ブラック企業の闇
ーダメだ。口が裂けても“詐欺師です”とは言えない。今の彼は刑事だ。それを言ったら本当の意味で終わりー
「あの、僕、今はとある会社に勤めていて…」
「それってどこなの?」
「安楽保険に勤めているんだ」
賢は真っ赤な嘘をついた。
「えー、安楽保険ってめっちゃ大手じゃん。すごいねえ。財務部長の金取さんって知ってる?前彼と話したことがあって…」
「あるよ。でも彼優しいけど、ちょっと偉そうだからあんまり好きじゃないんだ」
「へー、そうなんだ。僕は今も警視庁で警部として働いてるんだ」
「へー、今も捜査二課なの?」
「そうだよ。でもいつかは捜査一課で働きたいなあ」
「じゃあ、お互い仕事頑張ろうな」
「そうだね、頑張ろう!」
「じゃあ僕、用事があるからまた」
「バイバイ!」
切野が去ると、ニコラは安心し、本屋で入社試験の本を3冊買い、拠点に戻った。
帰り道、さっきの出来事を何度も反芻し、突如、途轍も無い劣等感に襲われた。しかし次の瞬間、彼は思い切りニヤリと笑った。まるで悪魔的な神のように。
一方、ピノキオとクロネコは、会社員と接触して極秘文書を盗む作戦を練っていた。
「これがみずな銀行の公開されている入社試験の資料よ」
クロネコはピノキオに分厚い資料を渡した。
「わあ、めっちゃ多いですね…」
ピノキオは驚いた。
「でしょ。ニコラが買ってきてくれた本を参考に作ったの。でも要は、入社試験には筆記試験と面接試験があるってこと。ただ、実行役は歌舞伎町から拾ってきたどうしようもない人だから、正当な方法じゃ合格しない。だから、私たちは人事部の採用課の社員に会って、情報を聞き出すの」
クロネコは詳しく説明した。
「まず、ホームページによると人事部の採用課の課長は人見優太。で、その人のフェイスファイルの投稿を見ると…」
クロネコはパソコンの画面を見せた。
ー今日、鶴橋の焼肉屋、ソガッダで、うちの会社の飲み会やります。やだなあー
「それでここに行くのはピノキオよ」
クロネコは冷静に言った。
「え、私が?」
ピノキオは不安そうに言った。
「大丈夫。あなたは口がうまいから、きっと情報を上手く聞き出せる。もし何かあったら、この腕時計でSOSシグナルを出して。必ず助けるから」
その日の夜、ピノキオは新大久保の焼肉屋「ソガッダ」に向かった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
店員が面倒くさそうに聞いた。
「一名です」
白いワンピースを着たピノキオは丁寧に答えた。すると店員は少し不審そうにしながらも、席へ案内した。なんと、その席は飲み会の隣だった。
ーやった!隣だ!ー
ピノキオは内心喜び、木製の椅子に腰掛けて、飲み会の様子を観察した。
「やあ、俺たちもやっと順調に戻ったなあ」
太った中年の大口笑郎人事部長が言うと、部下たちは口々にお世辞を言った。
「でも、お前らもよく俺のパワハラに耐えたな。さあ、飲め、飲め!」
部下たちは仕方なく従うふりをしていた。
ピノキオはノンアルコールのマッコリを一杯飲むだけで、観察を続けた。やがて会は終わり、部下たちはタクシーで帰っていく。
「あれ、人見、お前は乗らないのか?」
大口は不思議そうに聞いた。
「大丈夫です」
新人の人見優太は真面目に答えた。
タクシーが去ると、人見はたばこを取り出し、涙を流し始めた。上司によるパワハラの重さに心を痛めていたのだ。
ピノキオはそっと隣に立ち、心配そうに言った。
「よかったら、話を聞きましょうか?」
人見は彼女を見上げ、その美しさに思わず目を見開いた。




