンスやミレナ、そして城の兵士たちが駆けつけてきたのだ。
彼らは私たちを見つけると、歓声を上げて駆け寄ってきた。奇跡的な生還と、幻想的な花畑の光景に、誰もが涙を流して喜んだ。
ヴォルフガングは私を姫抱きにし、堂々と立ち上がった。
「帰るぞ、リリアーナ。俺たちの家へ」
「はい……あなた」
その夜、私たちは皆に守られながら城へと帰還した。
私の魔力の噂は、もはや隠しようもないほど広まったが、それは「欠陥品」の汚名ではなく、「北の聖女」という新たな敬称となって語られることになるのだった。




