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記憶喪失の魔王②

 パンツ一丁で街中を歩かせるのは俺達の沽券にも関わる話で、とりあえず業務用のローブを貸し出した。その上で男を囲うようにし、極力不自然にならないように取り繕い目的地を目指した。


 道行きで目ざとい通行人は男を訝しむように見ていたが、騒ぎにはならずに無事に目的地へとたどり着いた。


「ここだ」


 そう言って眼前の建造物を指した。


「ここは、"魔王城"?」


 入り口真横に掲げられた看板を怪訝な様子で男は見ていた。


「そうだ。懐かしいだろ。自分の城ではないだろうけど、魔王の集う城だ」


 俺の言葉に男は眉をひそめた。


「や、魔王だからってお城に住んでいた訳じゃないと思うけど。というかここ、明らかに酒場じゃない?」


「まぁ、見ての通りの酒場だ」


 そう、酒場である。


 "魔王城"。ここはアルストロにある、アザーズによって経営されている酒場であった。そして、男をここに連れてきた理由は店名にも由来する客層である。


「魔王様いる?」


 店内に入るなり俺は叫ぶ。すると、座席を埋めていた客達が一斉に振り返った。


 つい今し方酒場という説明をしたが一つ訂正をしよう。店内は酒を飲む場所というよりお化け屋敷だ。何せ、人類と同じ姿をした者はほとんど存在していないのだから。


 見た目からして青い肌、赤い肌。比喩でなく真っ黒、真っ白。そしてそれを通り越して骨。


 他には岩石、金属、植物に、ヘビや鳥、虎や龍の人型、角が生えてれば羽があり、挙句に触手状の姿をした者や首がない者まで。ちょっと待て、今の奴どうやって飲み食いしてんだ!?


 彼らは総じて魔族と呼ばれる存在であり、店名の通り皆元魔王であった。


 なので、魔王様と呼ばれればほぼ全員が振り返る。ただ、この店で俺が魔王様と呼ぶのは一人なのだ。なので他の雑多はお呼びじゃねぇのである。


「オメェらじゃねぇが一応聞くがこいつ知ってる?」


 が、もしかしたら他の連中が知っているかもしれないので男を指さし尋ねた。


「誰だその半裸?」


「魔王だってさ、世界滅ぼした系の」


 聞いた魔王達が各々の座席で顔を見合わせる。間もなくして返答がきた。


「知らん。そんな変態」


 まぁ、知ってた。


「そのパンイチと一緒にするな、品位が落ちる」


「落ちる品位があったのが驚きだわ酔っ払い共め」


 何だ喧嘩売ってんのか人類、と魔王達が管を巻く巻く。その品位があるんだったらもう少し言動に気を付けてほしい。


「客層わっる」


 自称魔王よりそんな感想が漏れた。


「魔王だからなぁ」


 実際、勇者から話を聞く魔王というのは残虐非道、悪逆無道の極悪の限りを尽くす、悪という概念が姿形を持った存在なのであるが、実際に我々が目の辺りにしているのはこの通りただの酔っ払いの集団だ。なので、一番驚くのは勇者という塩梅になっている。


 しかも、差別だ差別、とこれまた連中は至極真っ当な話もしだすのだからよくわからん。


 ただ、王と名のるあたりに一応威厳のある名前だったり姿だったりしていたらしいが、今ではこの体たらく、見る影もない。種別的には暴君にあたるだろうが、現状見る限り全員暗君ではないだろうか?


 これ以上連中と絡んだところで話が進まないので野次を無視して奥へ進む。奴らもこちらが絡まんとわかると、再び各々雑談を始めた。


 そうしてカウンターにたどり着く。そこには目的の魔王様が一人グラスを傾けていた。


「よぅ魔王様。ちょっといい?」


 隣に座って声を掛ける。魔王様は耳がついていないのか待てども返事はない。


 この店内で数少ない人間のバーテンを見る。金髪碧眼のバーテンはこちらを見て肩をすくめた。


「今は"エドモン・ダンテス"だとさ」


「この前“ゴールディング”じゃなかったっけ?」


 隣にいたカズヤが答えた。この魔王様面倒くさい趣味を持っていて、よく名前を変えている。


「ああ、えーと、エドモン・ダンテスさん?」


「何かな、門番殿?」


 貝みたいに口を噤んでいた魔王様は途端に切り返してくる。


「相変わらずであるなぁ、ゲー…………エドモン・ダンデスどの」


 律儀にアオエが言った。


「まぁいいや。それで要件なんだけれどもアンタこいつ知ってる?」


「私に知り合いがいるとでも?」


 魔王様が面白く無さそうに言った。


「まぁそりゃそうなんだけど一応。後、話している間ちょっといてくんない?」


 やれやれといった様子で魔王様はこちらを振り返った。その時一瞬、彼は眉をひそめた。


「…………それで、その御仁とは一体何処で出くわした?」


「枝に括られてた」


 聞いた魔王様が目を白黒させバーテンを見た。バーテンは肩をすくめた。


「野良猫を拾う感覚でよくもまぁ厄介の種を拾うものだ」


 魔王様は呆れたように言った。


「しゃーねーだろ、アザーズなんだからウチの管轄じゃねーか」


「そう言えばさっきも言ってたけどその"アザーズ"って?」


「"異世界"から来た存在のこと」


 聞いた自称魔王が止まる。


「ん? ちょっと待った。何、異世界って?」


「まさか、門番殿は彼にまだ説明を?」


 男の言葉を聞いて魔王様は呆れたように言った。


「しゃーねーだろ、非友好的な世界滅ぼし系魔王だったら俺達の手じゃ負えねぇ。対処できるところに来てから話すんのが一番だろ?」


「待て待て待て待て、ケージ。この店に厄介事を持ち込むな。自分のところでやれ」


 心底嫌そうに口を挟むバーテンダー。


「どうせ最後にゃあんたらの名前が上がんだからいいだろ? 一番最初に一番ケツに来りゃみんな諦めも付く」


 お前なぁ、と呆れたようにバーテンが言った。


「はい、という訳で自称魔王様。先のアンタの感じた通りここはアンタの知る世界じゃない。アンタは"門"をくぐり抜けてこの世界にやってきた迷子だ。前の世界でどんな事をしてたかは知らんが、こっちに来たって事はこっちのルールに従ってもう。郷に入っては郷に従え、だ。オーケー?」


 まくし立てるように自称魔王に向かって言った。わっと言葉を浴びせられた男は処理が追い付かないのか呆然としているのだった。

さぁ、そろそろいったん止まるかも

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