門にて
「ここがマギア」
制止した荷台から降り立ち、目の前にそびえる巨大な門を見上げてスキエンティアが言った。
「堅牢そうであるな」
隣に並び立ったアオエも言う。
「そりゃお前ら、入り口の前だからな」
二人の間に佇んだ俺は返した。
マギアはフォーチュンの跡地を利用し作られた都市国家だ。農地を除くと大戦時の名残である長大な壁を防衛用にそのまま使用している。いままで戦争がなかったからといっても今後攻められるとも限らないからだ。
しかし、ただの煉瓦の壁が役に立つかと言われればあんなのとかこんなのを想定するとただの紙切れに等しい。なので今では魔術的な防護術式が幾重に貼られている。
「しっかし、お前はなんだその荷物は?」
遅れて荷台から降り立ったテオを見て俺は言った。というのも野郎はカタツムリの甲羅みたいになったリュックサックを背負っていたからだ。
「僕は色々ありましてぇ、はい」
頭を掻きながらテオは言う。間違いなく商売道具が満載されている。
「頼むから、おとなしくしてくれよ?」
あらためて釘を刺す。そんな注意します? と若干不服そうなテオだが当たり前だ。こちとら泥棒の片棒なんぞ担ぎたくない。
さて、最後にもう一人問題児が存在していて。
「…………お前はマジでそれで行く気か?」
金属音を立てながら荷馬車を降りてくるカズヤを白い目で見ながらいった。
「そりゃそうだろ。持ってきたんだから」
そういいながら緩慢な動きで降りてくるカズヤが言った。なにせ奴はいつもの拳銃と擲弾発射器を持ち、他に散弾銃と突撃銃、挙句に長距離を狙える竿のような狙撃銃を肩に担いでいる始末だ。肩に掛けるカバンには弾薬やら爆薬やらが詰まっている。
完全重装備。敵対行動、戦争しに来たと言われても否定できない。行く前に説得したがこの前の怪人が出たらどうすると頑として聞かなかった。奴なりに考えてくれてるのだろうが、にしたって過剰が過ぎる。
「…………とりあえず、行くか」
ため息を吐いて門を目指す。すぐ近くには門番が立っていた。
そいつはローブをまとい、長い杖を握っている。近づいてくる俺達に気づき、そしてギョッとした。
「…………っ!? おい、貴様ら止まれ!!」
「…………ほら、やっぱり」
当然のごとく握る杖をこちらに突き出し臨戦態勢。アレは魔法を行使する直前の構えであり、明らかに門番は警戒していた。
「こちらに敵意はない」
両手を挙げて俺は答えた。
「嘘つけ! その装備で何が敵意はないだ!」
至極真っ当な発言をする門番。もっとも武器は構えてないのだから意思はないことは理解してほしい。
「それなら俺だけでも近づいてもいいか?」
俺の言葉に門番は逡巡した後、わかったとだけ言った。
「とりあえず、お前らも手を挙げとけ」
うっかり動いて敵対行動とみなされても面白くない。連中はは俺の指示に従い手を挙げた。
それを見て俺は門へと歩いていく。
「お前たちは何しに来た?」
門番は俺に杖を突き付けたまま聞く。しかし、この距離でもその反応なのか。
「管理局員として特務がありマギアを訪れた。リンネよりマギアへ通達は出ているはずだ」
アーレンハイト議長が外政局を通して文章を送っているという話を聞いていた。実務的には管理局が担当であるが外交的な見地からその手続きらしい。
「話は聞いているが、そんな武装で来るような輩を信用できない」
これまた正論を言う。昔はもっと感情的な奴だったというのに頭を使って。もっとも、昔のままだったら初手火球くらい飛んで来ていたかもしれないが。
「誰が来るか連絡が来ていないのか?」
「誰が来ようと敵対の意思があるような者の入国を認められない」
当然の帰結である。いや、すっかり頭で考える人になっちゃって。それはそれとしていい加減問答には飽きてきたので最終手段を行使する。
「それよりも俺はアンタがまだ門番してたのが驚きだよ、先輩」
俺の言葉に眉をひそめる門番。
「なんだお前は馴れ馴れしく。お前のような奴は俺は知らな、い…………、ん?」
門番は杖を立て俺の顔をのぞきこむ。よくよく顔を見てようやく思い出したのか、目を見開いてこちらを見た。
「…………お前、もしかして」
その言葉を聞いて俺は笑った。
「この薄情もんが! ええ! 6年間手紙もよこさないで!」
「薄情っつったら先輩もそうじゃないっすか! 今の今まで人の顔忘れてたくせに!」
「何をこの野郎! テメェが何の連絡もよこさなかったからだ!」
破顔し持っていた杖を放って俺の首に腕を回しヘッドロックをかけてきた門番、もとい先輩は俺の頭に拳を押し付けそのままねじり回した。
「いて、いででで! ギブ、ギブ!」
腕をつかみタップする俺を話す先輩。ニ、三歩よろめいて首を擦っていると今度は肩を掴んだ。
「そうか! 言った通り管理局に入ったんだな!」
あはは、と笑いながら肩を叩く先輩。
「そりゃそうだろうよ。俺は嘘つきじゃねぇぜ?」
「よく言うよこの悪ガキが! しょっちゅうしょうもない嘘ついて怒られてたくせによ!」
あっはっはっはー、とうってかわってご機嫌な先輩にこっちも思わず頬が緩む。
「しかし、お前が管理局員様ね。立派になったもんじゃないか」
「こっちじゃ落第生だが向こうだと優秀なんだ俺は」
「どうだか。そっちでも落第ギリギリなんじゃねぇか?」
「それ言ったら先輩なんてどうだ? 今だ門番じゃないか?」
「あいにくと俺もヒラ門番ってわけじゃねぇぜ。それなりに偉くなってんだ。ただ、今日は人員が確保できなかったから変わりよ」
「よく言うよ。そっちのほうが嘘じゃねぇか!」
なんだコイツ言わせておけば! 先輩は再びヘッドロック。痛い痛いと俺はまた先輩の腕を叩いた。
「しかし、なんだって誰が来るか通達がなかったんだ?」
その体勢のまま俺は先輩に聞いた。どこぞの誰が来るとか連絡しないものか、普通。
「そりゃお前が来るんだったら誰も話さないよ」
「何? 俺、嫌がらせされてんの?」
「俺をびっくりさせたいんだろ。実際にびっくりしたし」
彼らなりのサプライズか。しかし、仕事なんだから報連相はしっかりしてほしい。
「なにはともあれよく戻った。滞在は? 何ヶ月くらい?」
「そんないれないって。仕事で来てんだぜ。長くても1週間くらいだよ」
そいつは残念、と杖を拾い直した先輩は言った。
「それじゃあそちらさん達は連れか?」
先輩は手を挙げポカンとしている4人を見て言った。
「一応、俺の契約者」
「なら話は早い。書類書いて、そしたらさっさと入れ。皆心配してんだぜ」
そう言って門の隣にある窓口を指す。入国前に手荷物検査や審査を行う場所だ。
「そうするよ」
「…………俺、いいわけ?」
状況を読み込めず呆然としているカズヤが自身を指さして言った。
「あ? ケージの連れだろ? だったら止める理由なんてないさ」
うってかわって歓迎ムードの先輩は笑って言った。
「すげー、顔パスってあんだな」
素直に驚いているカズヤに俺は肩を竦めた。
「なにはともあれようこそマギアへ。楽しんでくれよ」




