怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世⑫
「やれ! "ニューマン"!!」
シュッセの声に化け物が呼応し叫ぶ。そして、まっすぐこちらに突っ込んできた。
「大将!」
カズヤが前に出て拳銃を撃つ。金属部にあたった弾丸は弾かれ、生身のカ所にあたったとしても化け物はものともしていたなかった。まるで痛覚がないように。
「…………ッ、チィ! 弾がきかねぇ奴が多すぎんだよ!」
マガジンを捨てたカズヤは吐き捨てるように言った。
近接する化け物は走る勢いで踏み込み、振りかぶって拳を叩きつけてくる。
合わせてアオエとカズヤは化け物の左右に散り、俺達三人は後ろに跳んだ。
「こやつ、隙だらけ!」
化け物の右に走ったアオエは素早く背後に回り、足の腱を切りつけた。
途端、怪物の左足が沈む。右膝が付き、ひざまづくように倒れた。
「そら、喰らえよ!」
そういったカズヤは倒れ込んだ怪物の頭目掛けて再び拳銃の弾を全弾叩きつけた。
血飛沫が舞い、肉片が飛び散る。
「人と同じ構造をしているんだ。頭を狙えば一発だろ!」
再びマガジンを排出しながらカズヤは言う。確かに、一般的な人類より1.5倍ほどの体躯はしているものの、構造は人間とあまり変わりがないように見えた。
ただ、気になるのはあの金属部品と奥で佇み笑みを湛えて余裕そうなシュッセの姿だが…………。
「…………っ! いや、待ちたまえカズヤ君! 気を付けろ!」
怪盗が何かに気付き叫んだ。
あ? とカズヤが声を上げたその時、顔面から血を流していた怪物はおもむろに拳を振り上げた。
「おいおい、嘘だろ!?」
それを見て驚くカズヤ。直後、怪物はカズヤに向けて拳を振り下ろした。
「んで俺ばっか!」
自分に迫るストレートを真横に跳んで避けるカズヤ。拳はカズヤが立っていた壁を打ち砕いた。
「なれば!」
そういってアオエが化け物の背中に刃を立てる。が、刺さった直後に金属を打ったような音が響いた。
「…………ぐっ!」
苦い表情を見せるアオエ。背中に刃が立ったからか、怪物が蹲るように背後を見る。上下逆でアオエと目が合う化け物。奴は壁に刺さった腕をそのまま大降りに身体ごと振ってアオエを殴りつけた。
「そんな鈍い一撃が当たるものか!」
そういってアオエは後方に飛び退いた。
空ぶる一撃は腕を掲げるような形で止まる。腕を掲げたままそのまま怪物は立ち上がった。
そう。立ち上がったのだ。
「アレ、なんで?」
スキエンティアが驚く。
「…………おいおい、まさか」
同様に俺も驚いた。
「あの化け物、傷が治ってやがる!」
余裕そうなシュッセの意味が理解できた。
「んなのありか!?」
拳銃を構えたままのカズヤが叫ぶ。
「まったく化け物に困らない世界である」
アオエは苦しそうに口元を歪めて笑った。
「だったら」
そういうとカズヤは拳銃のマガジンを引き抜く。スライドを引き、装填された弾丸を取り出した。
素早くベルトに収められた単発の弾丸を引き抜く。それをマガジンに込め、カズヤは再び化け物の後頭部に狙いを定めた。
「喰らえ!」
引き金を引く。撃鉄がおり、火薬が炸裂した。
弾丸が銃口から螺旋を描いて飛び出す。直後、それが緑色に光る。
瞬間、雲の壁を作り弾丸が加速した。
「なんそれ!?」
俺は叫んだ。拳銃から飛び出した高速の弾が化け物の後頭部に直撃する。直後、黄色の輝きを放ち、化け物の頭部を文字通り吹き飛ばした。
「なにィッ!?」
さすがに想定外だったのか、シュッセが叫ぶ。
化け物を貫いた弾丸はそのまま黄色の軌道を描き天井へと直撃した。天井は大きく破損し、砕けた石材が破片となってシュッセへと降り注ぐ。奴は咄嗟に身を丸めて落ちる破片をやり過ごした。
「おまっ! ランチャー他ショットガンすら持ってきてねぇっていったじゃねーか!」
どうせ泥棒を捕まえるだけだ、とか言って拳銃しか持ってきてなかったというのに、アレはどう考えても片手で扱える銃の威力の範囲を超えていた。
「試作品だぜ。45口径に土と風の魔法を付与した魔法弾だ。シンプルに加速させて重量を増やしてぶち込む弾丸だぜ」
思いの他成果があってご機嫌な様子のカズヤ。にしたってアレはどう考えてもオーバーパワーが過ぎるのである。
「ハッ! 明らかに技術の産物なのに魔法と来たか! いや、君達も私に負けず劣らず面白い事をする!」
それともう一人。カズヤの弾丸を見て怪盗は面白がっていた。
頭を失い膝を付く化け物。流石に脳みそを失えば生命としては機能を停止するらしかった…………、
「…………まさか」
同じものを見てアオエが息を飲んだ。俺も含めた他の連中も呆然とする。
「…………噓でしょ?」
それを見たスキエンティアの口から言葉がこぼれた。
なくなったはずの化け物の頭部。残る首から血管や筋繊維や骨が伸びていた。
化け物の頭が再生しているのであった。




