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しんせかい  作者: 日陰四隅
第一章 リンネ
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怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世⑤

 管理局の意向として現在首都を騒がしている怪盗を名乗る泥棒の件に関し、彼をアザーズと断定することは出来ないと判断する。しかしながら、その疑いがあることについて否定することが出来ないこともまた事実である。よって今回、安全保障局治安維持部中央管理課北方班班長ゲオルグ氏の要請に応じ、当局より管理局内部調査部北部管理課第一係ケージ局員の派遣を決定とする。


「じゃねーんだよな、クッソ。アレイル局長、俺のこと便利屋か何かだと思い込んでないか?」


 18:40頃。出された予告状では19:00に現れると宣言している犯行現場の商人シュッセの屋敷の敷地内で、俺は管理局から安全保障局に送られた指示書を読みながらつぶやいた。


「すっかり私設部隊みたいだな、俺達」


 隣で立っていたカズヤが冗談に聞こえないことを言った。


「やめろ、縁起でもない」


 どちらかといえば小間使いだが、どちらにせよいいように使われていることには違いなかった。


「ギリアム老の言った通りでもあるな」


「それもやめろ。つか、あの爺さん。商人の他に予言者として売りだしゃいいのに」


 皮肉っぽく笑みを浮かべて顎をさすっているアオエに言った。ギリアム爺さんの思った通りというのもいけ好かない事実であったが、こうして話の通り俺は件の泥棒を追う羽目になった。


 そしてもう一人。恩義でついてきている一般魔王スキエンティアはというと。


「おっきい屋敷。流石金持ち。商人ってやっぱり儲かるんだね」


 一人観光気分で商人の屋敷を見て感嘆としているのだった。


「貴様ら、随分と余裕だな」


 そんな俺達の様子を見てか、今回の警護主任であるゲオルグが不快そうな表情を隠さずにやってきた。


「協力要請っていっても俺たちは捜査機関じゃないんでな。できる範囲でやらせてもらうよ」


「そうか。それじゃ早速だ。あのウロチョロしている馬鹿をどうにかしろ」


 そういってゲオルグはスキエンティアを指差す。あの野郎興味本位で屋敷にどんどん近づいて、そのまま邸内に入りかねない勢いだった。


 無言で俺は頭を押さえ、溜息をこぼす。そのままダッシュでスキエンティアに近づき、襟首を掴んだ。


「大人しくしていろ。お前は子どもか」


 そのまま引きずってウチの二人と班長殿がいらっしゃる場所まで戻った。


「よし。兎に角貴様らは勝手な行動はするなよ。いいか、私の指示に従って動け」


 ハイハイ、と生返事で返す。こっちとしても治安維持部が指示してくれるのなら願ったりかなったりだ。何せ、俺たちは責任を負わずに済む。


「それに今回は秘密兵器も用意している」


「秘密兵器?」


 悪そうな笑みを浮かべて呟いたゲオルグの言葉を繰り返す。奴はハッとしたようにこちらを見て咳払いした。


「あー、管理局には関係ない事だ。それにあくまで最終手段である。気にしないようい」


 それを言ったら気にしない方が難しいと思うが、おそらく喋りはしないだろうから一応素直に聞かなかったことにする。大体、なんかろくでもなさそうな代物っぽさそうだしね。


「兎に角、時間までは待機していろ。時間が来次第こちらから支持をする」


「はいはい、わかりましたよ」


「おい公僕共!」


 敷地内にそんな不躾な呼び声が響いた。


 声の元は屋敷の入り口からであり、邸内から趣味の悪い恰好をした小太りの男がゲオルグに近づいていた。


「これは、シュッセ殿」


 家主の呼び声に一瞬ゲオルグが疲れたような表情をし、そのままいつもの厳つい表情に戻って男に向けて振り返った。


 近づくこの家の主、商人シュッセは肩を怒らせながら詰め寄るようにゲオルグに近づいた。


「この税金泥棒共が。お前たちのような穀潰し共を、私の敷地を跨がせることは本来ありえないのだが、ふざけた盗人がこの私の資産に手を出そうとしているから仕方なく入れてやっているんだ。誰の金で生活できていると思っている。いいか、絶対に、この私の資産に、指一本触れ指すなよ、いいな!」


 まるで自分がお前たちの主人だといわんばかりの尊大で不遜な物言い。傍若無人を体現したかのような口ぶりはその人間性を如実に表していた。


「よく、理解、しております」


 そんな言葉を浴びせられたゲオルグはシュッセの視線の若干上を見、握った拳を振るわせて中絞り出すように言葉を発した。


「特に、お前のような無能な男なんぞが指揮している隊にこの邸宅の警護を任せている私の寛大さを理解しているなら、賊を取り逃がすような間違いは絶対に起きないだろうな」


 このデブ何様なんだ? まるで自分が王族か何かと勘違いしている男に、俺の穴の空いた堪忍袋から早速中身が漏れ出した。


「おいおい、おっさん。さっきから聞いてりゃなんだテメェ偉そうにしやがって。テメェ何様だこの野郎」


「なんだこの礼儀を知らない男は? 貴様の部下なのか?」


 このクソ野郎はゴミでも見るような目つきで俺を見やがった。


「いえ、その者は管理局から出向しているものでして…………」


「管理局の人間!? 何だって管理局の人間がここにいる!? アザーズと慣れ合ってるような連中が!?」


「いちゃわりーか? お生憎様、安全保障局からの依頼でね。俺もその泥棒を捕まえんのに協力してんだよ。ご理解?」


 聞いて目を丸くする。その後に何か悟ったような面を見せて俺を指差した。


「は! そうか! なるほど! 大方、あの泥棒はアザーズで、お前ら管理局がその泥棒様を逃がそうとしているんだな! それはそうか。あんな珍妙な恰好をしている人間、ホーマーズではないわ。今まであの盗人が捕まらなかった理由がよく分かったよ。お前らのようなアザーズの犬があの泥棒に協力していたからだな!」


 こともあろうにこのクソ親父は人に喧嘩を吹っ掛けないとすまない性格らしい。俺もよくわかった。


 「上等だこの野郎。そもそも無礼な奴に忍耐だどうのっていうのは…………、」


 最初から野郎がその気ならこっちとしても我慢する必要もない。やっすく売られた喧嘩を買ってやろうと思ったら、俺の前にゲオルグが出た。


「シュッセ氏、どうぞご心配なく。この屋敷の警護は完璧です。あくまでもしもの為に管理局の協力を要請しただけで、件の泥棒は我々治安維持部が誓って必ず捕まえます」


 途端、シラけたような顔をするシュッセ。


「ゲオルグ班長、吐いたその言葉、必ず忘れるなよ。私の資産に何か一つでも問題が起こって見ろ、必ず貴様の首を取ってやる」


 奴は吐き捨てるように言うと屋敷に戻っていった。

 

 野郎が視界から消え、ゲオルグは息をついた。


「あんのクソ親父ふざけやがって。つか、アンタもなんなんだ? 言い返せばいいだろうに」


 棒立ちしていた男に言う。ゲオルグは、お前なぁ、と言いたげな顔をしていた。


「あんな男でもこの国の人間だ。困っているのならば助ける。それにあんなのいつもの事だ、気にしておらん。それより、貴様とて食ってかかることはなかろう。そもそも、奴はお前たちに気付いてすらいなかっただろうに」


 なんともご立派な奉仕精神だった。


「そうかい。礼儀知らずにゃ遠慮はするなって教育方針でな。大体、アンタが悪く言われる筋合いはないだろに」


 仕事とはいえわざわざ守ってやってんだ。感謝せずとも悪態をつかれる筋合いはない。


 しかし、ゲオルグはどういう理由か俺の言葉を聞いてキョトンとしていた。


「は? なんだ貴様、私がアイツに散々言われたから奴と喧嘩しようとしていたのか?」


 ゲオルグは呆れていた。


「悪いか? ああいう輩は不愉快なんだよ」


 その言葉を聞いてさらにゲオルグは目を丸くした。


「なんだよそのツラは?」


「素直に驚いている」


「どういう意味だこの野郎。別に普通だろ。俺はアンタのことは嫌いだがアンタの仕事に文句を言うつもりはない。何より、言った通り俺は人に礼を欠くような輩が嫌いなんだ」


 精神性の問題だ。俺は単にあの失礼な商人が嫌いなだけだ。


 だが、俺の言葉を聞いて何を思ったのかゲオルグは思い悩むような表情を見せた。


「…………フン。私も貴様が嫌いだ」


 それだけ言うとゲオルグは去っていった。


「なんだぁ、どいつもこいつも」


 なんでかここにいる連中は人の神経を逆なでするような奴ばっかりだ、そんな事を思っていると。


「アレを!」


 空を指差し班員が大声をあげた。その先に全員の視線が向く。


 シュッセ邸の屋根の上。そこに人影があった。

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