査問会
「つまり、今回のケージ局員の行動は軽率だったと言わざるおえないだろうか」
何度目かの同じ質問。演壇で繰り返される議員席のお偉いさん達の質問を受けながら、私バクスターは内心うんざりしながら同様の回答を繰り返した。
「あの場では適切であったと判断されます」
正直にいえば私も驚いた。ケージが現れたアザーズ相手に門の暴発を誘発させるとは。局長は奴が何をしようとしていたか即座に理解したらしい。そりゃあ資料を片っ端からかっさらう。
とはいえ緊急措置として門を不安定化させ暴発を意図的に起こすことはある。ただし、規模が測れない為に本当の最終手段だ。あんまりすべきものでない。何より他国に睨まれる。
「今回の調査でケージ局員の契約者ハセベ・アオエ、リュウジ・カズヤ両名から物理的な干渉、また魔王達からの証言から魔術的な干渉においてもかの対象には効果を得られなかった趣旨の証言が確認されております。また、その点につきましては私を含めた他局員ないし市民も目撃している次第です」
現にあの場で局員の契約者による攻撃も試したがまったく効果なし。くわえて魔王達の攻勢も何の意味をなさなかった。それは皆の知るところであり、続けていたとしてもただの時間の浪費だった。
「だが、魔王達の放った重力魔法? という白物に関しては一定の効果があったことも確認されている。そこで、その魔法で対処する方法はなかったのか?」
「確かに魔王達の証言から重力魔法が対象に効果あったことは確認されております。しかし、同時にそれが対象を拘束ないし撃退するに足るものではないものである、という証言も得ています。現に一度使用した際には対象によって術式が破壊された事も確認されております」
確かに一定の効果は確認された。逆に言えばそれだけだ。あのアザーズをどうこうする、という点に関しては保証の他であり、術式も破壊された事実もあり有効打とは程遠い。
…………いや、本気ならどうなったかと魔王達は証言してもいた。だが、その際にはアルストロへの被害はまったく考慮しないとも話した。
「あの場で超能力者による介入はなかったと聞く。それを持ってからでも遅くはなかったのではないだろうか」
たらればの話だ。今更言ったところでどうにもならない。大体、それを対案として考えたのなら議員席の方々にお得意の弁舌で時間を稼いでほしい。
こっちとしては未知の兵器がポンと街中に現れたようなものだ。使い方も分からなければ敵か味方かもわからない。それがどの程度脅威かもわからない中で悠長になんぞやってられない。
「仰られる通りあの場で超能力者の介入がなかったのは事実であります。しかし、対象にどの程度超能力が有効があったか、また、超能力者を待った事による人的、物的被害についてどの程度拡大したかを考慮に入れると必然的に事態の早期対処の必要性はあったかと考えられます」
「どうだろうか。現に人的被害はなく、物的損害も僅かながら。一番被害があったのも官庁舎であり、実際のところ対象は君達管理局が考える程の脅威ではなかったのではないかね?」
ああ、腹立たしい。だから、被害が大きくならないようにこちらが動いた結果が今だろうに。
「ですから、再三ご説明させていただいている通り事態の早期収拾の為、管理局としてケージ局員が…………、」
「まぁまぁ。熱だけ籠もって内容が変わっていない。今回の件は適正な運用だったと判断せざるおえないのが実情じゃないかな」
議長席で退屈そうに私達のやりとりを聞いていたアーレンハイト議長が口を挟んだ。
議長の言葉の前に議員の方々は苦々しい顔をしていた。
「それじゃあ異論がある人がいないということで本査問会はこれで閉廷。管理局局員ケージの責任は不問とします。以上」
◇
「まったくお偉いさん方は! 高い場所から物見遊山を決めているから現場の苦労なぞ理解できないのだ!」
延々と続いた査問会から開放された私は中央議会の廊下を歩きながら肩を怒らせ吐き捨てた。
「まぁまぁ、見てる人は同じ場所で物見遊山きめてるんだからそうつっけんどんにしない」
横を歩いていたアレイル局長は嗜めるように言った。おそらくはアーレンハイト議長の事を言っているのだろうが、国のトップとしてはそれでどうかと思う。
「にしても何なんですか彼らの反応は。いつもだったら、ああ門を暴発させたの? 必要だったんでしょ、人的被害がでてないならそんな事で煩わせないで、といったくらいにまるで興味を示さないとゆうのに今回はここぞとばかりにつついてくる」
「ケージ君相手だからね。どうしてもそうなるよ」
「アイツ、議員にも嫌われているんですか?」
局長の言葉に思わず聞き返した。何かとトラブルを量産するような輩だからどこぞで議員と揉めてもおかしくはなく、むしろ積極的にやっているまであり得る男である。恨みの1つや2つ、数えられる指の数を超えて不評を買っていてもいささかも不思議ではない。
が、しかし。今回の議員達の反応はそういう私怨からなる感情ではない気がした。
私のその考えを裏付けるようにアレイル局長はハッとしたような表情をし、困ったように顎を撫でた。
「まぁ、そんな感じかな」
珍しく歯切れの悪い局長は何やら含みのある反応をした。
「やぁやぁアレイル君、バクスター君ご苦労様。大変だったね、議会で吊るし上げられて」
不意に親しげに話しかけられたと同時に背後から局長ともども肩を組まれた。見ればそれはアーレンハイト議長だった。
「これはアーレンハイト議長。ご苦労様です」
さっと肩を組まれた状態から抜け出し挨拶を返した。
「そんなかしこまらなくてもいいよ。それよりも肝心のケージ君は?」
「例の件で今はマギアへ向かう馬車にでも揺られていますよ。まぁ、元気にやってるんじゃないですかね」
「そうかい。それはよかった」
局長と肩を組んだまま気楽そうに会話するアーレンハイト議長。そうもいかないが、局長もさして気にした様子もない辺りもう少し自分達の立場をわきまえて欲しい。
その上でさらに議長の護衛が皮肉やらを言ってくるのだが今日はそれもなく、議長の背後にいたのは忍者と呼ばれるアオエ君がいた世界の諜報部員であるジグモ氏が無言でたたずんでいた。
「しかしなんですかあの議会の反応は異常ですよ」
「さもありなん、とね。まぁ、彼らはケージ君が怖いんだよ」
アーレンハイト議長からでた言葉は意外なものだった。
「アイツがですか?」
意味がわからない。不愉快やら腹立たしいならまだしも怖い、とは。その真意については公表できないのか、議長の言葉を聞いてアレイル局長は咳払いをし、アーレンハイト議長は苦笑した。
「まぁ、何にせよ勝手は困るよねって話さ、議会としては。次からはちゃんと申告するようにってね。言った通り今回は僕がなんとかしたから」
それじゃあ、と珍しく歯切れの悪い話を残しアーレンハイト議長は立ち去った。私は頭を下げ議長を見送ったが、事の次第は隣で同様に頭を下げるアレイル局長も話してはくれまい。
今まで局員の事はそれなりに把握しているつもりだった。しかし、これは私の預かり知らぬ事実があるらしい。
ケージ局員。他局員同様に管理局員育成課程を終え正式にリンネ管理局内部調査部に配属された局員。特筆すべき項目は目立ってないものの、門の管理者としては優秀と言い難く、しかし、アザーズとの交流に関しては持ち前の人懐っこさから誰となく偏見なく接しているとあった。
身寄りはなく入局前はマギアに住んでいたという。理由は家庭の事情であるというが、経緯に関しては一切が不明であった。
改めて考えれば経歴は不審そのもの。今まで当人が話したがらなかった聞かずにいたが、どうにもきな臭い。
マギアからの管理局員ということもあり当時は幾分か珍しがられていたが、どうやら事情はそれでは済まないらしい。
果たして、局長や議長、その他議員の方々は何を知っているのか
ケージ。お前はなんなんだ?




