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怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世②

「それはそれと時にケージ。時に巷を騒がせている泥棒について知ってるか?」


 赤らんだ顔のギリアム老が突然そんな事を言い出した。


「泥棒? なんだってそんな話? 俺達と関係ねぇし治安維持部の仕事じゃねーか。まぁ、爺さんならとられるものあるから関係しているかもしれないけど」


 ケージも話の意図がわからずそんな事を言う。脈絡がないにしても余りに関わりのない事柄であるため彼も困惑していた。


 そんなケージの思いとは裏腹にギリアム老は何やら意味ありげな笑みを浮かべた。


「それはそうも言ってられなくなるかもな」


 はぁ、とギリアム老の言葉に生返事を返したケージだったが、あぁ! と反応したのはメアリーだった。


「"怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世"ね!」


 まるで聞き慣れない人名だった。


「え? 何? カイトウ、ルイス、J、なんたら、なんて?」


 一回では覚えきれずにケージはメアリーに聞き返す。僕ら3人は互いに覚えがあるかと顔を見合ったたが、全員首をかしげただけだった。


「だから怪盗ルイス・J・セルリーヌ7世。知らない?」


「知ってる反応に見えた?」


「最近有名な泥棒よ」


 そういう割には我々はこの始末である。ニュースに疎いのね、とメアリーは言った。


「マントを羽織り変わった格好をした仮面の泥棒で、盗みを働く屋敷に予告状と称して日時時間を指定してくるの」


 なんとも律儀な人物である。


「ふざけた野郎だな」


 ケージは言った。まぁ、捉えようによってはそう考えられなくもない。


「そして、必ずその日、その時間に現れて宣言通り商家や屋敷からお宝を盗みだすの」


「普通に犯罪者じゃねぇか」


 そりゃ泥棒なんだから、と僕は思った。ただ、まだあるらしく、それがね、とメアリーは続けた。


「盗んだお宝はあとで必ず返ってくるの」


 そこでギリアム老を除く僕ら全員に疑問符が出た。


「盗んだお宝を返す? 何がしてぇんだ?」


 その怪盗なんとかという人物が泥棒ならば、お宝があるから盗みを働くのだろう。けれども、話からその変わり者は盗むことを目的としているようだった。


「義賊、という訳でもあるまいて」


ふとアオエがつぶやいた。


「義賊?」


「富める者より金子を盗み、貧しいもの分ける者」


「結局泥棒じゃない?」


 そう言われては何も言えぬ、とアオエは肩を竦めた。


「さぁ? それは本人に聞いてみたら」


 肝心のメアリーもそんな感じだ。


「生憎と泥棒の知り合いはいないんでな」


 いてもらっても困る話ではある。


「でも、冒険ミステリーみたいで面白いじゃない?」


「そうかね」


 お気に入りの物語について話すようなメアリーに対してケージいささか冷たい。こっちはまるで拗ねた子供のよう。


「泥棒に嫉妬すんなよ?」


 ニヤけてカズヤがアオエに言う。


「どういう意味だ、この野郎」


 心底不愉快そうにケージは返した。


「しかし、なんだってそんな泥棒が有名かね。盗っ人なんて珍しくもない」


 お気に召していないらしい。


「珍しいでしょう? 不思議な格好、盗みの予告、大胆不敵な犯行。どれも私達の世界じゃない価値観じゃない?」


「馬鹿らしい」


 CAGEは肩を竦めて見せた。


「あら。つまらないのねケージ」


「そりゃそうだ。俺は現実主義者だ」


 よく言うよ、とカズヤは言った。


「だいたい、面白おかしな連中だって今まさに目の前にいるだろう。傭兵に魔王に侍…………、」


「刀持ち」


 似たような姿をするものは侍と呼ばれることが多い。アオエはそれを頑なに固辞する。変なこだわりがあるらしい。


「まぁ、どっちだっていい。あっちには騎士様がいて、この世界は御伽噺にも事欠かさない…………」


 いいかけたところでケージが黙りこくった。その様子を見てギリアムは笑った。


「ケージや。ワシがお前さんの好きなところはその察しの良さもあるんじゃよ?」


「冗談抜かせじいさん。そうそうそんなことになってたまるか」


 嬉々とするギリアム老に心底うんざりしたような表情を見せたケージ。


「なんの話?」


 何か理解したケージがギリアム老と話しているが僕は置いてけぼりだ。そんな様子を見てカズヤは含みのある笑みを浮かべて言った。


「つまり、だ。あの2人はこの怪盗某がアザーズで、そいつを捕まえんのに大将が駆り出される可能性があるって事を話してんだ」


 ああ、と僕は納得する。一連の追い剥ぎ犯の事件の経緯を考えるとそのようになってもおかしくはない星の元にいそうだからだ。


「そうなの? そしたらついでにサイン貰って来てくれるかしら」


 聞いたケージが面白くなさそうな表情をし、珍しくロゼッタが吹き出した。



 さて、その後メアリーは再び管理局へと戻っていった。その後1日ケージの機嫌が悪かったのは想像に難くない話だった。

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