怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世⑦
「お邪魔しまーす」
邸内に侵入するとすぐ近くに扉が開いた部屋があった。上では未だてんやわんやの騒ぎだ。
俺は開いている扉を指差した。カズヤはうなずいて扉に近づく。壁に張り付き中の様子を伺っている。少しして近づいて来るように手で合図した。
「わー、なんか密偵みたいだ」
そんな間抜けた感想を呟くスキエンティア。
「黙ってろ」
俺はスキエンティア顔を見ずにそれだけいうとカズヤの隣に並んだ。
「中は?」
「おそらく問題なし」
カズヤの回答を聞いて振り返る。後ろの二人と目を合わせ頷き、それに答えるようにアオエとスキエンティアが頷いた。
視線を戻しカズヤの肩を叩く。それを合図とカズヤが拳銃を構えて室内へと侵入した。しばらくして、クリアという声が聞こえてきたので、続いて俺達も部屋の中へと入った。
「ここは、書物庫であるか?」
後ろのアオエがこぼす。壁一面の本にデスクが一つと革張りのソファにテーブルが一つ。そして。
「こんなところに、か」
思わずつぶやいた。デスクの裏側の本棚が一箇所なく、そこからの地下室に続く階段が伸びていた。
「見た感じ地下だね」
「件の賊はおそらく下であろうな」
「で、どうするよ?」
「行くしかないだろう。たとえ何があったとしても、だ」
口元をつり上げて俺は言う。あの盗人野郎が入った家は尽く脱税の証拠が上がるらしい。金を隠すには持って来いの場所だろう。しかし、だ。
「それにしてもちと仰々しくはないか、これ?」
何が? というスキエンティアに、いや、と返す。金を隠すためにこんな御大層な地下室はいるのだろうか。
「それじゃあ先頭は俺が」
再び拳銃を構えてカズヤは先導する。
「殿は某に任せよ」
先に行くカズヤに向けてアオエは言った。階段より頼む、声がした。続けて、俺、スキエンティアと後に続いた。
地下へと続く螺旋状の石造りの階段を降りていく。
「…………結構深いな」
壁に手をつきゆっくりと降るが、中々下層にたどり着かない。しばらく歩いて、先頭のカズヤが俺達を制止させた。どうやら下についたらしい。
少し間がありその後にカズヤが手で降りて来るように指示した。それに従い俺たちも地下へと降りたった。
そこはひんやりとした空気と饐えたような臭いのする殺風景な空間であった。ところどころに木箱が積んである地下の、石造りの壁面や天井はさらに続いており、奥に薄っすらと灯りが見えた。
「…………アレだと思うか?」
その灯りを見据えて俺はカズヤに聞く。
「わからん。が、行ってみる以外なさそうだぜ、大将」
カズヤの言葉に俺は振り向く。後ろの二人と顔を見合わせ頷き、振り返ってカズヤの肩を叩いた。
それを合図にカズヤが拳銃を構えて歩きだす。木箱の影に隠れ様子を伺い、こちらに来るように指示し、集まったところで再び木箱を移動する。
それを5、6回繰り返したところでカズヤが俺達を制止した。光源は辺りを照らし、その灯りに立て膝の影が浮かび上がっていた。
カチカチと金属同士が当たる音がする。
木箱の影から顔を出し、様子を伺っていたカズヤが指で俺を呼ぶ。近づいて同じように顔を覗かせると、件の怪盗が黒い重厚な鉄の扉の前で錠前を開こうとする姿があった。
「ビンゴ」
俺は小声で呟いた。
一旦顔を引っ込める。四人顔を見合わせ、カズヤの顔を見る。奴は頷き拳銃を顔の横まで掲げた。次いで、ほか3人同士で顔を見合う。互いに頷き合い、最後にカズヤの肩を叩いた。
カズヤは木箱の影、俺達は並んでその壁側に張り付き、先頭のカズヤが振り返るのに合わせ頷いた。
先頭のカズヤも頷き、
身体を引っ込めカズヤに向けて頷いてみせる。カズヤもこちらを見て頷き、銃を構えて物陰からでた。
「よーし、そこのお前動くな! 手を挙げろ! 動くと撃つぞ!」
錠をいじっていた野郎の手が止まる。
「密談はようやく終わったかい? 動くと撃つというのは弓かボウガンかな? いくら何でも原始的な…………、」
瞬間、火薬の炸裂音。爆炎が辺りを明るくし、銃弾が鋼鉄の扉を叩いて火花を散らした。
「文明的な、原始的な武器だよ」
カズヤは言う。盗人はため息を吐き両手を上げた。
「私の知らない武器だ。君は何処から来たんだい?」
「今もこの後も関係ないね。それより下手に動くなよ。当たり所によっちゃ命の保証は出来ねぇからな」
「そのようだ」
再び怪盗はため息をこぼした。
「上げた手を頭の後ろに。ゆっくりと立ち上がってこちらを向け」
泥棒野郎はカズヤの指示通り両手を頭に回しゆっくりと立ち上がる。そして、振り返った。
こちらを向いた泥棒の顔は、手配書通りの仮面の人物であり、目の前の男は十中八九怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世であった。




