真世界 - ①
怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世が起こした商人シュッセ強盗事件から端を発した一連の騒動が一段落した翌日。市民への被害は魔王達の尽力のお陰で現段階までに確認されていなかった。市街の家屋の損傷などはみられる為、治安維持部による被害調査が進められ、半壊した管理局局舎では職員総出で復旧に当たっていた。
「いやぁ、本当に嫌になるよ。朝から市民からの苦情の嵐。苦情、苦情、苦情。議会への苦情がずーーーっとやまない」
すっかりオープンテラスになった局長室でそう嘆くのは、なんでかまたこんな場所にいるアーレンハイト議長であった。
「仕方なかろう、アーレンハイト。緊急自体で市民を避難させたのはいいが、大した被害もなくもう大丈夫なんで帰ってどうぞ、とされたら皆怒る。彼らにも生活という物がある。かくいうわしも貴様に文句を言いに来たのだからな」
そんな性の根が悪い話をしているのは居酒屋以外で出くわすのはもしかしたら初めてかもしれないギリアム爺さんだった。
「なんだギリアム。お前も私に文句を言うのか? なら、彼らにも責があるだろう。陣頭指揮をとって事態を解決したのは彼らなんだから」
人に責任をなすりつけるような意地の悪い話をする議長。後ろのハイゼンベルクが皮肉っぽい笑みを浮かべているあたり冗談なのだろうが、その言葉を聞いて同席しているバクスター課長が物凄く居心地が悪そうだ。
「そうやって責任をなすりつけるのか、アーレンハイト。お前は昔からそう小狡い立ち回りが得意だったな」
「人聞きの悪い。お前こそ問題が起きれば金に物を言わせて解決してきたじゃないか。人の頬を金で殴って有無を言わせない傲慢な奴め」
「資本主義下での正当な権力の行使だ」
なんだか子どもの言い合いを繰り広げる二人。対処に困ったバクスター課長は顔中シワだらけにしているが、対してアレイル局長は疲れたようにため息をこぼした。
「あー、お二人共。茶番はこのあたりにしていただけると助かるんですけれども」
局長は苦笑して年寄り2人に言った。聞いたギリアム爺さんが、若いのは付き合い悪いな、と茶化したようにこぼした。
「バクスター君の反応が面白かったからもう少し続けていたかったけど、意地が悪いね。
さて、改めて議会より今回の件に尽力した管理局、安全保障局には感謝の念を禁じ得ない。特に、この場には居合わせてないゲオルグ北方班長、ならびにケージ局員の多大なる功績にはそれを評す言葉も見つからない」
かしこまってアーレンハイト議長が俺に向けて言った。
「もったいないお言葉です」
「それに、怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世。貴方も今回の件に尽力してくれた。リンネを代表して心から感謝を」
「それほどでも」
ま抜けた声で怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世は頭を掻いた。というのも昨晩の怪盗の格好とはうってかわって街中であった冴えない男の姿をしていた。
「それで、アーレンハイト議長。態々謝辞の為に私どもの局舎に? 幾分か風通しが良くなっておりますが」
「それもあるけど本題はこれから」
それじゃあよろしく、とアーレンハイト議長はアレイル局長に言った。
「知っての通り今回の騒動の裏にアンチ・アザーズの存在があった。彼らは元々ガーデン内のアザーズの存在に異議を唱える人々の交遊会だった。それが今や拡大して反異世界人派の一大組織だ。
まぁ、それでもここまで目立った過激な活動はなかった。精々街中でデモ活動、もしくはみんなで集まって井戸端会議、偶に危ないことをするくらいだったけどね。今回の様な大規模な行動は過去一度も確認されていない」
「彼らの組織に何か変容があった、と?」
「どうだろうね。もとよりトップダウンの巨大な組織、というより小集団が寄り集まってアンチ・アザーズを名乗っている、というところかな。現に拘束されたアンチ・アザーズは今回の件については知らなかったと供述している」
「嘘をついている可能性は?」
「そこまでして庇い立てする義理はないよ。一部過激な人達が行動を起こしている、と考えた方がいい。そして彼らはありとあらゆるところに入り込んでいる」
厄介な話だ。ただでさえ全容が見えないのに、さらにどこにいるかもわからない。現にこの管理局にも入り込んでいたのだ。
「さらに、彼らはある企てをしている事がわかった。怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世の協力の元、パトリック課長の私室にアンチ・アザーズに関わる命令書が発見された。"真世界"計画。彼らはその名の企てをしている」
「…………真世界計画」
何をもって"真世界"なのか。彼らの名からしてアザーズのいない世界を指すのだろうがどう実現するつもりか。
「概要について書かれている資料は見つからなかった。だが、このリンネを含む7カ国で計画を進行するように指示があった」
「…………計画」
そういえば、パトリックはこのまま行けば自分の計画が達成されると話していた。それは管理局の要職について、内部よりアザーズを排除するものだったと思われる。
「パトリックと同じような事を考えているのでしょうか?」
「そこまではわからない。だけど、今後彼らが他の六カ国で何らかの動きを見せることは間違いないと思われる」
そこでだ、とアレイル局長は話す。物凄く嫌な予感がする。
「ケージ君。君には重要な任務を与える」
ほらきた。
「これから六カ国に赴き、アンチ・アザーズの動向を注視、可能な限り現地民と協力して彼らの企てを阻止してほしい」
ある意味で死刑宣告にも似た無理難題をアレイル局長は告げたのだった。




