アンチ・アザーズ④
「ありゃ、なんだ?」
現れた黒色の人型の存在を見てカズヤが言う。
「友好的な生物ではなさそうだ」
アオエが刀を中段で構えた。
「わからねぇぜ。意外に話しができるやつかもしれない」
佇む怪人を前に俺は言った。それはそれとして逃げる準備は欠かさない。
「貴様がなんなのか、どのような存在かは知らん。だが、好きに暴れろ」
門を閉じたパトリックは現れた怪人に向けて言った。すると怪人が彼を見た。
瞬間、2人が警戒する。
怪人は赤色の瞳でパトリックを見つめていた。しばらくして視線を外すと、肩甲骨から鎌のような鋏角類の足みたいなものが2本生えてきた。それを振り上げるように伸ばす。
「大将ッ!!」
カズヤの叫びと共に足を掬われる。俺はそのまま仰向けに倒れ込んだ。直後、頭の位置をあの怪人の足が通り過ぎる。
「…………、クソ。だからお前たちは嫌いなんだ」
天井を仰いだまま倒れ込み、か細いパトリックの声に顔を上げるとそこには口から血を吐き両腕を失った彼がいて、そのまま胴体がバラバラになって地面に崩れ落ちた。
瞬間、管理局舎が乱切りにされた。
「…………ッ!?」
壁や天井や床が崩れる中、凶相でカズヤが拳銃を乱射する。しかし、弾丸は怪人の身体をすり抜ける。
「ならばッ!!」
降り注ぐ残骸を避け、アオエが怪人に斬りかかる。
「おい、馬鹿! やめろ!」
カズヤが叫ぶと同時にアオエが怪人を袈裟にする。が、しかし。
「…………っ!?」
霞を斬るが如く刃は怪人をすり抜けた。
ホコリが舞う中、佇む怪人がこちらをみた。
『…………殺される!』
その場にいた全員が思った。しかし、こちらの思いとは裏腹に怪人は空を見上げると、そのまま空へと飛んでいった。
「…………、助かった?」
怪人が消えてどっと脂汗が噴き出す。
「ケージ! 何があった!」
騒ぎにバクスター課長と怪盗、他局員がすっ飛んでくる。
「課長! パトリックだ! やっぱり野郎が犯人だった! そして、最後の最後にアイツ、化け物を召喚しやがった!」
「それはこちらでも確認できた。それで彼は何処にいる!?」
バクスター課長の言葉に俺は目の前にあるパトリックだったものを指差す。
課長はそれに近づき見下ろして佇んでいた。
「…………馬鹿者が」
俯き気味に握りこぶしで彼は呟いた。
「いや、それより今は怪物だ。ケージお前、その怪物は倒したんだろうな!?」
振り返ったバクスター課長はいつもの調子で俺に向かって聞いた。
「いや、駄目だった。兎に角俺達じゃ話にならない。すぐに魔王連中に連絡だ」
「そんな存在が? …………まさか、神か?」
俺の証言を聞いて課長はたじろぐ。確かに超越した存在ではあったが印象は違った。
「いや、アレは神々しさとか荘厳さとかとはまったく無縁だ。おそらく、魔族か最悪悪魔にちかい」
「悪魔だと!? どっちにしたって碌でもない! お前は運がいいのか悪いのかはっきりしてくれ!」
理不尽だった。
「とにかく、今はその怪物は何処にいる?」
課長の言葉に俺は空を指差した。
「被害の規模はどれだけになるかわからない。けど、つい今し方管理局をぶった斬った奴だ。きっと課長の言った通り碌なことにならない」
俺の言葉ににバクスター課長は顎に手をあて思案する。
「市民の避難の必要があるな。それに、管理局員に急ぎ伝達。遠方に攻撃手段のある者のみ契約者と至急管理局舎へ戻り事態の収拾、他のものは避難誘導だ」
相変わらず得た情報で判断を下すまでが早い。目立った功績はないものの地に足をつけた物の考え方をするので、そういう意味でこの人は優秀だ。
「いや、駄目だ。中途半端な奴とか戦力にならねぇ。物理的な攻撃手段でない野郎に限るな」
課長の言葉にカズヤが返す。
「どういうことだ?」
「野郎、撃っても斬っても当たらんのよ」
カズヤは指で銃を撃ったり手で斬って見せたりする。
「それは効かない、という意味か?」
「効果がない、って感じだ」
「弾丸を放てばすり抜ける、斬り捨てれば霞を斬るが如し。おそらく、他の攻撃手段も同様。武器、肉体のみに頼る攻撃であるならばアレには傷1つ負わせること叶わぬ」
アオエの補足に苦い顔をしてみせた。
「遠距離物理以外の契約者持ちの局員のみを招集! 後は避難誘導! それと大至急魔王城に使いを走らせろ! 依頼条件は"制限なし"だ! 必要なら局印の入った文章も出すと伝えろ! 責任は私がとる!」
相変わらず判断に迷いがない。それ以外ないと俺も思う。しかし、この緊急時に誰が魔王城まで走るかだが。
「それは私が受け持とう」
現れたのは未だに局舎に居残っていたエドモン・ダンデスであった。




