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俺は高校生だった。
そして、その学校の中では、俺はわりと人気がある方だった。
中学校までは大人しい性格だったが、高校に入ってから人気者になりたいと思うようになったらしい。
馬鹿げたことを言ってクラスメイトを笑わせる存在、ある意味「ピエロ」だったわけだが、高校生の頃の俺は、そんな道化を演じてでも人気さえ得られるなら満足だった。
あいつらは、俺の公演を見に来た観客のようなものだったから。
俺はこんな風に、学級のピエロとしていつまでも人気者でいられると思っていた。
だが、人気者の俺を嫉妬する奴らがいた。
あいつらが学校中に俺に関するデタラメな噂を流し始めると、有名人だった俺だけに、噂は瞬く間に学校全体へと広まった。
クラスメイトの陰口を叩いているという噂、実は不良だという噂、さらには友達から金を巻き上げているという噂まで。
そうして俺に対する悪評が広まると、俺はいつの間にかいじめを受ける存在になっていた。
繰り返されるいじめのせいか、いつしか「俺はどうしてこんな風に生きているんだ?」「なぜ俺がここまでいじめられなきゃいけないんだ?」といった否定的な考えばかりが浮かぶようになった。
そんなことを考えながら目覚め、登校し、学校でいじめられて下校する。そんな生活を送るようになってから、一年ほどが経っていた。
俺は下校の途中だった。その最中も、俺は考えに耽っていた。
俺の人生、どうしてこうなっちまったんだろう? どこから間違ったんだろうか?
「プうプー」
俺が調子に乗りすぎたんだろうか?
「プう!プうー!」
横を向いた瞬間、車が見えた。
黒塗りの、曲線が美しい車だった。
すぐ傍でナンバープレートが見えた。
綠色いプレートからして、タクシーみたいだな……。その時、ドン! という音が全身に響いた。
ふわっと体が浮き上がる。
なんだ? 俺、車に跳ねられたのか?
ベチャッ。地面に叩きつけられると、右肩から骨盤にかけて痛みが走り始めた。
頭も痛い気がする。
ブロロ……。モーターの音が聞こえ、視界に黒い空車のタクシーが映る。
少しずつ遠ざかり、小さくなっていくようだったタクシーが視界から消えると、周囲がぼやけ始めた。
霞んでいた視界が、だんだんと暗くなっていく。
こうして死ぬのか?
俺は、こんな風にひき逃げされて死ぬのか?……。
目が覚める。
ここは……どこだ? 体が全く痛くない!
俺は確かに車に跳ねられたはずなのに。
初めて見る、見慣れない天井が目に入る。
天井には巨大なシャンデリアが見える。
キラキラしてるな。金でも使って作られたのか?
「アウアー!」
えーと……。今、俺なんて言ったんだ?
アウアーだなんて……。それに、声もおかしいぞ?
喉でもやられたのか?
その時、一人の見知らぬ女性が目に入る。
誰だ? 金髪に青い瞳からして外国人みたいだが……。でも、なんでこんなに大きいんだ? 頭も打ったのか?
その女性と目が合う。
すると、彼女は俺の方へとずんずん近づいてきた。
そして俺に話しかけた。
「@$%〜^#@!」
エエ!?
なんて言ってるんだ?
確かなのは、日本語ではなさそうだということだ。
横から別の顔が飛び出してきた。
今度は男だった。
黒髪の中年男性だったが、閉じたままの左目に縦に深い切り傷があった。
ふむ、ちょっと格好いいじゃないか……。
「&@$#&%?」
またおかしな言語だった。
英語……ではなさそうだし……。
スペイン語? フランス語?
突然、その男が俺に手を伸ばすと、両手で俺を抱き上げた。
「@%#〜!」
「@$#&〜」
二人が何か言葉を交わしている。
相変わらず何を言っているのかさっぱり分からない……。
辺りを見渡すと、いかにも高そうな家具が目に入る。
どれも金で作られていたり、装飾が施されたりしている家具ばかりだった。
さっき見たシャンデリア、誰が見ても高価な金細工のある椅子、それに劣らず高そうなデスクなどなど。
そして、縁を金で装飾した全身鏡の中に、一人の赤ん坊が見えた。
茶色の髪と青い瞳を持つ赤ん坊。
俺と目を合わせている赤ん坊。
片目を負傷した黒髪の中年に抱かれている、その赤ん坊。
それは、他ならぬ俺だった。




