アンチ・アザーズ⑩
「効果アリ! 効果アリ! 作戦は続行! 全員重力魔法を使える奴と街を死ぬ気で守れ!」
念話で聞こえてくる魔王達の言葉を聞いて魔王城に残っていたエドモンは口元をつり上げた。
「攻略の道が見えたと思うべきか、はたまた悪足掻きで終わってしまうか」
「あのー、本当にこれで行くの?」
その一方でエドモン・ダンデスの小脇に抱えられた僕は彼を見上げて言った。
「お前を背負うとお前自身が攻撃しづらく、前に抱くとこちらが守れない。結局、この形が一番よい」
なんてエドモンは言うが本当かなぁ。実際、もう少しいい形がありそうなものだけれども、かと言ってぱっと浮かぶものでもなく、妥協の気持ちで僕はこれを甘受した。
「さて、三班より各員へ。これより我ら攻勢に移る。接触後何ら効果が得られなければ腹案を。あった場合は準備をしろ」
わかったよ! もったいぶるな! はよいけ! と魔王達は実にガラが悪かった。それを聞いたエドモンは肩を竦めた。
「さて行くか、異世界の魔王」
「それは貴方も一緒でしょ?」
聞いたエドモンが鼻で笑う。
彼が踵で床を蹴る。瞬間、僕らを丸く包むように空間が歪み、次には目の前に怪人が現れた。
「こんばんは、招かれざる客」
正確には僕達が現れた形だが、目を見開いて自由自在に脚を動かしていた怪人の動きがピタッと止まり、その全ての脚がこちらを向いた。
が、脚が動きだす前に先にエドモンが怪人に向けて腕を伸ばした。
「そしてさようなら」
18本の脚が一斉に僕らを貫こうとしたと同時に、エドモンが指を鳴らした。直後、怪人の身体が水を散らしたように吹き飛んだ。
「では、君の出番だ」
僕らはそのまま仰向けに落下していく。落ちながら飛び散った身体が巻き戻っていく様子を見上げていた。
エドモンに抱きかかえられた僕は彼同様に腕をまっすぐ伸ばす。そして、念じた。イメージは直進する力。
「いけ!」
声とともに黒色に包まれた腕から、まっすぐと影が伸びた。それが残った怪人の足に絡んた。
飛び散った様な怪人の身体は既に戻りつつあった。そうして、元の形へと戻った怪人はこちらの重量に引かれて空から墜ちた。
そう。墜ちたのだ。
「掴んだ!」
僕は叫ぶ。隣で僕を掴むエドモンはハッと笑った。
「効果アリ、だ! さぁ、飲んだくれ共! あの怪人を地面に叩きつける準備をしろ!」
やってるよ! と頭の中に響き渡る魔王達の声。
それより正面から目が離せない。
「あれ、かなり怒ってるよね」
「そうだな。お怒りだな」
魔王様が正面を見据えて口元をつり上げた。落下する怪人は明らかにこちらを見ていた。
瞬間、頭部の至るところに赤い目が現れた。
「は! 相当ご立腹と見える!」
悪い笑みを浮かべて魔王様は嗤う。何だかんだこの人も神経どうにかしている。
上に位置する怪人は背の脚を大きく広げる。その脚先を全てこちらに向けていた。
「まずいまずいまずい!」
その光景に僕は言った。直後に脚が全て真っ直ぐに迫る。
「落ち着け。何、我々には最強の勇者がついている」
次の瞬間、全ての足が3本の光に貫かれた。
怪人が顔を上げる。僕もそちらを見た。
家屋の屋根の上、複数本の光の槍を展開したジーンが佇んでいた。
「さぁ! 大判振るまいだ!」
彼はそう言うと光の槍を射出した。吹き飛んで消え、再生する脚をジーンは的確に打ち抜いていく。
「すごい!」
「伊達に勇者をやっていないさ、奴は。それより近いぞ、スキエンティア」
落下する魔王様が髪をなびかせ下を向く。僕も見ると下に4人がいた。
削られながら再生を繰り返す怪人を見て手をのばす。
「せーの!」
拳を握り引き寄せる。その動きに連動し、影が引き寄せられる。引かれた怪人は姿勢を崩し、そのまま管理局の局舎へと落下していった。
「後は任せたよ、ケージ!」
屋上で屋根に手をつく彼に声をかける。怪人はそのまま彼の前まで落下していった。
「いらっしゃーい」
瓦を砕いて墜ちた怪人を前に、ケージは笑って言った。