旅の仲間達
「なぁ、大将。どうしたん?」
不意にカズヤが声を掛けてきた。顔を上げると野郎は不愉快な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「なんでもねぇ」
ローブの袖に腕輪を隠しつつ、カズヤに返した。野郎は笑みを浮かべたまま、さいですか、とだけ言って姿勢を正した。そして、わざとらしい咳払い。
「ところでその腕輪の件なんですが」
「テメェわかってて言ってんだろうが」
完全に人の事をおちょくっているカズヤに怒鳴る。どこからか顔真っ赤、と聞こえる声を無視しカズヤを睨みつけた。
「いやぁ、僕ぅ、物わかりが悪くてぇ、よくわからないんですけどぉ」
煽り散らす野郎に、ぶっ飛ばす、と飛びかかった。冗談だって、と素早く俺の両手首を掴んだカズヤは口元を歪めて笑いを堪えていた。
「いやぁ、いっつもこんな旅してるの?」
その様子を見てなんでかついてきたスキエンティアが言った。
「某とて初めて故。大概はアルストロ近郊を探索するにとどまる」
「それはそれとして、ぶっちゃけなんでお前らいんのよ?」
カズヤに組み付こうとしながら並んで座っているスキエンティアと通行人スタイルの怪盗、本名はテオフラストという、に言った。
今回の件はあくまで管理局の業務だ。契約者として同行しているいつもの二人とは違い、目の前二人は扱いとしては一般人。俺についてくる必要性はない。
「ほら、何かあった時に手伝えると思って」
そう答えるスキエンティアは相変わらず律儀だ。
「貸し借りっていうんだったら前回で清算だろうよ」
あのトンデモ怪人相手にやりあったのだ。木にくくられていたところを助けた、という点では貸し借りなしでむしろお釣りがきてもおかしくない。
「まぁ、それは僕の気持ちという事で」
それでも気にした様子はないスキエンティア。あの二人に爪の垢でも飲ませたいが、いささかお人好しが過ぎるきらいがある。
「勝手にしろ」
組み付こうとしたが現役の傭兵+アルファに勝てるわけもなく握られた腕を振り払い、スキエンティアに向かって言った。奴はそうするよ〜、と間抜けたように言った。
あらためて荷馬車の端に座ると俺はテオフラストを見た。
「で、お前は?」
「ぼかぁ、うん、ついて行けば絶対面白いことが起きると思いまして、ハイ」
期待通りの答えだった。
「お前、ぶれないなぁ」
それほどでも、と頭をかくテオ。別に褒めてはいない。
「まぁ、大人しくしていてくれればいいよ。特にテオ、お前はな」
あらためてテオに釘をさした。
「おや、何やら僕への熱い信頼が」
当然の話だ。ほっといたらどこにでも侵入しかねん奴なのだからこれくらいは言っておかないと。本当なら首輪でもつけて紐でくくっておくぐらいしないと安心できない。いや、それだとコイツ逃げ出すな。
「そういえば主殿はマギアに住んでいたそうな」
ふと思い出したようにアオエが聞いてきた。
「そうなの?」
「昔ちょっと色々あってな」
アオエはまた嫌な話を唐突にする。ずっと記憶の彼方にでもやっとけばいいのに。
「この時の色々って大体四文字ないし二文字で済まない意味が込められているですか、僕の経験上」
話をはぐらかそうとしたのに、アオエの言葉に食い付いたテオは詮索しようとする。
「まぁ、その話はいいとして」
「良くない良くない。一番大事なところ」
テオはさらに言った。しつこいなコイツ。
「そのうち話すよ」
適当に返す。その言葉にテオは不服そうだった。
「大将はマギアにいた頃の話をしたがらねぇんだよ」
話を聞いていた肩を竦めるカズヤ。そういやコイツもしつこく聞いてきた奴だった。
「話す程の事でもねぇだろ? つか、人が話したがらねぇってわかってんなら聞くんじゃねぇよ」
そういうところ実直というか遠慮がないというか、デリカシーがないというか。兎角空気を読んだりとか察したりとかがないのか良くも悪くもカズヤという人間だった。
「でも気になんだろう。マギアから来た唯一の管理局員。魔法使いの世界からやってきた人間が門番として活動している。種族? 間を超えて技能を見せつける魔法使いの正体とは!? ってね」
カズヤの口上はゴシップ紙の見出しのようだった。
「お前、普通に人に喧嘩売るよな。あのな、リンネから他の国に移り住んでいるってパターンもあるんだからその国全員がその国の特色を持った存在だって訳じゃねぇ。それに、俺に対して魔法使いって呼び名は皮肉だってわかってんだろうが」
なにかの理由でリンネから他国を訪れそのまま永住してしまう者も少なくはない。もっとも手続き等があるからそのまま直ぐに、という訳にもいかないのであらためてになるが実際にあるケースだ。
基本的には仕事で赴いて、偶に物好きが旅行してそれ以外にも理由はあるが一番の問題はその最たるが管理局員と外政局員とか笑えない状況にあることだが。
「ということは、ケージ魔法使えるの?」
スキエンティアが素っ頓狂な話をする。この世界に魔法使いはいないのだ。
「今の話聞いてなかった? 使えるわけないだろ、魔法」
ただ、門番と魔法使いの能力自体には類似性が多く鍛えれば使えるのではないかと以前から言われている。しかし、純然たるリンネの人間は特に魔法との相性が悪い。いや、超能力に比べたら圧倒的に可能性はあるのだが、曰くエネルギー効率が極端に悪いんだとかなんとか。
「…………そう」
聞いたスキエンティアはひどく残念そうだった。だが、待ってほしい。
「なんでお前がそうなる。大体俺の知っている魔王連中はほぼ魔法を使ってるし、魔法とか剣の世界の住人なんだろ、お前」
基本的に魔王は魔法使いか戦士がいた世界からやって来る。そもそも魔王とは魔族という魔法を得意とする種族なんだとか。偶に例外もいるようだがその括りに分類されるため、大体のやつが魔法を使えるのだという。
「まぁ、うっすらとした記憶だとどうやらそうらしい。けれどもこの通り、僕は魔法がからっきしで」
今だ記憶の戻らないスキエンティアはそう言って肩を竦めた。
「けど、例の影はどうなんだ? アレは特別な魔法か何かじゃないのか?」
この前の影の事を言う。
魔王達でさえ例外中の例外と言ってのけた"虚無"の能力。その一端であるスキエンティアの"影"はそれこそ魔法由来ではないのだろうか。
俺の言葉を聞いたスキエンティアは自身の影を立たせてみせた。
「どうやら魔法でないらしい。お店にいたいろんな人に見てもらったけれども、魔術的な痕跡はおろか術式的な展開もないとかなんとか。どちらかといえば特徴とか特性だってさ」
どうやら既に魔王達が検証済みだったらしい。
「影を出す特徴とはこれ如何に?」
傍で聞いていたアオエが口にした。それに同意見だった。
「ま、兎に角だ。マギアにゃ観光で行くわけでもないし、ましてや偶に帰る実家って訳じゃないんだ。仕事だ仕事。ロードに忠告したらさっさと帰るぞ。長い無用、OK」
俺の言葉に普通の返事が2つと不服そうな返事が2つ帰って来た。反応に不安を覚えつつ、長居していらぬ詮索とマギアに迷惑をかけられてもこっちが困るので速やかに仕事をこなそうと心に決めた。
そう勝手に誓っていると荷馬車が停止した。
どうやら目的地に辿り着いたようだった。




