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石女と捨てられた欠陥オメガの私、北の怪物辺境伯様に買われ溺愛される~実は発情期が来ないのは最強の聖女の証でした~  作者: 黒崎隼人


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第10話「奪われた光」

 その夜、ヴォルフガングは急な魔獣出現の報せを受け、国境付近の砦へ向かわざるを得なくなった。

 明らかにタイミングがおかしい。誰かが意図的に魔獣を誘導した可能性が高い。

「罠かもしれん。……行きたくはないが」

 完全武装した彼は、玄関ホールで私の手を握り、不安げな表情を見せた。

「リリアーナ、俺が戻るまで、絶対にハンスのそばを離れるな。部屋の扉には二重に鍵をかけろ」

「分かっています。どうか、お気をつけて。ご無事で」

 私は彼に口づけをして送り出した。

 彼の姿が見えなくなると、城内は急に静まり返ったように感じられた。

 ハンスやミレナと共に居室に戻り、緊張の中で時間を過ごした。暖炉の火だけが、パチパチと音を立てて燃えている。


 深夜、突然城内で警報の鐘が鳴り響いた。

「火事だ! 東の塔から火の手が上がったぞ!」

 廊下から兵士の叫び声が聞こえる。

「奥様、ここにいてください! 私が様子を見てきます!」

 ハンスが部屋を飛び出していく。ミレナが青ざめた顔で私に寄り添った。

「大丈夫です、ここは石造りですから、火は回ってきません」

 そう言い聞かせていた時だった。

 部屋の窓ガラスが音もなく融解し、黒装束の集団が音もなく侵入してきたのは。

「なっ……!?」

 ミレナが叫び声を上げる間もなく、彼女は何らかの睡眠魔法を受けたのか、その場に崩れ落ちた。

「ミレナ!」

 私が駆け寄ろうとすると、背後から口を塞がれ、強い薬の匂いがする布を押し付けられた。

「んぐっ……!」

 暴れようとするが、力が入らない。

「手際よくやれ。商品は傷つけるな」

 聞き覚えのある声。昼間の執事長だ。

 意識が急速に遠のいていく中で、私は絶望的な気持ちでヴォルフガングの名前を呼ぼうとした。けれど、声にはならない。

 ――ごめんなさい、ヴォルフガング。約束を守れなかった。

 私の体は担ぎ上げられ、闇の中へと連れ去られていった。


 次に目を覚ました時、私は揺れる馬車の中にいた。手足は魔力を封じる鎖で拘束されている。

 窓の外を見ると、雪深い山道を猛スピードで走っているのが分かった。

「お目覚めですか、リリアーナ様」

 向かいの席には、執事長が冷ややかな笑みを浮かべて座っていた。

「ここは……どこへ連れて行くつもり?」

「ご実家の別邸へご案内するだけですよ。あそこでなら、誰にも邪魔されずにあなたのその『特別な力』を抽出できますからね」

「抽出……?」

「ええ。ヒートを迎えたオメガの魔力が飛躍的に向上することはご存知でしょう? 特にあなたは特殊だ。その血、その肉、すべてが極上の魔力資源になる」

 ぞっとした。彼らは私を人間としてではなく、ただの資源として見ているのだ。

「ヴォルフガング様が黙っていないわ」

 精一杯の虚勢を張る。

 執事長は鼻で笑った。

「あの化け物ですか? 今頃、誘導した魔獣の大群と雪崩に巻き込まれて、生き埋めになっている頃でしょう」

 心臓が止まりそうになった。

 雪崩。自然災害に見せかけた暗殺。

「嘘よ……あの方は、そんなことで死んだりしない!」

「だといいですな。しかし、ここからアイゼンハルト領までは既に半日以上の距離。誰も助けには来ませんよ」


 その時だった。

 ドォォォォン!!

 とてつもない衝撃音と共に、馬車の屋根が吹き飛んだ。

 冷たい風と雪が舞い込んでくる。悲鳴を上げて御者が転げ落ち、馬車は急停止した。

「な、何事だ!?」

 執事長が狼狽えて立ち上がる。

 粉塵が晴れた先に立っていたのは、一人の男だった。

 逆巻く吹雪を背に、漆黒のマントをはためかせ、手には身の丈ほどもある巨大な魔剣を携えている。

 黄金の瞳が、地獄の業火のように爛々と輝いていた。

「……俺の妻に、何をした」

 ヴォルフガングだ。

 髪は乱れ、軍服はボロボロで、あちこちから血を流している。それでも、その姿はこの世のどんな神々よりも美しく、そして恐ろしかった。

「ひっ……! ば、化け物……!」

 執事長が腰を抜かして後退る。

 ヴォルフガングは一歩踏み出すごとに、周囲の雪を一瞬で蒸発させるほどの殺気を放っていた。

「リリアーナ、目を閉じていろ」

 彼の優しい声が届いた瞬間、私は安堵で涙が溢れ出した。

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