表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しんせかい  作者: 日陰四隅
第一章 リンネ
6/54

リンネ管理局④

 ――――翌朝。


 俺は出局するやいなやバクスター課長に呼び出された。内容は案の定局より正式に“アザーズ”の発見減少の原因についての調査だった。あのハゲ、事もあろうに内示を渡す際に口元を吊り上げやがった。謹んで御受けする為にバクスター課長の手をしっかりと握り込んでやった。


 内示を受けてからしばらくは自席で怨嗟の如く不平不満をこぼしていたが、現状が変わるわけでもないので渋々業務を遂行した。


 といっても当てがある訳でもない。とりあえずは過去の記録を頼りに市中を見て回り、そして、近郊の探索を返しした訳だが…………。


 結果、何も成果がなく一週間が過ぎた。



「だー! 見つかるわけがねぇ!」


 気持ちのいい晴天の下、成果は芳しくどころか皆無の中、俺は汗だくで公園のベンチに座っていた。


 探せどそれらしき痕跡は見当たらず、街中を歩きまわれば客引きに捕まり、街の外を歩けば犬に絡まれ、挙句に女神の神殿とかいう新興宗教団体に自分の不幸を嘆かれる始末だった。


「それでもよくまとめてんぜ、何、この出現箇所?」


 同行しているカズヤが手にした資料を見て言った。局から出る前に資料室を漁って作った“アザーズ”出現分布マップだ。ただ。


「気休めだよ。大体、門だって適当に開くんだから参考になりゃしねぇ」


 統計といったって現れた場所を記録しただけのものだ。具体的に何がどうのという話はなく、現在まで山のような仮説が立てられているだけでどれも信憑性はない。


 "門"はただでさえどこに現れるかわからない。"アザーズ"に関してはいつ現れたかわからない。そんなものを見つける手段があるのならぜひに聞いてみたい。


 その手合いを補足できるのはこの世界では“神様”ぐらいだ。ただ、連中はこの世界の出来事には不干渉なので頼りにならない。の割には市中に結構いるが。


「やはり市井で話を聞いたほうが良いのでは?」


 同じく同行していたアオエが汗を拭いながら言った。


「なんて? この街中で"アザーズ"を誘拐している犯人を知ってますかってか?」


 丁度ベンチの後ろに立つ野郎を、首を反って見る。空が足元になった景色でアオエは困ったように眉間に皺を寄せた。


「誘拐だと決まった訳ではなかろうて」


「こんだけ探しても見つかんねぇんだ。人為的な理由だ人為的! クソッタレが! やってられるか!」


 俺は言って手に持っていた紙切れを投げた。


 宙を舞う紙。あーあとアオエとカズヤがそれを拾い集めた。


「やけを起こすもんじゃないぜ、大将」


 拾い上げた統計記録を手渡すカズヤ。それを手で遮って俺は立ち上がった。


「主殿、どこに行かれるので?」


「寝る」


 そういって近場の木陰へと向かった。その様子を見送る2人は肩をすくめた。


「知らねぇぞ」


「知るか!」


 カズヤの言葉を無視して木陰へと腰を落とす。腕を組んでそのまま横になった。


「とりあえず、なんか飲み物買ってくるけどどうする?」


「適当に一時間後に来てくれ、よろしく」


 公園の木陰に腰を落とす。そのまま木に寄りかかり瞼を閉じた。


 駄目だこりゃ、と呆れたカズヤの声がしたが無視をする。そもそも、あてのない人探しをやらす連中が悪いのだから知った事ではない。


 そのまま眠りにつこうとする。世界と隔絶される。風景はなく入ってくる情報は音と肌が感じている外界の様子だけだ。


 温かな木漏れ日が差す。微風に揺られて葉擦れがなる。


 穏やかな陽気にあっという間に俺の意識は遠のき――――。


「………ーい。」


 ————人が呼ぶ声がする。


「…………っと」


 夢現の中で考える。二人だろうか。寝ぼけているのだろうか。いや、おそらく夢をみているのだろう。


「…………おー、…………おーい。おーいってばぁ」


 …………ちげぇな。本当にどこかのアホが声かけてやがる。


 今、人が寝てんのがわからんのか声の主は。しかもなんだって執拗にこちらにコミュニケーション仕掛けてきてんだ。ガン無視を決め込んでいるが、まるでセミのように延々声を発し続けていた。


「うるせぇ! こちとら寝てんのがわか…………、」


 堪らず目を覚まし、叫んで思考が停止した。


「あ、やっと起きた。かれこれ5分くらい声かけてたんだけどね」


 声の主は思いのほか近くにいて、俺が目を開いたのを見て安心したような表情を見せた。


 この時点では変わり者が執拗に声をかけてきているだけだ。問題は俺はまだ仰向けのまま身体を起こしていないのだ。


「いやぁ助かった。諦めて寝ていたら丁度貴方が真下で寝ているから。そこの人。出来れば助けてくれると嬉しいんだ。なにせ僕、ここに彼これ丸一日ぐらいいるから」


 目の前で話す男は木の枝に括られていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ