アンチ・アザーズ⑥
魔王達の一斉攻撃。アルストロを破壊しかねない一撃を食らってなお、空に浮かぶ怪人は変わらず地上を見下ろしていた。
「なんだ、アイツ?」
「腹立つなぁ」
「偉そうに見下しやがって」
屋根の上の魔王達が各々に空の怪人を見て吐く。
悠然と空に浮かんでいた怪人が背の足を伸ばした。
「…………っ!? 来るぞ!」
俺は叫ぶ。何人かの魔王がこちらを振り返り、先の怪人が背の足を縦横無尽に振るった。
「ん? なにをって、のわぁぁぁっ!?」
かまいたちのような見えない斬撃が四方に放たれる。それを魔王達はそれぞれ反射的に撃墜した。
「っぶねぇ! 死ぬかと思った!」
「野郎、空間をぶった斬って来やがった!」
「何がどうかちゃんと説明しろ!」
不平不満を吐きつつしっかりと怪人の攻撃を捌ききる魔王達。腐ってもその名前の冠するだけのスペックは持ち合わせていた。
「しかし、アレは、うーん、厄介だな」
魔王の一人が顎をさすって空の怪人を見上げて唸っていた。
「どういう事だ?」
「アイツは存在しているようで存在していない」
なんだか要領を得ない説明だった。
「わかりやすくお願い」
「属性が特殊なんだ。存在そのものが虚無であり、故に存在していない。しかし、虚無であるという存在なのだからそこにある」
「つまり?」
「おんなじ属性じゃないとどうにもならん」
そう言って肩を竦めてみせた。
「いるのか?」
店の中で百鬼夜行ができそうな程見た目が違うやつがごまんといるんだ。魔王の中にもそういう奴が一人や二人存在しているだろう。
「いるわけないだろ、そんな特殊なやつ」
常識的に考えよ、と非常識な連中に言われた。
「詰んでんじゃねぇか!」
つまり手段が無いに等しいと同義であった。
「あんなウルトラレアみたいな存在そうやすやすといると思うなよ」
「ピンポイント特殊なやつ引き当てるお前らが悪い」
ちょっと前に課長から言われたついているのかついてないのか云々の会話が脳裏をよぎった。
「物理が駄目、魔法が駄目。なら、この俺の出番だろ!」
不意に市中に響く声。
「おお! 心眼のノングラータ! 姑息で有名なノングラータじゃないか!」
魔王の一人が声を上げた。
「それはやめろ!」
声とともに何かが屋根を踏み込み跳んだ。
白い影が暗闇の空を奔る。それは2メートル程の服を着たトカゲのような存在だった。
「こっちを見ろ!」
声に怪人が振り向く。長い首先に頭の変わりについた巨大な眼が紅く光り輝いた。
瞬間、一体が赤色の光に包まれた。後に聞いた話ではノングラータは精神操作を得意とし、元の世界で猛威を振るっていた魔王だという。そして、その攻撃で何万の廃人を生み出したのだという。
それを真正面で受けた怪人。ノングラータは浮く怪人の下を通り過ぎて、俺達のいる場所まで飛んできた。
「やったか?」
近くにいた魔王が降り立ったノングラータに聞いた。
「あ、無理っす、無理無理。ダーメだ話通じねぇ。アイツ超こぇ。頭ん中覗いたけど壊す事以外考えてねぇ」
長い首を振ってノングラータは言った。
「それは憎悪とかそういうことか」
アオエがノングラータに聞いた。
「いや、シンプルにそれ以外がない。恨みとか喜びとか楽しみとか怒りとか。そういうの一切なしに破壊が目的。ありゃ人の形をした災害とか厄災の類だわ」
つまるところ、語る言葉も思想も持ち合わせていないということか。これではもはや生物とは呼べない。それは装置といいたいんだろうか。
「まぁしかしだ。野郎が飛ばす空間の断絶みたいなのはとりあえずは防げる。幸いに降りてきて何やかんやする気はなさそうだから防戦に徹底して対策を練るしかない」
「護衛とか守護っていくら位になったっけ?」
魔王達が報酬の算段をし始める。空の怪人についてはすでに抑え込んでいるつもりなのだろうが、ちょっとフラグっぽい。そんな事を思っていると。
「おいみろ!」
魔王の一人が空を指差した。皆が一斉に振り返る。そこには先程の怪人が空中で蹲っている姿があった。
「ねぇ、ケージ。僕、嫌な予感がするんだけど」
「奇遇だな。俺も感じている」
そう言ってるそばから怪人の身体に変化があった。
背中から生えている鋏角類の足がさらに2本増えたのであった。
「…………マジ?」
魔王が声を上げる。
足の生えた怪人は身体を起こす。そして、地上を見下ろし四本の足を伸ばした。
「く、来るぞー!!」
魔王の誰がが叫んだと同時に怪人の四本の足が動き出した。
先の倍の数の見えない刃がアルストロに降り注いだ。
「ぬあぁぁぁっ!?」
「ふざけんなー!」
それを迎撃していく魔王達。が、しかし、倍に増えた怪人の攻撃は全て捌ききれず、うちこぼしが起きる。何が言いたいかというと。
「クソッタレ! こっち来んぞ!」
取りこぼされた無数の刃が飛んでくる。それを今まで佇んでいた魔王様が迎撃する。
「これは一度逃げるべきでは? 門番殿?」
魔王様の言葉に俺達は頷き走り出す。取り敢えず逃げる先は魔王城。この近辺で一番安全な場所はあそこしかない。
「ぐわーっ!?」
その時、魔王達の悲鳴が聞こえた。見上げると見えない刃を打ちこぼしたのか屋根が吹き飛んでいた。その破片が落ちてくる。
「ちょちょちょっ!?」
咄嗟に飛び退く。次の瞬間、残骸が落下してきた。
破片と砂埃が舞う。
「点呼ー! アオエ!」
「ここに」
「カズヤ!」
「いるよ!」
「スキエンティア!」
他の二人は反応があったがもう一人は反応がない。
「スキエンティア! スキエンティア生きているか!?」
「生きてるよー」
遠くに声が聞こえた。顔をあげて振り返る。
瓦礫の向こう、スキエンティアの姿が見えた。
向こうも気づいたのか手を振っていた。その姿にホッと息を吐いた次の瞬間、スキエンティアが両断された。




