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しんせかい  作者: 日陰四隅
第一章 リンネ
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アンチ・アザーズ①

 怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世の逮捕劇は一転、商人シュッセによるアザーズの人身売買にかかわる事件についての捜査に切り替わった。


 被害者であるアザーズたちは治安維持部によって地下室から保護されていた。残る化け物、というか俺達があの化け物と遭遇した時、外で待機していた魔王様によって邸宅に現れた化け物は全て一掃されていた。地下から舞い戻った時、上で見たのは肉と金属の破片が屋敷一面に散っている光景だった。

 

 そして現在俺達は商人シュッセ邸宅、その家主の私室に俺達は集まっていた。


「言え! 貴様、この部屋のどこに隠している!」


 主人であるシュッセは後ろ手に縛られゲオルグに詰問されていた。


 今、ゲオルグが探しているのはシュッセの持つ帳簿だった。


「商人というのは生真面目でな。どんな金の流れも記録している。それが後ろ暗いものだとしても」


 仮面の怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世の助言によりシュッセが関わっていると思われる人身売買。その記録を治安維持部によりひっくり返す勢いで捜索に当たっているが、いまだに発見に至っていなかった。


「そこのコソ泥の甘言に騙されているだけだ。そんな物、存在している訳ないだろう」


 襟首を掴まれているシュッセは机に座り込んで、備え付けのペンを玩んでいる怪盗を蔑んだ目で見やって、ゲオルグに吐き捨てた。


「あのおっさん意外に口が堅ェなぁ」


 壁に寄りかかったカズヤはゲオルグの詰問を見てそういった。


「まぁ、人身売買自体は重罪であるからな。さらには買い手の情報が漏れた、とあれば命の保証はあるまい。それは黙っていよう」


 カズヤの言葉にアオエは返した。


「では、アレを喋らせればいいのか?」


 そういうのは魔王様、エドモン・ダンデス。どうやらゲオルグのおっさんに怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世逮捕に協力してほしいと個人的に依頼を受けて出張っていたのだという。


 そりゃ最終兵器だわ。いくらなんだって過剰戦力である。そんな暴の化身である魔王様が今度は商人シュッセを喋らせてやろう、と言っている。


「できんの?」

 

 俺は魔王様に聞いた。


「可能だ。ただし、廃人になる」


 ヒエッ、とスキエンティアが悲鳴を上げる。どういう方法かは聞く気になれず、とりあえずNGを出して置いた。


「それは残念」


 何が残念なんだろうか。


「貴様! 間違いないんだな!」

 

 シュッセの襟首を掴んだままゲオルグが怪盗に聞いた。


「今更嘘をいう必要性はないだろう」


 デスクに座る怪盗はゲオルグの言葉に肩を竦めた。


「どこにあるかは分かっているのか?」


 おおよそは、と怪盗は返す。


「なら話が早い。それは何処だ」


「何故、言う必要があるんだね?」


 ゲオルグの言葉に怪盗は意味が分からない、といった表情を浮かべていた。


「お前なぁ」


 呆れた俺は怪盗に言う。


「私はあくまで怪盗だ。政府側とは反目する立場にある」


 当たり前だろう、と怪盗は言った。そりゃそうだが今それを言うかよ。


 案の定、ゲオルグのおっさんは怪盗の言葉を聞いて、貴様ぁっ! 怒声を上げた。


 ゲオルグはそのままシュッセを手放すと肩を怒らせデスクに座る怪盗に近づいた。無表情で、近づくゲオルグを見据える怪盗。おっさんは怪盗を殴りつけん勢いで近づき、そしてそのまま頭を下げた。


「私はお前たちアザーズが嫌いだ。この世界に勝手にやってきて問題を起こす。そんな奴らの事なんぞ知った事ではない。だが、アレは許されるモノではない。例え忌み嫌う連中だとしても、アレは人道的に許されるものではないのだ!」


 臓腑から吐き出すような声で語るゲオルグ。その姿を前にして怪盗は頭を掻き、そして溜息をこぼした。


「…………まぁ、アレは私の趣味でもないからな」


 そういってデスクに座っていた怪盗は立ち上がる。奴はそのままデスクの縁に沿って歩き、引き出しの前までやってきた。


「おいお前。そこはすでに私達が探した…………」


 そういうゲオルグに怪盗は溜息を吐いた。


「知ってる。そして正確にはまだだ」


 そういって怪盗は机の引き出しを開け、その下を触りはじめた。


「何してんの?」


「引き出しを開けてんの」


 怪盗はそういうと机に耳を当てながら引き出しをゆっくりと開け始めた。


「馬鹿なのか?」


「いや、そうでもねぇぜ」


 呆れるアオエを余所にカズヤが笑う。奴が見ている視線の先に目をやると、後ろ手に縛られたシュッセが怪盗を見て青い顔をしていた。


「まぁ、どの世界の商人も考えることは同じでな。出ていく金は出来るだけ抑えておきたい。何なら出さないで済むならそれに越したことはない。そして、そいつは出来るだけ手元に置いておきたい。

 私のいた世界でな、海上に作られた商業都市国家があってそこに盗みに入った時だ。連中はこうした普段使いの道具に細工を施していて、そういう証拠を隠していたものだ」


「やめろ!」


 語りながら引き出しを引く怪盗に脂汗をかいたシュッセが叫んだ。


「つまり、どういうこと?」


 怪盗の言葉を理解できないスキエンティアは聞いた。正直俺もよくわかっていなかったから助かる。


「要は、この机自体が金庫になっているんだ」


 そういいながら机の引き出しを開けていく怪盗。そのたびにシュッセの顔色は悪くなり、滝のような汗とチアノーゼでも起こしそうな顔色に変わっていた。


「よし、メモリはあった」


「メモリが、あう?」


「引き出しの下に溝があってな。それが金庫のメモリと同じ役割を持っている。引き出しのくぼみに合わせて引いて適切な位置で止めれば中のくぼみが一致し」


 そう言って怪盗は手にしていたデスク備え付けのペンをペン立てに差した。


 カチャという何かが外れる金属音がし、硬いものが地面に落ちる音がした。


 怪盗は机から耳を離すとそのまま机の下を除き込み。


「こんな手帳なんかを隠す仕掛けが開く訳さ」


 そういいながら黒革の手帳を掲げながら立ち上がった。


「やるじゃないか、怪盗殿」


 魔王様が拍手をし、怪盗が慇懃に頭を下げた。


「と、言ってもこんな事は自慢にもならないがね。そら、ゲオルグ氏」


 そう言って怪盗はおっさんに手帳を差し出す。ゲオルグは苦々しい表情を浮かべた後に手帳を受け取り。


「ご協力に感謝する」


 と怪盗に向けて頭を下げた。

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